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「幽霊?」
おそらく私は間抜けな顔をしているに違いない。
「そうなのよ」
目の前にはアイヒ、そしてなぜだかラスミア殿下がいる。
なぜだ。
数日後、私はまた王宮に遊びに来ていた。王宮ってそんなに遊びに来るところじゃないよね。よいのだろうか。
ちなみに今回は、アイヒは普通の姿でのお出迎えだ。
「最近侍女たちが、後宮の側妃たちが住む部屋ですすり泣く声がするっていうの」
「それ、風の音とかじゃないの?」
「その日は無風だったらしいですわ。それに・・・・・・」
アイヒの顔色が悪くなる。
それに、なんだ。
「あそこは昔、王に顧みられなくなった側妃が自殺した部屋らしいですわ。それ以来多くの噂の立ついわくつきの場所・・・・・・。火の玉を見たとか、女の人の霊が立っているとか・・・・・・」
アイヒ王女の顔はもう真っ青だ。
「ばかばかしい・・・・・・。幽霊なんぞいてたまるか」
そう言いつつ、手が震えていますよ、ラスミア王子。お茶こぼれますわ。まあ、怖いんだろうね。言わないけど。
「誰か魔法でも使ったのでは?」
「それはない。そもそも後宮では魔法は許可されたものしか使えない。許可された以外の魔法が感知されたら近衛騎士が来るからな」
そんなシステムなのか・・・・・・。初めて知る後宮事情だ。
「幽霊ね・・・・・・」
この世界魔法、精霊、魔族、なんでもありだ。幽霊もいてもおかしくはなさそうだ。そもそも私自身不思議人間だしな・・・・・・・。
「そこで、提案なのですけど」
アイヒが一呼吸置いた。なんだなんだ。
「その部屋行ってみませんこと?」
「「は?」」
ラスミアと私の言葉が被った。まさかこんなきらきらしたお姫様からこんな言葉が出てくるとは・・・・・・。普通、怖がるものじゃないか? さっきまでの青い顔はどうしたんだ。いや、この王女は普通じゃないか。
「何言っているんだ!! おまえ、怖いんじゃないのか!?」
ラスミア殿下の反応の方が普通である。あ、紅茶がこぼれた。
「だってお兄様、幽霊ですわ。いまだかつて存在を噂されながら、証明できていないものですわよ。それに・・・・・・」
不意に科学者のように考え込んだ顔になった。
「それに?」
「幽霊と話ができればもっと多くの人間に化けることができ、演技にも深みがでると思いますわ!」
なんで幽霊に飛ぶんだ。賢者と話に行ってくれ。いるか知らないけど。
幽霊はないだろう。と言うか六歳の女の子が言う言葉じゃない。
「おい、ルーシェ、なんとか言え!」
妹を止めろと目線で言われたが
「面白そうですわね」
「はあ!?」
私は自分で自分の言葉に驚いた。私はなんとなくだがその部屋を見てみたくなったのだ。正直に言うなら、私も幽霊は前世から苦手であった。だって怖いもん。しかし今は全く怖くないのだ。不思議なほどに。何かがあるのではないかと思うくらいに。そこを見るべきだと何かが言っている。
「まあ、ルーシェも参加してくださるのね! 出るのは夜ですし・・・・・・。そうだ! お泊り会をしませんこと!?」
「お泊り会?」
「そうですわ。後宮には部屋は有り余っていますもの」
決まりですわ~。とアイヒ様は叫んでいる。ちょいまて、私は何も言っていない。
「後宮はわたくしでも泊まれるの?」
まず問題はそこだろう。後宮って王様の妃の部屋だよね・・・・・・? いいのか?
「それはもちろんですわ。きゃあ、お友達とのお泊り会ですのね!!」
アイヒ王女は肝試しよりもお泊り会でテンションが上がっている気がする。まあ、お泊り会ってテンションあがるよね。
「お父様の許可もいるので、まだ喜ぶのは早いですよ。・・・・・・後は陛下や王妃様の許可もいるのでは?」
「それなら任せて! お母様だっていやなんて言わないわ。リスティル家の方を招くのだもの」
「それではよろしくお願いしますね。・・・・・・ラスミア殿下?」
なんだか黙りこくっているラスミア殿下がいた。顔が赤くなったり青くなったりしている。
「とまり・・・・・・」
わけのわからないことをぶつぶつとつぶやいている。気でも触れたのかよ。医師を呼ぶか?
「ラスミア殿下!?」
「な、なんだ」
「大丈夫ですの?」
「も、問題ない! とにかく日時が決まったら俺に教えろ!」
と、顔を赤くして言ってきた。
「お兄様何するおつもりなの!?」
アイヒ王女が反応する。何に反応したんだ・・・・・・。
「ば、馬鹿者! 何もしない! 肝試しをするんだろうが! 女の子二人だけで行かせられるか!!」
ああ、なるほどね。妹姫が心配なわけだ。こういうところは紳士だと思う。
「なんだ、つまらないですわ。それにヨシュアや、ルカについて来てもらうから大丈夫ですわ」
つまらないって何の話だアイヒ様。
ちなみに、彼らは今隣室にいる。テーブルにあるお茶はヨシュア、ケーキはルカの役割分担だ。ケーキうまい。
今日、ルカとヨシュアを会わせたら、突然二人はガシッと手を握り合った。私たちはわけがわからなかったが、家事男子? として何か共通するものがあったのかもしれない。
放っておこうということになった。
真相は闇の中だ。
***
その夜私はまた先視の夢を見た。わけがわからなかったけど。
「助けて・・・・・・」
また、この夢・・・・・・。あたりにいる子供の髪は皆真っ黒だ。私はあたりを見渡した。ここはどこなのか。そこは普通の部屋だった。ベッドは人数分ある。ただ、窓は見当たらない。音も聞こえない。地下室のようなところだ。今が夜なのか昼なのかはわからない・・・・・・。
男の子が一人自分の前にいる。その子の顔を見ようとしたときその子が顔を上げる。その子が見ている方向を見ると、頑丈な扉が開いた。
誰かが子供を連れてきて投げ入れた。
「あ・・・・・・れは・・・・・・」
どこかで見たことがある顔だった。




