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いつも読んでくださってありがとうございます。
私はアイヒに手を引かれて近くの部屋に飛び込んだ。
どうしたのだ。何があったんだ。私はなすがまま隠れる。
コツコツ、と靴音が聞こえる。2人?3人?どうやら1人は別の方向に歩いて行ったらしい。後の2人はこちらの方向に来るようだ。
「・・・・・・・・」
3人とも無言だ。ドキドキと自分の心臓の音が聞こえる。
なんで隠れたんだ?
そのとき、少しだけ開いたままにした扉の前で足音が止まった。
ドキーーーっ!!
アイヒ王女の体が固まる。私もビビる。ばれた?いや、そもそもあの人だれ。なんで私が隠れているんだ。
私はわずかな隙間から覗き込んだ。
見えたのは恰幅のいい男だった。聞こえはいいけど、頭は少々はげかけで、腹が出ているメタボ。ボタン飛ぶんじゃねえの?と思うくらいだ。着ている服は派手で手には宝石をつけている。一言でいうなら成金・・・・・・趣味悪。
歳は40歳を超えているだろうか。おじい様の方がかっこいい。怖いけど。
もう一人は陰に隠れて見えない。
「王妃様のお加減はどうでしたか?」
見えない男が言葉を発した。まだ若い声だ。
「どうもこうもない。王妃様も次の子を妊娠中だからな、少々疲れているんだろう」
「お孫さんがまた一人増えますね・・・・・・」
妊娠中!!!?おめでたいけど・・・。少子化の中で育った自分としては驚きの方が勝る。
と言うかまてよ。お孫さん?
え、もしかして。と、アイヒ王女を見る。アイヒ王女は顔をしかめている。後ろのヨシュアを見ると、こくっとうなずかれた。
つまりあの人はアイヒ王女の・・・・・・。
え、本当に?
その時だった。
ぎぃっ
どきっ、心臓がはねる音が聞こえた。
体重をかけ過ぎたのか扉の留め金の音がした。
「なんだ?」
こちららの方を2人が見る気配がするヤバい。いや、やばくないか。それでもこっそり聞いていたというのが後ろめたいのだ。
その時タイミングよく外で風が吹いた。
「ああ、風ですね」
と、私達がいる扉をもう1人の人物が手で閉めた。
その後の会話はとぎれとぎれだ。
しばらくして足音が去って行った。1人だけ。
「はあ~~」
アイヒ王女が息をつく。しかし、まだ1人気配が残っているのだ。
「アイヒ!まだ一人!」
小声で言ったが間に合わない。ドアのむこうにいる人間はおそらく誰かがいることに気づいていたのだろう。
ガチャと扉が無情に開かれた。
「!!!」
「おや、こんなところにかわいらしいレディたちがいる」
そこにいたのは、優しげな容貌をした父と同じくらいの年齢の男性だった。
誰だお前。
正直言って貴族の顔など知らない。そもそも今まであったことがない。
「バールトン伯爵。」
バールトン伯爵・・・・・・。バールトン?聞いたことないや。そもそも貴族様の名前を私は知らない。でもそのうちマナーの授業で出てくるんだろうな。めんどくせ。
「おやおや、これはアイヒ王女。ご機嫌麗しゅう」
彼は優雅に一礼した。そして今度は私を見た。
「こちらのレディは初めてお会いするかな」
「あ、わたくしはルーシェ・リナ・リスティルです」
と、ドレスをつまんであいさつした。挨拶大事。
すると彼はリスティル、とつぶやいた。
「ああ。リスティル元帥がかわいがっているという噂の姫君だね」
お父様、いったい何を職場で言っているのかしら。噂ってなんだ、いったい。聞きたい気もするが聞きたくない。
「しかしレディたち、なんだってこんなところで隠れていたんだい?」
「えっと・・・・・・」
困った。なんで隠れたかわかんないし。ちらっとアイヒを見る。
「たいしたことではないわ」
アイヒ王女は横を向いている。どことなく機嫌が悪い。この人のことがあまり好きではないのか?
そんな様子を見て伯爵は困ったように肩をすくめた。
「おやおや、王女様はご機嫌ななめかな。困ったものだよ、ねえ、ルーシェ姫」
「ええと・・・・・・」
私に聞かれましても、どうすればいいのかわからない。アイヒは顔をそむけたままだし。
「やれやれ、これ以上機嫌を損ねたくはないからね、今日はこれで失礼しようかな」
彼はやれやれと言った風に肩をすくめた。
「でも、好奇心は身を滅ぼすよ。次からは気を付けてね。ここは魔窟だよ」
別に好奇心ではないんだけどね。一応その忠告は覚えておくことにする。
そう言って手を取られ、チュッと手の甲にキスすると去って行った。私はあっけにとられて、その後ろ姿をぽかーんと見送った。
ロリコン伯爵!!と叫ばなかった私を誰か誉めて。
「・・・・・・」
アイヒ王女はそっぽを向いたままだ。
「ヨシュア、あの最初の恰幅のいい方って・・・・・・」
私はとりあえず疑問を解決することにした。
「アイヒ様のおじい様です。アイヒ様はあまり得意ではないのですよね」
「・・・・・・見たまま、気持ち悪い」
吐き捨てた。いや、おじい様をそんな風に言っちゃだめだよ。
「ルーシェ様、誘っておいてなんだけど、今日はお母様には会えないと思う。お部屋に戻りましょう」
そう言って手を引っ張られた。なんでか聞きたかったが、聞けるような雰囲気ではなかった。
「ルーシェ様のおじい様みたいに素敵な方がよかったわ」
今度は庭に出た。そよ風が吹いて気持ちがよい。
「そうですか?」
素敵、うん、顔が怖いかな。まあ、あんなにお腹は出ていないことは確かだ。
「あの人、趣味悪かったでしょう」
「うーん・・・・・・」
確かに成金って感じだった。まあ、あまり自分の身内として数に入れたくないかもしれない。
「もとは母の家系は伯爵だったの。母が王妃になるときに侯爵に格上げされただけ。別に頭がいいわけでもなんでもないあの人が侯爵なんだから笑えますわ」
ものすごく辛辣だった。
「嫌いなのね」
「そうですわ。・・・・・・お父様の妃がお母様しかいないことをいいことに好き勝手し放題、お兄様が王位についたら真っ先に外戚に収まるつもりですわ」
うーん。確かにあの人権力欲強そうだったなあ・・・・・・。でもあのラスミヤ殿下が好き勝手させるとも思えないが。そもそも、現王はまだ20代後半だ。王位を譲るのだってまだまだ先のことだろうに。
「バールトン伯爵は?なんだか親しげだったけど」
するとますます、忌々しげになった。バールトン伯爵、何したんですか!!
「あの方?なんだったかしら?」
いや、ちゃんと覚えてあげてよ。するとヨシュアが答えてくれた。
「伯爵は凄腕の医師なのです。アイヒ様、失礼ですよ」
ヨシュアが遠慮なく苦言を呈した。
「だって、苦手なんだもの。腕はいいわ。お母様の専属医の後継者とも言われているから。確か学園の医師としても時々顔をだされているのよね」
「ええ、時々お見かけしますよ。かなり人気です」
「ヨシュア様は学園に通われているのですか?」
私は驚いた。アイヒの従者だから、学園には通っていないのかと思っていたのだ。
「時々ですが、基本このわがままアイヒ様のそばにいます。恐れ多くも陛下が専属の家庭教師をつけてくださいましたから」
「誰がわがままよ!」
「それはすごいわ。優秀なのね」
この二人がケンカする前に割り込む。あの陛下じきじきと言うことはかなり将来を嘱望されているに違いない。彼はどこの家の出身なのだろう。
「そんなことありませんよ」
「そうよ、図に乗るから誉めちゃだめよ!」
2人の口げんかが始まった。




