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いつも読んでくださりありがとうございます。
わたくしはアステリア王国現国王の第三子、第一王女として生を受けた。
物心ついたときお城に劇団が興業にやってきたのだ。その時の衝撃は忘れられなかった。女が男の役をして、一人で何人もの役をこなす人間もいた。私は最初全く気付かなくて、言われた時にとてもびっくりしたことを覚えている。私もあんなふうにお化粧したい、変装したい、そう思ったのだ。
その日から私はさまざまな衣装をとっかえひっかえした。いろいろ教えてくれた人もいたしね。
お父様もお母様も笑って許してくれたし、お兄様も仕方ないなって顔で許してくれた。特に私はお兄様とは顔がそっくりだったので、お兄様にそっくりに化けることができた。お兄様の前にお兄様とそっくりに変装して飛びでたときすごい驚かれた。そっくりだってみんな言ってくれたのだ。私は嬉しかった。
私も大きくなるにつれてたくさんの貴族の令嬢たちとお会いした。みんなニコニコほほ笑んで私のお話を聞いてくれた。特にお兄様の格好をしてあらわれるとみんな喜んでくれた。
でもあるとき私は聞いてしまった。
「面白くないわ」
「つまらないわ」
「ラスミア様の格好の時はときめくけどね・・・・」
私の心に痛みが走った。私が一生懸命話したことは誰も喜んでくれるのものではなかったのだ。
その日から私は唯一喜んでくれたお兄様の格好ばかりして遊んだ。誰も気づかなかった。家族以外、メイドだって、私のことをわからなかった。
ヨシュアが私のそばについたのはちょうどこのころ。
「アイヒ様、つまらないのでやめてください」
あの子達と同じことを言われた。とんでもなく無礼な奴。私はそう思った。でも私はむしろすがすがしい気分になった。だって、彼は陰口じゃなくて直接言ってくるから。その裏表のなさが心地よかったのかもしれない。
私はこのころから貴族の女の子と会うときはほとんど自分の好きなことの話はしない。ニコニコとお話をしているだけだ。
最近お兄様の機嫌がすこぶるよい。どうやらリスティル公爵家長子とケンカの仲直りができたらしかった。
名前は確かルーシェ姫。なんでもとても美しく強い姫らしいとの噂だ。私と同い年なのにこんなに違うことに少々悲しくなった。
「アイヒ様。実は私にはアイヒ様と同じ年の娘がいるんですよ。会ってみませんか?」
「元帥の娘?」
ある日アドルフ元帥が声をかけてきた。
「そうです。きっとアイヒ様のご趣味を知っても変わらないでいてくれる子ですよ」
「・・・・・・」
「そうですねぇ、ラスミア殿下の格好であってみましょう。・・・・・・あの子はきっとあなたの変装を見破りますよ。いかがですか?」
その時はそんな言葉信じていなかったけど、元帥がそこまでいうルーシェ様に会ってみたくなった。
「わたくし、ルーシェ様に会ってみたいですわ」
***
アドルフはアイヒの一件が落ち着いた後、王の執務室前にいた。ノックもせずに扉を開ける。
「君、ノックぐらいしなよ。私は仮にも王様だよ」
「仮にもじゃなくて、本物だろうが」
国王は本物って思っているならもっといたわってよと思ったが、懸命にも口には出さなかった。
「ルーシェ姫の前と全然態度違うよね・・・・・・。見せてあげたいよ」
娘の前では信じられないくらいのデレデレの男だが、この男もリスティル。戦場では鬼の子と呼ばれる敵には一切容赦のない男だ。
「おい、今日のことだが」
「ああ、問題ないよ。むしろいい方向に向いているからね」
こいつがこんなにあわてる(まったくあわてているようには見えない)のはたいてい奥方か娘のことに関してだけだな・・・・・・。
「ほお」
「だってお姫様の行動は間違ってないからね。護衛が影武者との区別つかないなんて最悪だ。むしろ、仕方ないっていう、今までのぬるーい空気から脱却できそうだからラッキーだよ。騎士団長とか、なんでかメイドたちまで気合入っているんだよね。むしろ感謝感謝。しかし、風で視てて思ったけど、ほんとルーシェ姫ってリスティルだねえ。驚いたよ」
アドルフはそれには答えなかった。忌々しげに眉をひそめている。
「ギャーギャー言うバカはいたのか?」
王はリスティルに頼りすぎている。リスティルの言いなり。そう言って突っかかって来る貴族は山ほどいる。今回のことで我先にと文句を言ってくる奴は多いだろう。ルーシェにはそんな声を聞かせるつもりはさらさらないが。
「言ったら言ったでむしろ自分たちはあやしいでーすって叫んでっるようなもんだからね。むしろ歓迎歓迎。・・・・・・そんな目で見ないでよ」
「・・・・・・」
戦場では絶対会いたくない鬼の顔がそこにはあった。
「・・・・・・いたよ。大体叩けばほこりがて出てくる奴がほとんどだから、領地だの爵位だの取り上げたらいいんだけどね。・・・・・・取り立ててほしいなら、まともな人材作ってよこしてほしいね」
そう言って宰相が作ったリストをアドルフに差し出した。
ちなみに彼は今回のことで吐血した。
「あんまり敵を作りすぎるのもよくない。・・・・・・後宮に王妃様しか入れていないからな」
でも、奥方が王妃一人の王は、庶民たちからの評判は良かった。
娘を後宮にいれたい貴族たちからの嫌味はすごいが、一部のご婦人たちからの支持は高い。
「子供六人いて皇子三人もいるんだよ? 今更側妃に入られても子供なんて作る気ないし、できても上三人も殺さなきゃならないから意味ないと思うけどな。大体、王妃以外興味ないんだよね。そばにもいてくれない夫なんて嫁いでもかわいそうなだけだろうけどな・・・・・・」
王は他人事みたいに「ははは」、と笑った。こいつの王妃様好きもたいがいだなとアドルフは思う。王妃には悪いことをした。
確かにあちらこちらの妃と子供を作って、王位争いに発展しても面倒なのは確かだ。現にそのことでこの国も大荒れしたことがある。いれないのはいれないで 貴族たちの扱いが面倒になるのだが。
「全くいないわけじゃないだろうが。馬鹿の考えることは理解できないからな。・・・・・・殿下たちの護衛は増やしとく。特に第一王子の立太子前は危険だ」
「うん。だからこそ、本当にルーシェ姫には感謝しているよ。・・・・・・凶相に生まれた姫様だけど大丈夫そうだね」
ま、誰にとっての凶なのかまだわかんないけどね。
「凶相って言ったって、うちの家はそのものが血塗られた負の家だからな。一族そのものが最凶だ。ルーシェに限ったことではない。・・・・・・マリアや母上も似たようなものだから余計に相が強いかもしれんが・・・・・・。それでも、もしものことなど起こさせない」
それに、自分自身も、褒められた相ではない。
「それもそうか。歴代最強の布陣がそろっているもんね~。いやー、持つべきものはいい臣下だ」
「今すぐ反逆したくなってきた」
「それは困るよ。うちの子たちの後見誰がしてくれるのさ」
「あの方が名乗りを上げてくれるのではないか?」
「冗談いわないでよ。国が滅ぶ」
「・・・・・・本当はどうでもいいくせに」
「・・・・・・」
王は笑みを浮かべたまま答えなかった。




