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どうも皆様。わたくしルーシェ・リナ・リスティルですわ。今少々驚いていますの。
帰宅した父に呼び出されたと思ったら、とんでもないことを言われた。
「はあ? 王女殿下が会いたがっている!?」
思わず素で話したが、誰も気にしなかったようだ。内容の方がすごかった。
「そうそう、第一王女アイヒ様だよ。ルーシェとは同い年だね」
そう言えばラスミア様がそんなことを言っていたなあ。すっかり忘れていた。
「私は王女様の遊び相手になるということですか?」
今現在、第一王子にラスミア様八歳、第二王子様七歳、第一王女様六歳と続く。割と似た年代が多い王室である。私の立場のこともあるし、いつかそんな話は来るかもなぁと思ったが・・・・・・。うーん、困った。この年代の女の子って全然どんなものか想像ができないんだよな。私はある意味規格外だし。何を話したらいいのかわからない。
「たぶんそうなんだろうけど、なんでもラスミア殿下がルーシェのことをアイヒ様に話したら、自分と同年代なら会ってみたいとおっしゃったんだって。ルーシェもお友達はほしいだろう? だから、いいよ、連れてきますって言ってしまってね」
いいよじゃないですよ。いや、お友達がいないのはさみしいと思うときはあるけど・・・・・・、付き合いは長くないんだよ。かわいそうじゃん王女様が。
「わかりました。それはいつなのですか」
いいと言った以上、断るわけにもいかないだろう。
「明日」
「は?」
「明日」
「早くおっしゃってください、お父様!!」
何のんきにさらっと重要なこと言ってんだ。こっちには心の準備がいるんだよ!!
「そんなに緊張しなくても」
「お父様、わたくしとしては何を話せばいいのかさっぱりわからないのですよ! 着ていく服も準備していません。お土産すらも!! この重要性お分かりですか!!」
「あ、そうだね。お土産は何とかするから。まあ、落ち着いて。もうメイド達に話は通しているから」
と言われ、内心げっと思ってしまった。部屋に戻りたくない。が、戻らないわけにもいかない。
「お土産お願いしますね」
と私は言うととぼとぼと部屋に戻った。戻った瞬間に回れ右したくなったのは言うまでもない。ものすごいオーラを発した悪魔、じゃないメイド達が武器を持って構えていたからだ。
***
王女様に会う日、とにかくグレンがぐずった。それはもうひどかった。二歳になったグレンはそれはそれはかわいらしく育ったのだ。天使そのもののような顔で「あねうえ様、行かないで」と目を潤ませ言われ私は行かないわ、と言いそうになった。
何とかお母様の手であやされたが。ちなみにお父様とおじい様はグレンを抱こうとした瞬間にさらに大泣きされ、おばあ様に部屋から蹴飛ばされた。
馬車の中で、かっこいいはずのお父様は沈んでいた。グレンに拒絶されたことがショックだったらしい。
「お父様、平気ですか?」
「・・・・・・どうして僕にはなついてくれないんだろう」
ズーンと効果音が付きそうなくらいだ。
「さあ・・・・・・?」
さすがにこればっかりはわからない。おじい様は顔が怖いからわからなくはないのだけれど・・・・・・。
「王宮ですか・・・・・・」
「あのくそ、ごほっ、生意気な殿下に謝られて以来だね」
今、なんと言いましたか。お父様。聞かれたら死刑になりそうなことを言いかけましたよね。そして、結局バカにしてますよね。
最近お父様の本質が見えてきた気がする。
「そういえば・・・・・・、アイヒ様はその、どのような方ですか?」
また、殿下二号の様だったらどうしようかと思っている。さすがに王女様がそれはないか・・・・・・。
おそるおそる父の方を見るとなぜか微妙な顔をしていた。
「うーん。あの子は別に生意気ってわけではないけど・・・・・・。ちょっと変わっているかな。と言うか直接会った方がよくわかるよ」
「お父様、それどういうことですか」
変わってる王女様ってなに!? 怖いんですけど!
「やさしい子ではあるから大丈夫。たぶんルーシェとは馬が合うと思うんだよね」
***
王宮の王族が住む後宮に直接通じる門の前に馬車が着く。
「おや、どうやらラスミア殿下のお出迎えらしい」
門のど真ん中には護衛を後ろにつけた殿下がいた。しかし、どこか変な感じがした。なぜだろうか。
私は不思議に思いつつ、お父様に手を取られて馬車を降りた。
「来たか。おそいぞ」
いつも通り偉そうだ。
「申し訳ありません、でも時間前の到着ですわ」
憎まれ口は変わらないらしい。が、どこか変だ。何か分からないけど。
私は殿下が前を歩きだす姿をじっと見つめる。
――――私は理解した。
私はお父様の剣を奪い取って、ラスミア殿下の首筋にあてた。護衛が反応するが、遅すぎると思った。クラウス師匠の方が早い。
「これはどういうことだ!! 第一王子に刃をむけるか!!」
護衛が叫ぶ。これは謀反か! と。
お父様は何も言わない。
え、うそ。と私は思った。これは私を試すためなのかな、と思ってやっただけなのに。
こいつら、本気で気がついてない。
私は少しばかり情けなさを感じた。
そして、息を吸い込む。
「黙れ!! 間抜けどもが!!」
おばあ様がおじい様を怒るときのことを思い出して怒鳴り返した。
あ、結構声量出た。歌の訓練のおかげか。騎士さんがひるむ。おいおい、しっかりしてください。私子供ですよ?
「これは殿下ではない!! 護衛騎士の癖に、守るべき主君すらわからんのか!!!」
「!!!!」
騎士たちが絶句。
私は前の殿下を見る。両手を上げたまま、微動だにしない。そのまま崩れ落ちた・・・。
崩れ落ちた!!!?
「ご、ごめんなさい」
殿下の顔をして泣いていた。ウワ、鳥肌ものだ。姿かたちだけならかわいらしいが、殿下の性格からして気持ち悪い・・・・・・。
え!? 泣いている。
私も私で急激に頭がさえてきて、おろおろした。あわわ、泣かした。
「ああ、なるほどね。ルーシェ、剣を下して。大丈夫だから」
お父様は場の空気に似合わない穏やかな声で、私の剣を取り上げた。
「一体何事だ!?」
向こうから走ってくる人影が見える。それは殿下と護衛であった。