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17.

助けて、助けて、お母さん。お父さん。僕たちはここにいるよ。誰か・・・・・・。

子どもたちの泣く声が聞こえる・・・・・・。みんな鉄格子の中に入れられて、必死で助けを求めている。

どこなの、ここはどこ? 助けて・・・・・・。

そんな声がずっと聞こえる。

でも不思議だった。その子どもたちはみんな髪が黒かったのだ。

「今の夢・・・・・・、なに?」

私はベッドから起き上がった。まだあたりは薄暗い。夜明けまで時間があるのかもしれない。

久しぶりに未来が見えたが、いったい何を示しているのかよくわからない先視だった。そして気になることがもう一つある。

「黒い・・・・・・髪?」


***


ごきげんよう、皆さん。ルーシェ・リナ・リスティルですわ。あれから早いもので私八歳になりましたの。この二年の間で知識も増え、剣の腕も上達したし、着実に家出スキルが上がってきている。しかしまだ知らないことも多いから、目標の四年後までにどうにかしようと日々奮闘中だ。

グレンはもう二歳。私のことをあねうえ様と言って慕ってくれる。

私は家の書庫室に来ていた。もちろん今日の夢に出てきた黒髪について調べるためだ。

あの夢の共通点はみんな黒い髪をしていたことだ。前世では見慣れた色だったが、この世界に生まれついてからまったく見ることはなかった。メイドたちの中にも暗い茶髪はいても、黒髪はいない。勝手に黒い髪の人間がいないのかと思っていたが。夢の子どもたちは黒髪だった。人種間の違いか、それとも別の意味があるのか、この世界のことを知るためにも調べておく必要があると思った。

書庫室は地下にあるのだが、屋敷の端から端までぶちぬかれており、ものすごく広い。

前世で近所にあった市立図書館並みに蔵書がありそうだ。恐るべし、リスティル家。

分厚い本を何冊か本棚からとってきて、近くの机の上に置いた。

「黒い髪・・・・・・」

私はぺらぺらと本をめくる。

黒い髪で調べて、まず出てくるのは魔族だ。

魔族は私たちと同じ大陸に住んでいる別種族だ。大陸の中央近くには背丈が異様に高く魔力に富んだ樹木が生い茂る魔の森と言われる樹海が存在し、そこを抜けると魔族たちが住む都市があるという。

ちなみにこの国は魔の森と国境が接していて、私は衝撃を受けた。

でもあの子どもたちは魔族には見えなかった。魔族の見かけは人間とほとんど変わらないが、たいてい耳がとがっている。夢の子どもたちは普通の耳の形をしていたので、人間の子どもたちに違いないと私は思っていた。しかし・・・・・・。

「全然見つからない・・・・・・」

今私の目の前には自分の背丈以上の本が積みあがっている。探してもほしい情報の書かれた本は出てこない。

くっ、今日に限ってルカがいない。あの有能な従者は今日は師匠に連れられて出かけている。なんでだ?私がこの世界のことを知らないだけで、実は普通なのか?日本みたいな東洋の国が世界のどこかにあって、その光景を見ただけ?でもみんな黒髪で鉄格子のなかに入っているなんておかしいだろう。泣いていたし。ええい、どこにあるんだ。


その時だった。

ぎぃぃぃぃ

扉が開く音が聞こえた。

思わず机の下に隠れてしまった。別に書庫への立ち入りは禁止されていないがなんとなくだ。

コツコツと硬い靴の音が書庫に響き渡った。

結構怖い。ホラー映画の一幕のようだ。

「ルーシェー? どこだーい?」

でておいでー。一瞬体がびくっとなった。

猫なで声が気持ちわる・・・・・・、いや、変ですよ、お父様。

どこのホラー映画ですか。

出て行きたくないと思ったが、このままでは永遠に名前を呼ばれる恐怖体験を味わうことになりそうなので、早々に顔を見せる方が得策だろう。

「お父様、どうされたのですか」

「ルーシェ、そんなところにいたのかい?」

「ええ、ちょっと」

反射的に隠れました。

「何か調べていたのかな?」

父は机の上に置いてあった本を手に取った。

「ええ・・・・・・と。はい」

ごまかすにも本は父の手の中だ。

「なになに・・・・・・。ルーシェ、魔族に興味があるのかい?」

いや、たぶん魔族ではないんですが。言っていいものかと迷いつつ、正直に話すことにした。

「ああ、ええ・・・・・・。えっと、黒髪について・・・・・・ちょっと・・・・・・」

すると、お父様の雰囲気が一気に変わった。

何かまずかったのか。

「どうしてだい?」

お父様は笑顔だが怖い。とにかく怖い。

「あの・・・・・・、この前その・・・・・・、馬車に乗っていたときに、黒い髪の子が見えたのです」

嘘だ。

私は頭をフル回転した。ニコリと笑い、それらしい理由をこしらえた。

「私は銀髪だし。メイドたちにも黒い髪はいないでしょう?だからどこの国の子なのかと思いまして」

「そっか・・・・・・。別に特定の国の人種というわけではないよ。数はかなり少ないけれどちゃんとこの国にも、黒い髪の子はいるよ」

お父様の笑顔から硬さが取れ、緊張が一気に解けた。

「そうなのですか?」

「そうだよ。そうそう、グレンがぐずってメイドたちが困っているんだ。どうにもルーシェじゃないとあの子はだめみたいで・・・・・・」

マリアは今家にいないんだよと、途方に暮れた顔をした。

「あらら」

お母様がいないとなれば私が出動するしかない。しかし、その話はおしまいとばかりに話題を変えられたな。お父様の態度から察するに、あまり触れてはいけない案件のようだわ。

「グレンも困ったものですわ。とりあえず、部屋に行きますね」

そう言って本を元の場所に戻そうとした。

「いや、お父様がやっておくよ。早くメイドたちのところに行ってあげて。きっと今てんやわんやだから」

「ありがとう。お父様」

確かに今頃阿鼻叫喚だろうなと思う。


アドルフはルーシェが去った後、本をぱらぱらっとめくって、閉じた。

「この本を短時間で読み解くか・・・・・・。やれやれ、誰に似たのやら」

アドルフは目を閉じた。


***


「グレン!」

「お嬢様!」

グレンはえぐえぐと泣いている。メイドたちは私を救世主のような目で見ていた。どうやら久しぶりに泣き止まない事態になったらしい。いったいなにがどうしたんだ。

「あねうえ様・・・・・・」

大きな瞳に涙を浮かべている。天使かよ。かわいいな、おい。

「グレン、どうして泣いているの」

私はグレンを抱きしめた

「変なのがいた~」

そう言ってグレンは空間をさすが、何もいない。え、こわっ。何それ。

「何もいないわよ」

するとグレンはそのかわいらしい顔をしかめた。

「なんかおかしいのがいたの。さっきまでいたの」

おかしいのってなんだ。

メイドたちを見ても困った顔をしている。

「私たちも何が何だか」

子どもだけに見える不思議なものなのか?

私も子どもだけど何も見えないぞ。精神年齢を加えられると困るけど。

とりあえずグレンをなだめることにした。

「おかしいのがいたのね。グレンは何かされたの?」

「えっとね、グレンを見ていたの」

何それ。ますます怖い。え、幽霊? それとも四つの魔法すべてを使えるグレンの能力に関係があるとでも?

「グレンを見ていたのね。何かされた?」

「ぼく、こわかったの・・・・・・」

どうやら何かされたわけではないが、怖くなって泣き叫んだらしい。正直言ってわけわからんが、殺し屋に殺されそうになったわけではないようだ。

「そっか、怖かったのね。でも大丈夫よ、今度出てきたら言いなさい。お姉さまが追い払ってあげるわ」

「本当に? あねうえ様つよいの?」

「そうよ~。姉上だもの」

と言いつつ、幽霊だった場合どうしよう。剣はすり抜けるよね。でも、姉としての威厳もあるため、適当なことを言った。まじで何を見たのか。知りたいような、いや、やはり知りたくない。

この時グレンが見たものを知ることになるのは、少し先の話だ。



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