15.
「お父様!」
「アドルフ様!?」
私とラスミア殿下が驚く中、陛下はわかっていたかのように、笑って挨拶した。
「やあ、アドルフ」
お父様はめったに見ないくらいに息を切らしていた。王宮から馬を飛ばしてきたのだろう。金の混じった綺麗な茶髪が乱れまくっている。
「やあ、じゃないだろうが!!」
勢いあまったお父様は、剣を振りかぶろうとしたが、後ろからついてきた部下たちに羽交い絞めにされ、止められた。
「アドルフ様! 落ち着いてください!! さすがにまずいですから!!」
「はなせ!! 今日こそこいつにモゴッ~」
途中で部下の一人に口を塞がれた。
お父様、今ヤバいこと言いそうじゃありませんでした?
お願いやめて、私、反逆罪で死にたくない。
「あはははは」
当のキレられた本人は面白そうに笑っていた。
とにかく阿鼻叫喚である。
「落ち着いてください!! 一応国王陛下ですから!!」
一応って。護衛騎士たちもしっかりとひどい気がするのは私だけだろうか?
しかし、なんとなく彼らの様子と今日の国王陛下の対応を見ていると、苦労しているんだなと思えてきたので仕方ないかもしれない。
「そんなに怒らないでよ。悪かった。でも、お前が悪いんだよ。全然子どもたちに会わせてくれないから・・・・・・」
「お前みたいなヤバい奴子どもたちに会わせられるか!! ルーシェ、何もされていないか!?」
「ええ、何も」
いや、そんな化け物じゃあるまいし、何もされないよ。
「ケガは!?」
「していませんわ。大体陛下が私にケガをさせるわけありませんわ。お父様、失礼だわ」
「え!!? ああ、それもそうだね」
目が明後日の方向を向いていた。
お父様、慌てすぎですわ。何かあったって言っているようなものですよ。
私はさっきからずーっと気になっていた。グレンが泣いて、お父様が突入してきたから、うやむやになっていたけど。
何かが割れた音。お父様の狼狽えぶり。さっきから妙な気配を感じるのよね・・・・・・。こう、肌がちりちりってする。
今日、何か異変が起こることは視えていなかったから、わからないけど。
「聞いたか、アドルフ。ルーシェ姫のこの優しさ。お前も見習おうよ」
「お前こそ見習え。お前のせいで、ラスミア殿下の本物の護衛と近衛騎士の連中が自決しそうだ!!」
「む。それは困るな。彼らは悪くない」
「なら、ちゃんと護衛を連れて行け!! どうせルーシェにしたってグレンにしたって成長した暁には、お前やラスミア殿下の時代に仕えるんだからな。これからいくらでも出会う機会はある」
「そんなのわからないよ?」
ぎくり。ええ、そうですわね。私は離脱する気満々です。
「お前な・・・・・・」
お父様は頭を抱えていた。
「大体、この屋敷にいて危険な目に合うなんて、ありえないだろう」
「そう言ってもお前は王だぞ。それがなんで息子王子の護衛なんぞやっているんだ」
「わかっているよ。悪かった、悪かった。そろそろ帰ろうか、ラスミア。うるさくし過ぎた。今日はありがとう、ルーシェ姫」
「いいえ、本日はお会いできて光栄でしたわ、陛下。ラスミア殿下も。今度は先触れを出してくださいね。そしたらおいしいお菓子を用意しておきますわ」
「なんでお菓子なんだ」
少々むくれられた。可愛いだけで全く怖くないが。
「あら、お嫌いですか?」
「そうじゃなくてな? まあいい。あの従者、結局帰ってこなかったな。今度は手合せだな。伝えておけ」
確かに結局ルカはあれから帰ってこなかった。どうしたのか。まさかケーキを焼きはじめたわけではあるまい。
「今度は王宮に来い。お前と同い年の妹もいるんだ。紹介してやる」
「あら、お願いしますわ」
いやだよ、面倒だし。と本音では思った。
「ふふっ」
見ると陛下が意味深に笑っていた。え、人の心読めるの? 違うよね、違うよね。
「父上?」
「いや、なにも。ルーシェ姫、ぜひ来ておくれ」
「・・・・・・よろこんで」
ニコリ。笑顔は引きつっていないはず。