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お父様は苦労性の方です。
「だ、だめです。どこにもいません!!」
部下たちからの悲痛な叫びが聞こえた。
どうも、こんにちは。俺の名前は気にしないでくれ。今、俺はアステリア王国王城で近衛騎士をやっている。簡単に言うと、王族を守る護衛だ。そして俺はこの時間恐れ多くも国王陛下を守る役割を仰せつかっていた。
現国王は素晴らしい人物だ。血筋にこだわらず実力主義を掲げた人間でもある。俺のような下の下の貴族が名誉ある騎士になれたのもひとえにかのお方のおかげだ。現在の騎士団では平民や、俺のような下級貴族が多い。上級貴族もいるが嫌味な奴はいない。全部追い出されたのだ。
話は変わるが、俺には尊敬する武人がいる。それは王の剣の一族リスティル家当主代理アドルフ元帥である。厳しくはあるが決して理不尽なことはしない。すべてを平等に扱う尊敬すべき方だ。
かのお二方は幼いころからの仲らしく、よく王と家臣ではなく友として話している姿をみることがあった。お互いに信頼している、それがよくわかる姿だった。その様をみてこの国にすべてをささげよう、そう決めた騎士たちも多い。
が、俺はその言葉を撤回したくなった。
俺は王の執務室の扉前に立っていた。現王はどちらかといえば柔らかい雰囲気だ。決して弱々しいと言うわけではない。前に騎士団の人間を笑顔で吹っ飛ばした姿を見たことがあるので、その腕は確かだ。
今その執務室からはおどろおどろしい空気が流れている。おかしいな、なんでどす黒いものが見えるのだろうか。
入りたくない。心からそう思う。
そして思い出す。
仲の良いというのは事実だ。事実だが・・・、それ以上に2人はよくケンカしていたということを。
「・・・・・・・よし」
たっぷり一呼吸おいて、俺は覚悟を決めた。この国のために俺はこの扉をくぐらなければならない。
そんな姿を同僚たちがきらきらした目で見ているが、そんな目で見ないでくれ。おい、そこ拝むな。まだ死んでない。そして覚悟を決めた俺の姿を見ていたある人物が俺をとんでもない地位にたたき上げるのはそう遠くない話だが、そんなことは今の俺は知る由もない。見ていたなら助けてくれよ!!
こんこん。
「失礼します!!近衛騎士、入ります!!」
「・・・・・・・っ!!」
悲鳴を上げなかった俺を誰かほめろ。
そこには一人の男がいた。それはのほほんとした陛下ではない。王の剣たるリスティル家元帥アドルフだ。
尊敬すべき武人であり、俺の目標でもある。鬼の子として他国から恐れられているが、もう鬼の子じゃないと思う。もう立派な鬼人だよ!!
「見つかったか?」
その声は静かだ。恐ろしいくらい静かだ。
「いいえ!!騎士団が全力で捜索しておりますが、王宮内にはもういらっしゃらないかと!王妃様もわからないそうです!!」
「・・・・・また、宰相と王妃様の胃に穴が開く・・・」
「ただ・・・その・・・」
ここからが俺の正念場である。
「なんだ。」
ぎろっと、鋭い目が俺に向く。怖い、怖すぎる。だけれども、言わなければならないことがここにある。俺は覚悟を決め、口を開いた。
「ラスミア殿下がリスティル家本家に向かわれたそうです!!」「なんだとぉおお!!あのくそが・・じゃない、王子が!?何を勝手な!・・・いや、それはいい、よくないが・・・ああくそ!・・で?それが何の関係がある。」
俺は今、くそが、の部分を聞かなかったことにした。墓の中まで持っていく。決して反リスティルの奴らに漏らしたりしない。
「王子の護衛が先ほど泣きながら出てきました。」
顔が真っ青になっていて今にも自決しそうになっていた。みんなで止めた。
「一人で行かせたのか!?」
「いいえ!!!!それが、その・・・・・。」
俺は言いよどんだ。言いたくない本当に言いたくない。・・・・・逃げたい。
父上、母上、俺に力を!!
「まさか・・・・。」
「まさかです。」
アドルフ元帥の顔が一気に陰る。
その次の瞬間に起こった出来事を俺は一生、それこそ死ぬまで忘れなかった。
「すぐさまつれもどせぇえええ!!!出撃―――――!!!!!!!」
俺は騎士塔に入った瞬間部下たちに叫んだ。