11.
いつも読んでくださりありがとうございます。
「たいへんお似合いですよ。さすがお嬢様、お美しいです」
さっきまでの不機嫌さはどこに行ったのか。
「恥ずかしいことを言わないで、ルカ」
ごきげんよう!! 私、今、髪がすごく痛い・・・・・・。
「後でお嬢様のお好きなお菓子を用意しておきますので、頑張りましょう」
ルカ、あなた私を理解してきたわね。
あの後仕方なく泣いているグレンをメイドに預けた。もっと泣いたがメイドには頑張ってもらうしかない。ラスミア殿下を待たせる方が、のちのち大変なことになりそうだからね。
私が急いで部屋に戻ると、メイドたちが武器、じゃない、たくさんの髪飾りと櫛を持っていた。別のドレスに着替えさせる暇はないが、髪くらい整えさせろということらしい。私は別にいいと思うんだけどね、普通で。だって面倒じゃないか。しかも会うのは、ラスミア殿下だし。絶対気にしない。まあ、そんなこと言ったら怒られそうなので言わないが・・・・・・。
ああでもない、こうでもないと髪をいじくられる。痛い、痛いって、髪の毛抜けたらどうするんだ。弱冠六歳で薄毛に悩まされたくない。ああ、前世のお父さんのようにバーコード頭になったらどうしてくれる!
しばらくしてメイドたちの気が済んだらしく、ようやく解放された。ラスミア殿下に会う前に、私は精神的、肉体的に疲れてしまった。
応接室の前についたので息を整える。扉の前にはすでにラスミア殿下の護衛と思われる騎士たちがいた。
私は彼らの顔を何気なく見て、ある一点でフリーズした。
「・・・・・・」
「お嬢様?」
ルカに声をかけられてはっとした。
・・・・・・見なかったことにしようと決めた。
うん。私は知らない。
「ルカ、扉を開けてちょうだい」
扉の前でタイミングを計っていたルカに笑顔を向けた。
「失礼いたします」
「ルーシェ! 遅いぞ!」
そこにはいつもと変わらないかわいい顔をした悪魔がいた。
遅いって誰のせいだよ。
ラスミア殿下は来客用の椅子に座っていて、その後ろには二人の護衛が立っていた。
護衛たちの顔色が悪いのはどうしてかしらね。
「ラスミア殿下、遅くなって申し訳ありません」
私はブラックスマイルを浮かべ、あいさつをした。
少しビビれ、ラスミア殿下。
「ど、どうした」
どうやら私が怒っていることには気が付いたらしい。
しめしめ。
「王子殿下。どうして一言先触れをくださらないのですか」
私は本題から切り込むことにした。
「そ、それは・・・・・・」
「殿下だっていろいろとおけいこ事で忙しいように、私も忙しいのです。今日はたまたまお休みでしたが、そうでなかったらわざわざ来ていただいた教師の方々に申し訳がないでしょう。そもそも失礼に当たります。王子殿下ともあろう方が礼儀もなっていないと評判を落とされたいのですか」
私は一気にまくしたてた。子どものしつけは今の時期が重要なのだと思う。
「す、すまない。勝手に家に来てしまって・・・・・・」
私の怒りに気が付いたのか、ラスミア殿下が謝った。
この子やっぱり素直なところあるな。
ラスミア殿下はばつが悪そうにしていたので、どうやら失礼なことをしたという自覚はあるようだ。
「実は俺も時間が空いたからその・・・・・・、弟君に会いに来た」
「グレンに?」
そういえばメイドが、そのようなことを言っていた気がする。
コンコンと扉がたたかれた。
「失礼します」
ルカがワゴンを押して、中に入ってきた。ワゴンには紅茶とお菓子が載っている。
「・・・・・・」
ラスミア殿下がルカを不審そうに見るので紹介することにした。
「そうだ、紹介しますわ。私の従者のルカです、ラスミア殿下」
「従者?」
なぜだか物凄く怪訝そうな顔をされた。
「なんで従者がいるんだ」
「なんでって、ラスミア殿下にもいるでしょう?」
なんでそんなに不機嫌なのか知らないが、そんなにルカを睨まないであげてほしい。
そしてルカもその無表情やめて。この国の王子殿下が前にいるのだから少しは微笑んで。
静かに火花が散っているような気がする。
「お前、強いのか?」
そう聞かれたルカは紅茶を机に置いて、ラスミア殿下の方を向いた。
視線が交差する。
「はい。私は護衛でもありますので、お嬢様は私の命に代えてお守りします」
いや、なんでそういう風に言うことが極端なのかな。
「ふん。命に代えて? 護衛はそこで死んだら意味がない。生きて守るのが仕事だ」
その通り。言っていることが至極まともだ。私は申し訳ない、かなり驚いた。
この王子、失礼な時もあるがどこかまともで対応に困る。
さっきから株が上がったり下がったりするから大変である。
「・・・・・・もちろん、できる限り生きてお嬢様をお守りする所存です」
ラスミア殿下はしばらくルカをにらんでいた。間違いなく火花が散っている。
あれかな、自分に仕える予定の私の従者が弱くちゃ話にならねえよ、お前強いのか?ってことを問うているのかな? 勝手に判断した私は、ルカは強くてすばらしいということを言っておこうと考えた。
「ルカは私の剣の兄弟子でもあるのです。クラウス師匠のお墨付きなので強いですわ」
はっきり見たことないから知らないけどね。でも、強いに決まっている。お父様が弱い護衛を私に付けるわけない。
「クラウス先生の!? というかお前、クラウス先生に習っているのか!!」
お前って失礼だな。なぜそんなにびっくりしているんだ。
「そうですが。おじい様とおばあ様の部下だったよしみで。なにか?」
「クラウス・ロイ・ガルデラ殿・・・・・・。お前の祖父の腹心でその剣技はかなりのものだ。たくさんの騎士たちが師にと望んだが、どんなに金を積んでも一切合切断ったような人だぞ!!」
確かそんな名前だった・・・・・・ような・・・・・・。そして師匠、そんなにレアな人だったのか。
うわ、私の師匠になったのっておじい様から頼まれて仕方なくか。何だか申し訳なくなった。
「俺は王宮剣術を習う必要があるから、師に望めないが、それでも一度くらい手合せしてもらいたい・・・・・・」
「あー。そうなのですか」
どう声を掛けたらいいのかわからない。そんなにすごい人に習っているなら、本気で強くなろうと思った。
「とにかく、そこの従者!!」
びしっとルカに人差し指を向けた。
「いつか手合せだ。俺がここに来るから」
「は・・・・・・?」
ルカが珍しく戸惑っている気配がする。確かに返答に困る。
ルカが固まったままなので、私は助け船を出してやることにした。
「ラスミア殿下、手合せの件に関しては後にして、本日はグレンに会いに来たのですよね」
強制的に話をそらす作戦を取った。
「そうだ。贈り物はどうだった?」
ちょろい。ごまかされた。
そうそう、グレンが生まれた後、恐れ多くも国王陛下とラスミア殿下から贈り物が届いたのだ。
なんと赤ちゃんの着る肌着。
普通に使えるものだった、意外。
高価な壺とか贈られたらどうしようかと思った。
「大切にグレンが着ていますわ。本当にありがとうございます」
あれは肌触りの良いものだったので、かなり値段が張ると思われる。
「それはよかった。俺が赤ん坊の時に着ていた生地と同じものでな。気に入ると思ったんだ」
それは絶対質がいいものだろうな。王子殿下が着るものだし。
「グレンは今二階の部屋にいますの。・・・・・・護衛の方々はいかがしますか?」
私は応接室に入った瞬間から顔色の悪かった、ラスミア殿下の後ろに控える護衛達に声をかけた。護衛達は何かを訴えたそうに、苦しげな表情を浮かべたままだ。
私は顔が引きつりそうになるのを何とかこらえる。わかる、あなた達の気持ちが私にはとてもわかるよ。
「ああ、それなら護衛はここに・・・・・・」
置いておく、そう言ったラスミア殿下の声が止まった。
ギイッと扉が開く音とともに一人の護衛騎士が入ってきたのだ。普通では考えられない無礼な行為。
しかし、彼になら許される。
「それは困るな。僕も見てみたいよ、グレン君を」
護衛とは思えない尊大な態度で話し始めた男が――――。
「父上!????」
――――この国の最高権力者、国王陛下であったからだ。
「やあ。ごきげんよう、ルーシェ姫。初めまして、ルカ君」
「ご、ごきげんよう。陛下」