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いつも読んでくださりありがとうございます。


「何回目だ?」

「な、何についてでしょう」

男は飲んでいた酒の入ったグラスを目の前の男の顔すれすれに叩きつけた。

「リスティル公爵家に一体、何回刺客を送り込んだ」

「そ、それは・・・・・・」

もう、数えきれないほどだ。言葉には出さなかったけど。

「・・・・・・もういい。お前は何もするな」

その声は氷のように冷たい。

「お、お、お待ちください!! 次こそは、次こそは!!」

男は頭を下げて懇願する。

「こちらがすでに手を打っている。もう余計なことをするな。それにお前・・・・・・」

「はい?」

ダンッ!!!!

「ひいっ!!!!!!」

顔を上げた瞬間に目の前に突き刺さった剣に悲鳴を上げずにはいられない

「お前がかの国と大したことないとはいえ、つながりを持ったことを私が知らないとでも?」

その表情と声色のあまりの凄惨さに男は気絶した。


***


皆さん、ごきげんよう。今はどうやって家出を実行しようか考え中のルーシェ・リナ・リスティルですわ。実は私、今、とっても怒っていますの。

「親愛なる王子殿下。何の先触れもなくこの家に来たことに対して何か申し開きがありますかしら?」

今、私の前にはラスミア殿下がいます。


***


ことのはじまりはほんの数十分前だ。私はグレンの部屋で本を読んでいた。というのも授業がたまたま休みであったこととグレンが非常にぐずってしまい、メイドたちが私に助けを求めたからである。魔の悪いことにお父様とお母様は少しの間だけ家を空けていた。

面倒くさい授業がなくなり、今日一日部屋で好き勝手できると喜んでいた私だったが、グレンの泣き叫ぶ声を聞いた瞬間嫌な予感がしたのは言うまでもない。どうもグレンは私が同じ空間にいるとおとなしくなるらしい。今もすうすうと寝息を立てている。

「・・・・・・」

かわいいから許してあげる。

ちなみにルカは部屋の出口の方、扉の前に立っている。近くに来て座ったらいいのにと何度も言うが決して頷かない。ルカの視線を追っていくと、グレンに気を使っているようだ。別に気にする必要もないのに。

ちなみに、今私が読んでいるのはこの国の成り立ちを記した書籍である。と言いつつもほとんど作り話なので信憑性はあまりない。ただ、この国の初代リスティル家当主が女であったことは事実らしい。そして彼女もまた、グレン同様すべての属性の魔法を使用できたそうだ。どれだけ強かったのだろう。

「お嬢様、お茶を飲まれますか?」

ルカが気配を消して隣に立っていた。本当にビビるからやめてくれ。

「お願いするわ」

ルカのお茶を飲んでほっと一息つく。幸せだね。

「ずいぶん熱心に読んでいらっしゃいましたね。さすがお嬢様、授業がない日でも勤勉ですね」

「うん。面白かったのよ、建国物語」

褒めてくれるのはとてもうれしいのだけれど、別にこれは勉強じゃないからね。単なる暇つぶしである。

「リスティル家初代様が出てこられるお話ですね」

「ええ。でもほとんどがおとぎ話に近いものでしょうけどね。初代様が女性なのは事実だけど」

私は開いていた本をぱたんと閉じてルカに渡した。

「ええ。ですからこの国ではほかの国と違い女性も男性と同じ地位、権力を持つことができるのです」

ルカは私の持っていた本を受け取ると本棚に戻してくれた。

「そっか・・・・・・」

中世ヨーロッパや日本の歴史を見ればわかるが、女性というのは家を守るのが基本だった。

この世界でも基本的には同じ考え方である。

唯一この国だけが、女性に関しての地位が圧倒的に高い。

おばあ様なんか最強だ。

「お嬢様、御髪にゴミが・・・・・・」

失礼、とルカが髪に手を伸ばしてきた。

「あら、ありがとう」

と、おとなしくしていた。

その時である。

「うえええええ~」

グレンが泣き出した。その瞬間ルカは目にも止まらない速さで、私の髪からごみをとった。そしてドアの前まで後退し、直立不動、どこか顔が不機嫌なのは気のせいだろうか。

「グレン? あらら。どうしたのかしら? お腹すいた?」

どうやらおしめではないらしいが。グレンは火がついたように泣いている。私は抱き上げてよーしよーしとあやし始めた。

うーん、泣き止まないわね。 

「お嬢様、ミルクを持ってきましょうか」

「そうね。お願いするわ」

コンコン。

あら、メイドたちが何か持ってきてくれたのかしら。「入っていいわよ」と声をかけた。

「ルーシェ様! 失礼いたします!」

どうやらメイドたちが泣き声を聞きつけてあわててきたらしい。

「そんなにあわてなくても」

「いいえ、お嬢様。お客様です」

「お客様?」

父からそんな話は聞いていない。基本的にこの国は先触れを出して尋ねるのが常識である。

「今日、誰かと会う予定はあったかしら、ルカ」

私の予定はすべてルカが管理してくれているが、そもそも、まだ社交にも出ていない私のところに来るお客なんていない。

「いえ、お嬢様にはありません。旦那様達が忘れるとは思いませんが」

「今、誰もいないから、私がお相手しなくちゃならないわよね」

私が話し相手になるとは思えないが仕方ない。

全くどこのどいつだ。今グレンが泣いていて手が離せないのに。

「お客様は、どなたなのですか?」

ルカが代わりに聞いてくれた。

「それが・・・・・・その・・・・・・」

メイドが私の顔を見る。なぜ私を見るのだ。

「ラスミア殿下なのです」

「は?」

私は聞き間違いかと思った。ラスミア殿下? 私の知っているラスミア殿下は一人しかいないのだが。

「誰って?」

やべっ、素が出た。ここは「どなたが来られたの?」とでも言わないと。でも誰も気にしていない。第一王子が訪ねてきたことでキャパオーバーしたらしい。

「ラスミア殿下がお嬢様とグレン様に会いに来られました!!」

もう一度勢いよく言われた言葉をかみ砕いて三秒ほど。

「・・・・・・はあ?」

それだけしか言葉が出てこない。

何しに来たんだよ。あの子は。

理由が思い浮かばない。

「グレンが泣きやまないわ」

腕の中でどれだけあやしてもグレンが泣き止んでくれなかった。

まさか・・・・・・ラスミア殿下が来たからか?

ひどいこじつけだが、そうとしか思えなかった。


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