1.
これが初めての投稿です。あたたかい目で見てください。
私、ルーシェ・リナ・リスティル(六歳)は前世の記憶があった。
思い出したのは剣の稽古の最中に石につまずいて転んで、頭を打った時のことだ。一週間目が覚めず、起きたら厳つい顔のおじい様がおばあ様に土下座をしており、おばあ様が自分の足をおじい様の上に乗せているという不思議な光景だった。
私は前世では日本に住む高校生だったが、学校から帰る最中に車に轢かれて死亡した。痛みもなかったから、おそらく即死だ。死んだら天国とか地獄に行くのではないのか。まあ、それはいい。とにかく私はこの世界に転生したらしい。そして前世を思い出すと同時に、夢の中で未来までもが視えるようになった。
はじめて視たものは人の死だった。私をお世話してくれていたメイドの一人。おばあ様の代からこの家に仕える彼女が倒れて、そのまま帰らぬ人になる夢だった。初めはなんてひどい夢だと思った。でも、彼女は倒れた。夢と同じ場所で、姿で、そして、帰らぬ人になった。夢で見る良いことも悪いこともすべてが、現実になった。
私は理解した。これは先視なのだと。ただ、自分自身のはっきりとした未来は視えなかった。モヤがかかったような、断片的なものしか見えない。
しかし、ある日の夢は自分にとっての残酷な未来をはっきり視せるものだった。
***
「残念ながら、お嬢様に魔法は使えません」
白ひげを蓄えた老師は12歳になった私にそう述べた。驚愕したような家族の顔が見える。
「あねうえ様!」
動けない私達の部屋の中に入ってきたのは六歳年下の私の弟だった。
駆け寄ってくる弟に対し、私は衝撃で動けなかった。
「これは・・・・・・」
老師が弟を見て息を呑んだ。
「この子は、すべての属性の魔法が使える!!」
この弟、ものすごい力を持っているらしく、水、火、土、風、全ての魔法が使い放題らしい。これだけあるなら私にだって一つぐらい使えてもいいだろうに。
神様って残酷だと思う
また場面が変わった。
目の前が、火の海だった。
「逃げて!! 早く逃げて!!」
誰かが叫ぶ声がする。屋敷が燃えている、街が燃えている。
「リスティル公爵は!? どこにいるの!? 隣国が攻めてきているのに!!」
「なんであの家が後継者争いなんて!!」
逃げ惑う人々、血に染まる街。
「嫌!!」
私は跳ね起きた。
嫌な夢だった。冷や汗が止まらない。
いや、夢ではない。これは近い未来に起こることだ。
「最悪だわ・・・・・・」
私は頭を抱えた。
***
私が生まれた家、リスティル公爵家はアステリア王国の剣と言われる一族だ。代々王家に仕え、無駄な後継者争いをしないため、男だろうと女だろうと長子が家を継ぐ。その代の王に直接仕えているものは戦公爵と言われ、戦争になれば毎回先陣を切る。今はお父様が、かつてはおばあ様がそう呼ばれていたようだ。
夢の予言によると、長子である私は魔法が使えないようだ。そして、この家に必要なのは戦える力だ。
ここまでくればお分かりだろう。私か、これから生まれてくる弟か、どちらが公爵家を継ぐのかという問題がいずれ出てくる。
そんなこんなで後継者争いが起こるのだ。その隙をついて他国も侵攻してくる。後は長きにわたる戦争だ。
「はあ・・・・・・」
私の人生はなんでこうもうまくいかないのか。せっかくファンタジーの世界に出てくるような力を使えるのに。というかお金の心配がいらない家に生まれたし、この子すごく美人なのに。キラキラした銀髪に琥珀の瞳だよ! 本当にきれいなの!! 誰もが一度はあこがれるモテモテ生活があったかもしれないのに。
しかし、一度死んだからなのか、私の立ち直りは早かった。人間どうしようもない時はあきらめて次の段階に行かなくてはならないのだ。
私はベッドの中で考え込んだ。
とにかく、公爵家はいずれ生まれる弟に譲ろう。おそらくそれがこの国にとっても私にとっても一番いいことだ。
しかし、どうするか。どうすれば平和的に弟に譲れるのか。
ここで私はある結論に至った。
そうだ、ここにいるからいけないのだ。
よし、家を出よう。
それにせっかく新しい世界に生まれたのだから世界を見てみたい。この世界はファンタジーな世界だ。なんと魔族がいる。魔獣もいるのだ。精霊なんかもいるらしい。ぜひ、お会いしたい。
弟が生まれる時期は迫っている。
そして私に魔法の力がないことが家族たちにばれてしまうのは六年後。それまでに、一人で生きていくすべを身に付けなければならない。12歳になってしまえば、この家には後継者争い、そしてこの国には戦による荒廃の未来が待っている。
「よし、できたわ」
私の素敵な家出計画表(日本語)
・脱出経路の確保(家の見取り図)
・世界情勢の把握
・家出先の決定
・働き口と住むところ(金)
・一人で戦えるようになる
これからどんどん増えていく項目だが、とりあえず、これをまずはこなそう。
六歳になったルーシェ・リナ・リスティル。
将来の夢は家出をすることです。