ゴナイの街
何かビックリするくらい伸びてました…なんだこれは…
街の中心区に入った俺達だが、なんだか回りの人達から視線を受けるというか…最初はハンスさん達の事かと思ったのだがどうやら違うような?…特に一部の野郎の目付きがネトッとしてるというか…キモいな…
「なんか、何故だがすれ違う皆さんの視線が変じゃありませんか…?」
「そう?…あー、なるほど。イーリスちゃんこの辺じゃまず見ないくらい美人で、目や髪も珍しい見た目しているからじゃない?私だって向こう側だったら見ちゃうかな。そうやって、見てくるだけならいいんだけれど、一部の男共の目線は気持ち悪いってのは凄くよくわかるわ」
「そうですね、私達もたまにそういう目線を向けられたり、以前は絡まれたりもしましたね…特にイーリスさんは女性から見ても綺麗ですし、わからなくもないんですが…かと言って女性をそんな目で見る人は私も嫌いです。」
「え?あ、ありがとうございます。」
ああ、そうかうちの娘に見惚れてたのか。さっきはなんとなくフードを被ってたけど、門番さんに疑われちゃったから、フードは被らないようにしてたがこんな風に気持ち悪い視線を街でも向けられては落ち着かないので、来た時と同じように深く被りなした方がいいだろう。
うちの子は可愛いから見てしまうのは当たり前だけど、そんな視線を向けてくる男達は勘弁してほしいもんだ…それにしても女性は視線に敏感ってのは本当だったんだな。
視線を避けるために再び深くフードを被りなおしてから、更に数分ほど歩いたところで目的の建物についたようだ。
見た目は石を切り出して作られた見るからに非常に頑丈そうな作りの建築物だ。高さは尖塔まで見れば4階立て程の大きさでその尖塔の天辺には何かの旗が風によってはためいていた。
「着きました、ここが冒険者ギルドのゴナイ支部です、それじゃあ入りましょうか。」
案内されて入ると一階は酒場と受付で出来ているらしく、食事をとっていたり夕方からすでに呑んでいる冒険者達が入って来た俺達を横目で見てきたりする。
うわぁ…いかにもゴツそうな強面さんがいっぱいだ、絡まれないようにもっとフード深く被っとこう
そのまま受付の方へと向かい、ハンスがバックから骨を取り出して門番で説明した事と同様の話を小声でハンスが説明すると、受付嬢の表情が営業スマイルから一転して途端に険しくなっていく。
「し、支部長に連絡してきます」
同じく小声でそう告げた彼女は後ろの方へとすっ飛んで行った。
「本当はイーリスさんが一撃で倒したんですけどね…」
「身分の証明をできるような物を一つも持っていない人間が魔獣を一撃で撃退。なんて絶対面倒な事になりますから…」
門番でもそうだったが、来る途中に事前にそう説明するように頼んでおいたのだ、理由は簡単で、ただでさえフードを被っていないと、目線を集めてしまう見た目なのに、更にこれ以上目立つ意味はないと思ったからだ。
そんな事を喋っていると、先ほどの受付嬢が戻ってきて支部長にそちらの女性も一緒に会って欲しいとの事らしく、そのまま中へと入っていく。
案内された場所は最上階である三階の一角にある場所で、扉には支部長室と書かれている。
…そういえば、言語が当たり前に通じてるな…あまりに自然すぎて、全然気付かなかったけど、都合がいいし別にいっか。文字も見たことがない字だけど、何故かこれも自然と読める上に書こうと思えば脳内に文字がしっかりと浮かんでくるので、代筆の心配もなさそうだ。
そんなこんなで、先ほどの受付嬢がノックしてから扉を開けて入っていくので、ハンスと一緒にそのあとに続く。
「失礼します。力の斧のパーティリーダーハンスです。」
「おう、お前達のPTの評判の良さはよく私も耳にしているぞ?これからも期待している。さて、それではさっそく本題に入るが、フォレストベアーの死骸を街道で見付けたのは本当か?」
「はい、見付けたのはこちらの女性です。」
「イーリスです、街道を移動中に何か大きな物を見付けたので確認してみると、フォレストベアーの死骸だったのでどうしようか迷っている時にハンスさんと出会ったので、一緒にゴナイの街へと向かいました。」
「そうか。その辺りには何か他に痕跡のような物はなかったか?」
「地面の草が円形に消失していたのを見たくらいですね。」
「草が消失?炎魔法か…?周囲には焼け焦げたような後があったか?」
「いえ、全く。」
「うーむ…炎魔法以外の広域殲滅魔法か?…しかしこの辺りには上位級魔法を扱える冒険者は居ないはずだが…それにしても街道にフォレストベアーとはな。すでに死骸となっていたおかげで被害が無かったのが不幸中の幸いか…しかし、激しい戦闘の痕跡すら残さずにフォレストベアーがやられる何て一体何者なんだ?…今は考えても仕方ない!とにかくご苦労だった、後で彼女には上位魔獣発見の報酬を渡そう。下がっていいぞ」
そしてそのまま支部長室を出た一行はそのあと、ギルド支部二階にある会議室へと向かう。
最初宿屋で話すことになっていたのだが、壁が薄いので誰かの耳に入る危険性があるという事で、ギルドの会議室を借りることにしたのだ。
「それでイーリスさんはつい先程こちらに来たとの事ですがそれは飛んで来てということでしょうか?」
「いえ、それが実は気が付いたら全然知らない森の湖畔に居たんです。とりあえず街を探そうと飛んでいた所で皆さんを見かけたので助けに入った。といった所です。」
「気が付いたら見知らぬ土地にですか…恐らく何かの大規模魔法や魔素の暴走に巻き込まれて転移魔法が擬似発動でもしたんでしょうか?」
「あぁ、そういえば…光に包まれたような気がします。」
「う~ん、恐らくその線が一番自然でしょう。大国には転移魔法陣が存在していると聞いたことがありますから。」
ゲームの世界に飛ぶなんてある意味転移魔法みたいなもんだろ…あぁ、ホントどうして深く考えずにYESを押してしまったんだ俺…
「そ、それとイーリスさん!魔石すら残さずにフォレストベアーを消滅させたあの魔法はいったいなんでしょうか?よかったら後学のために教えてくれませんか!」
どうやらアイナは魔法使いらしく魔術に興味があるらしく目を輝かせて詰め寄ってくるので若干気圧されてしまった。というか近い!近いです!
「え、えっとあれは【ジャッジメント】ですね。」
「あれが【ジャッジメント】!?で、でもあれは高位級魔法に分類される魔法のはず…まさか神聖魔術師なんですか!?」
「いえ、違いますよ?」
「えっ…?そ、それじゃあ一体…」
「ふふ、こう見えてもそれなりに高位のジョブなんですよ?でも、今は内緒です。」
「そ、そうですか…口惜しいですがイーリスさんに言われてしまっては諦めるしかありませんね…」
「ありがとうございます。それであのフォレストベアーはどういう魔獣なんですか?職員がかなり警戒していたみたいですが、そんなに恐ろしい魔獣なんでしょうか?」
4人居ても逃げるしかないうえに、知らせるだけでお金がもらえたり、受付嬢やギルド長の驚きぶりから考えるに相当脅威度が高いとは思うんだが、一発で死んだからあまり実感がないんだよな。
俺の使った高位級魔法【ジャッジメント】は確かにそれなりに強力だが、俺がよく行く狩場では魔法職じゃないので、少し削る程度でしかない。しかし、今回は一発で消し飛んだので、かなり弱い魔獣ということになる。ちなみに魔法は初位級、下位級、中位級、上位級、高位級、超高位級に別れている。
「あいつはかなりヤバい魔獣だな。確かに見た目はただの大きな熊だが、毛皮はちょっとやそっとの攻撃じゃほとんど効かない、更にあの大きさの癖に俊敏でおまけに魔法まで使うから後衛にも被害が及びやすいんだ。だからDランクの俺らじゃ束になっても勝てない奴だからこそのCランクなんだが…イーリスちゃんが一撃で倒しちゃったから実感わかねーよ」
「あ、あはは…」
Cランクか…アディのギルドは始めたときに、チュートリアルを兼ねた説明をする為に冒険者ギルドに入ることを強制される仕様になっていて、その冒険者ギルドから依頼を受けたりして金策やレベリング、素材集めをしてたな。
依頼ランクや、危険区画の立ち入り許可ランクは、レベルに伴って勝手にあがるからほとんどロールプレイ要素だったが、基準がもし前作同様ならDからCじゃ確かにキツいな。「Dまではチュートリアル、Cから本番」なんて呼ばれるほどCランクの敵はプレイヤーを全力で殺しに来るからだ。おまけにこっちでは命がかかってるんだから警戒されるのも当然だな。
「それで次なんですが、この硬貨はここでも使用できますか?」
取り出したのは前作で使っていた【ディノ硬貨】だ。これなら手持ちに数千万、倉庫には数億まで溜め込んでいたが、果たしてこっちでも使えるか…頼む!
「これは…エレマ大陸の古代ディノ硬貨でしょうか?」
「えっ…古代…?」
「ええ、確かに昔のエレマ大陸共通硬貨ですね。こちらはシュース大陸なのでユノ硬貨が共通硬貨ですよ?」
「そ、そうですか…」
まずここが新作のシュース大陸っていうのがほぼ確定したのはいいとして…今古代って言ったか?かなり嫌な予感しかしないが暦を聞いてみよう。
「ところで、今の暦ってなんでしたっけ?」
「紅暦ですよ?何かありましたか?」
「紅…暦…?あっい、いえなんでもないですよ、ふと今暦を確認してみたくなっただけです」
紅暦なんて暦は聞いた事がない。ということは未来のアディってことか…こりゃまいったなぁ。硬貨が使えないこともそうだが、年代が違うんじゃ、今の時代の常識も変わってる可能性が高いな…。ただ、隣の大陸から来たって言えば多少は無知でも、怪しまれることはないかな?とりあえずそのことだけ伝えておくか。
「ううーん…どうやら私は隣の大陸から転移してきたみたいですね。」
「それは…エレマ大陸ということですか?」
「はい。周辺の地理には全く見覚えがないので、おかしいなとは思っていたんですが、そういう事だったんですね。」
「す、凄い距離の転移ですね…転移魔法は使用した人の魔力を利用するので相当な魔力がないと長距離転移は不可能ですよ。」
あ~っと…これはやらかしたか?あんまし非常識っぽい事は言わないように気をつけていたんだが、言ってしまったものは仕方ないか。
「しかしエレマ大陸からとはなぁ。別大陸の人なんて俺初めて会ったよ。」
「聞くまでもないとは思いますが、ディノ硬貨は…」
「御察しの通りこちらでは使えませんね…」
「そうですよね。弱りました…ディノ硬貨が使えないなんて…一応フォレストベアーを発見した報酬を貰えるみたいですが、他にユノ硬貨を手に入れる方法はありませんか?」
「そうですね…。もしかしたらそのディノ硬貨を買い取ってくれるマニアがいるかもしれません。隣の大陸の古代硬貨なので希少性が高いですから、買い手がどこかにいるはずです。」
「あぁ、その手がありましたね!とりあえずは今日の宿の心配はしなくても大丈夫みたいで安心しました。」
「それなんですが、良ければしばらくの間の宿屋代などは僕達が出しますよ。命の恩人なんだからそれくらいの恩返しはさせてください!」
「いいんですか?それじゃあお言葉に甘えてお願いしますね!」
なんとか無一文にはなる事は回避できてよかった…!結果論とはいえ、あそこで助けておいて正解だったな。
その後、脅威度の高い魔獣を発見、報告をした報酬として3万ユノ貰うことができた。
この辺の一般的な宿屋の値段が大体1食付き一泊2500ユノらしいのでもし、ハンスさん達と別れても今すぐ無一文になることは無さそうだ。
なお、隣の大陸に来たことがバレてしまったので遠慮なく通貨単位を聞いたところ、こちらの通貨単位は石貨1枚からはじまって10の位が一つあがるごとに鉄貨、銅貨、銀貨、金貨とあがっていき、もっとも価値のある硬貨は虹金貨と呼ばれ、1億もするらしい。ただし、これは王家や一部の貴族が稀に使うくらいなんだとか。
ちなみに前作同様10ユノ=10円ととてもわかりやすレートのだった。
一食付で一泊2500ユノとはかなり安いが、道中の露店に並べられている商品の価格も安かったので、物価が全体的に安いのだろう。
そんな事を考えながら歩いていると宿屋に到着したようだ。
「ここがいつもお世話になってるところです。夕飯まで僕達は休憩しているんですがイーリスさんはどうしますか?」
「勿論私もご一緒しますよ。」
「そうだ!せっかくだしイーリスちゃん私達と部屋一緒にしない?その方が割安っていう面もあるんだけどね。」
「一緒にですか…?」
ええと…い、いや今はイーリスだから女の子同士だし別に変じゃないんだが中身が俺だからな…こんな美人と屋根一つの下なんて色々と精神的に平気だろうか。
「駄目かな?せっかくだから仲良くしたいんだけれど…」
うっ、そんな上目遣いに頼まれたら…
「も、勿論!ただここ最近ずっと一人暮らししていたので変な所があったら言ってくださいね?」
さっそく、男性陣と別れてからアイナさんとイーダさんの荷物を3人部屋に移す為に、二人の部屋にお邪魔させてもらっているのだが、正直かなり緊張している。
というのも、女友達は普通に居るので免疫はあったはずなのに、向こうの世界じゃアイドルやっててもおかしくないレベルの美人と話した事は一度もなかったのだ…しかも宿屋とはいえ部屋に上げてもらうなんて…
「ここが私達の部屋よ。…?イーリスちゃん?どうしたの?」
「えっ!?い、いえちょっと緊張しているだけですよ。何せ本当に久々なので…」
「そういう事…ふふっ、イーリスちゃんって結構表情に出る子なのね?顔が強張ってるのがよくわかるわ」
「一人暮らしをずっとしていたとの事ですが、ご両親は?」
「居ますよ?ただ…今は会うのはかなり難しいと思います。」
「それって、どういうこと…?」
恐らく次元とかなんか色々超えないと会えないんじゃないかなぁ…というか今の姿で行ったら俺だとわかるのか?わかったとしてもうちの両親の事だから「こんな可愛い娘が欲しかった」とか言いそうだけど…
そういや母さん父さんや愚妹はどうしてっかな…向こうの世界じゃやっぱり俺は死んだことになってるのかなぁ…
…というか普段の俺ならもっと落ち込むと思うんだが、妙に客観的にみれるな。初めて来た時もすぐ状況整理できたし、精神も体に基準しているのだろうか…?
「……!…さん!イーリスさん!!」
「っ!?あれ?ど、どうしました?」
「どうしたのはこっちの台詞よ?大丈夫?イーリスちゃんが突然黙り込んで真剣な顔を浮かべるからびっくりしたわ…」
「少し休みますか?恐らく長距離転移の影響が…」
「あ、いえ!ちょっと考え込んじゃっただけですよ!もう大丈夫です!」
「そうですか?あまり無茶はしないで具合が悪くなったら言ってくださいね。恩返しの面も込めて出来る限りサポートしますから」
「そうよ?イーリスちゃんが居なかったら無事じゃ済まなかったのは事実なんだからもっと頼ってちょうだいね?」
「はい、ありがとうございます!」
その後、荷物を運び終わると、ホールでハンスさん達と合流して適当な時間になるまで潰すらしい。俺は観光ついでに少し周りを散策したかったのでそれを伝えてから宿屋を出て行く。
◆◇●◇◆
「は~…イーリスちゃんと話すとどうしても緊張しちゃうぜ…俺今まで生きてきた中であんな美人見たことねーよ。」
「そうねー、女の私でも見惚れちゃうくらい綺麗ね…本人は隠してるから言及はしないけれど、あの服の完成度や気品ある顔立ちを見るにどうみてもイーリスちゃんは、どこかのお姫様に間違いないわ!」
「おまけに、高位級魔法を使用しても降りてきた時は対して疲弊していなかったところを見るに、魔道士としても相当高い実力を持っていると思います。」
「それは凄まじいな…エレマ大陸じゃさぞかし有名な人だったんじゃないか?」
「私もそう思うわ…ねえ、ハンスはどう思う?」
「えっ!?あ、あぁすまん。話を聞いていなかった…誰がなんだって?」
「ん~…?そんな扉の方ばっか見てどうし…ははぁん?」
「そういうことですか…」
「あ~こりゃ…」
「な、なんだなんだ?どうしたんだよ3人とも」
「「「別になんでも?」」」
「そうか?ならいいが…」
こうして、話したりしながらフォレストベアーから逃げた時の疲れを癒しているとイーリスが戻ってきたので、さっそく行き着けという酒場へと案内される。
酒場に着いた一行はテーブル席に座り、注文する品物を吟味していたところでハンスに話しかけられる。
「イーリスさんはお酒は大丈夫ですか?」
「平気ですよ。前は結構飲んでいたので」
「よかったです。それじゃ麦酒と果実酒…あと………」
店員にメニューを告げた後は料理が運ばれるまでの間があるので、話そうと思っていた話題を切り出す。
「そうだ、ハンスさんアイナさん」
「はい?なんでしょうか?」
「せっかくこうして知り合ったんですし、敬語はなしにしませんか?私はこの喋り方が癖になってるので、このままなんですが、お二人とも素の喋り方でいいですよ」
「素ですか…そうですね、わかりました。でもさん付けは譲れないのでそこだけはこれでいきます…いやいかせてもらうよ」
「私もこれが素ですね、ハンス達には多少砕けてますが、似たような口調なのでこのまままでもいいですか?」
「勿論大丈夫ですよ!それじゃあよろしくお願いします」
と、ちょうど会話を終えたところで先ほど頼んだメニューが運ばれてくる。
様々な肉料理、野菜料理、おつまみ等が運ばれてきたところでハンスが音頭を取るが…
「それじゃあ、食べようか!食物を与えてくださるアズラ神に感謝を!」
「「「感謝を!」」」
お、おぉ!?これはアレか?こっちでのいただきますか?
突然のお祈りに戸惑ってしまいとっさに同じように祈る真似ができずいるとアイナにつっこまれてしまう。
「あ、そういえばイーリスさんはエレマ大陸でしたね。エレマ大陸ではどういった宗教が知られているんですか?」
前作やってた頃は大陸最大規模の宗教クエストがあったけど、名前はなんだったけなぁ。ド忘れしてしまった…仕方ない、適当に地球の3大宗教でいいかな。
「え~っと…確かキリスト、イスラム、仏教でしたね」
「どれも聞いた事のない宗教ですね。イーリスさんの故郷はどの宗教だったんですか?」
「宗教観念は薄いので無宗教国家だとは思うんですが…ちょっと変わっていまして」
「どういうことでしょうか?」
「私の故郷では一応、神道と仏教が特に知られているんですが、信者と言える人は極一部なんですよ。それなのに、宗教行事は欠かさずにやります。場合によってはたった3ヶ月でキリスト、仏教、神道って3つの宗教行事が国民のほとんどが行うのに無宗教国家なんですよね…今考えてみると結構不思議ですね。」
「そ、それは確かにとても不思議ですね…」
その後も日本のことをボロが出ない程度に適当に話していると、あっという間に0時を過ぎた事を知らせる鐘の音が鳴ってしまったので今日の所は解散となった一行は宿屋へと戻る。
「今日はフォレストベアーのせいで嫌な汗をかいちゃったしお風呂に行かないかしら?」
「いいけれど…イーリスさんはどうしますか?」
「勿論行きますよ!あ、いやでも翼を見られるのはマズいですよね…。」
「そうですね…騒ぎにはなると思います」
「一応聞いてみますが、個人で入れるようなお風呂は…」
「残念ながら個人でお風呂に入るのは貴族ぐらいしか無理ですね。」
「ですよね…」
う~~ん…やっぱ難しいか。そもそも毎日風呂に入る習慣自体が昔は日本と古代のローマぐらいって映画で見たしなぁ。そのローマや江戸の日本ですら、入るのは大衆浴場なんだからそりゃ個人なんて貴族くらいしか無理だよな…。
「今日のところは諦めます…わざわざ誘ってくれたのに申し訳ないです」
「ううん、私もちょっと配慮が足りなかったわ。ごめんなさいね。」
「明日個人で入れるところがないか探してみましょう。」
「そうですね!お願いします!何かお風呂の代用になるのってありますか?」
「宿屋で有料のお湯を出してもらって布で拭く方法がありますよ。毎日入るのは厳しいので、普段はこれで済ましています」
「わかりました、ありがとうございます」
なんとかして、明日お風呂に入れるところを探し出さなければ!俺の精神的にもそうだが、なによりイーリスは常に綺麗に保ってあげたいからな!
さっそくお湯を頼み、足や腕を拭いていく。
それにしても滅茶苦茶肌スベスベでしっとりと吸い付いてくる。流石はイーリスだぜ、どこまでも可愛いぞ!…まぁ、今は俺の体なんだがな。はぁ…
次に体を拭く為にローブを仕舞い、着ている服を脱ごうとしたところで手が止まってしまった。
……い、いや何考えてるんだ俺!落ち着け!い、今は俺の体だし嫁であり愛娘でもあるイーリスなんだぞ!と、とりあえず灯りは消そう。
カンテラの灯りを消し、真っ暗にした所で服を脱いでいく。暗闇な上に当然ながらワンピースなんて着た事がなかった俺はかなり苦労しながらも無事脱ぐことができた。なお下着を脱ぐのは流石にまだ精神的難易度が高過ぎるので後回しにしてからさっそく布で体を拭いていく。この宿屋に姿鏡がなかったのは救いだ…
「ふう……んっ…」
何故か、勝手に出る何だか色々と危ない声を堪えながらも手早く体を拭いてから、再び悪戦苦闘しつつ、なんとか着替えを済まし、帰ってきた二人と適当な談笑をしてから床に就く。
仰向けに寝ると、翼が邪魔になると思ったのだが、関節の動きが広いのかぴったりと煎餅布団に背中が付いたので、この先も気にならずに済みそうだ。
それよりも、すぐ隣で寝息が聞こえてくるのが気になってしまったが、初日を無事おえた疲れからか気が付けば意識を落としていたのだった。
3ヶ月っていって普通に通じてますが、こちらも365日12ヶ月です。ただ、月の名前を季語にしてあります。
それにしても文字数安定しないですね…