出会い
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街と街を繋ぐ道、そこは様々な人たちが利用するため、兵や冒険者達によってある程度の安全は保たれている…のだがこの人物達は不運な事に強力な魔物に出会ってしまったようで、荒い息遣いをしながら全力でその魔物から逃げているようだ。
「クソッ!!なんで街道のすぐそばの道で狩りしてたのにフォレストベアーが出てくるんだよ!!」
「知るか!そんなこと考える暇があるなら逃げる事に集中しろ!アイナ!魔法で足止めはできるか?」
「さっきから何度も放ってるけど全力疾走してるから全然威力が上げられなくて牽制にすらなってないです!」
「同じくこっちの弓も全然ダメ!」
「クソ、打つ手なしか!とにかく逃げるぞ!!」
そう叫び、ひたすら全力で魔物から逃げる冒険者達だが、どうやら魔物とはほぼ互角のスピードのようで、距離が近づくことはないが離すこともできないようだ。
「このままじゃマズいな…アイナ!まだ走れるか?」
「そろそろキツい…かも…」
そう呟く彼女からの顔からはかなりの疲労感が見て取れる
「キツくても縄張りの外まで走るんだ!とにかく頑張れ!アレに追いつかれるのはマズい!」
「わ、わかってる…」
森を抜け、道が見えてきたのであともう少し…というところでついに一人の脱落者が出てしまう。
「キャアァッ!!」
「アイナ!大丈夫か?立てるか?」
「ご、こめん転んだ拍子に足を捻ったみたい…もう無理だわ…私が足止めするからその間にハンス達は逃げてください!」
そう叫び、逃げるように促すが3人は逃げる事はせずに足を止めてしまう。
「何いってんだアイナ!置いて行くわけないだろ!多分あと少しであいつの縄張り範囲外だ、流石にそこまでは追ってこないはずだ!そもそも俺が原因でこうなったんだ!担いででもいくからな!それまで諦めるな!」
他の2人も同じ意見なようで強く頷く。
「でも私がいたらいつか絶対に追いつかれます、そもそも私が遅いから距離を離せなかったのよ?しかも、こんな街道のすぐそばに出てくる事自体が異常なのよ!そんな保証どこにもないじゃない!」
「そんなことわからないだろ!とにかく逃げるぞ!…もし逃げないなら俺もココに残るからな!」
「そうだ!アイナ一人置いて逃げ帰った人生を俺は送りたくない!」
「私もよ!絶対おいていかないから!」
「みんな…」
「よし、皆!こうなったらフォレストベアーを倒すぞ!Dランクでフォレストベアーを退治できれば一気にCランクに近づける!絶対誰も欠けずにCランクになるぞ!!」
「おう!!」「「えぇ!!」」
そう決意をして、フォレストベアーに向かい戦闘体勢を整えたところで、見たこともないような巨大な魔法陣が地面に描かれていくのと同時に、その魔法陣からは今までに感じたことのない膨大な魔力が感じられる。
「な、なにこの魔力!?み、皆!今すぐ伏せてッ!!!」
アイナと呼ばれた女性がそう叫び、反射的に三人が伏せた瞬間、魔法陣が完成し、そこから凄まじい光量と轟音が響き渡る。
その後、ようやく収まった光と音に目を開けると、そこには信じがたい光景が広がっていた。
つい先ほどまで4人の冒険者を追いかけていた恐ろしい熊は、骨格のみになっていたのだ。
「な、なんだあれ…」
「周りの草も円形に消失している…」
「な、なにが起きたの…?」
「もしかして今のは聖魔法…?あの魔力ならフォレストベアーが一撃でやられてもおかしくはないけれど、魔石すら残さず消滅させるなんて見た事も聞いた事もない魔法よ…」
「そんな魔法一体誰が…?」
全員であたりを見渡すもどこにも人影が見当たらず、疑問に思っていると何かが上空から降ってきて地面着地する。
そしてその空から降ってきた人物を見た4人は完全に硬直してしまうのだった。
◆◇●◇◆
なんとかなってよかった…それにしても、ガチガチの装備に固めてなかったのに随分とあっさり消し飛んだな。やはり、イーリスの戦闘力は高いんじゃないか?まぁ、まずはあの人達の無事を確認しよう。
「ふぅ…皆さん大丈夫ですか?どうやら追われていたようなので助けに入ったのですが…あの、もしもし?」
とりあえず、警戒心を解くためにですます調にしておこう。素の口調でもいいんだけど、何よりもイーリスには似合わないしな。
…それにしても反応が帰ってこない。再びもしもーし?と問いかけてみるとようやく一人の女性から反応が返ってきた。
「はっ!は、はい!大丈夫です!それでその、さきほどの魔法は貴女が?」
「えぇ、そうですよ。」
「あんな魔法…いったいどんな…いえ、今はそんなことよりも危ないところを助けてくださってありがとうございます!」
「いえいえ、皆さんが無事ならそれでいいですよ。大丈夫でしたか?」
「はい、おかげさまで!…それで助けてもらっておきながら聞くのもなんですが、その翼はもしかして…」
「勿論、本物ですよ。」
「凄い…!天人族は遥か古の時代に滅んだと文献で読んだことがあります。ですがまさかまだ存在していたなんて…」
…んん?あぁー!そういえばアディじゃそんな設定だったなぁ。他にも滅んだ設定の種族が居てそれでレアな課金種族になってたんだっけな…アディじゃその辺に溢れかえってたから、完全に忘れていたな。面倒な事になるまえに内緒にしてもらえないか頼んでみるか。
「あーっと、それ関係の詳しい事は内緒ということでお願いします。色々と事情があるので…」
「わ、わかりました。それでいいよね?ハンス…あれ?ハンス~?」
女性が男性に声をかけるが、呼ばれた男は呆けていたようで、2回呼びかけられたところでようやく反応が返ってきた。
「え?あ、あぁ!当然だ!危ないところを助けてもらい本当にありがとうございました!僕の名前はハンスと言います。Dランク4人PT「力の斧」のリーダーをしています。よ、よろしかったらお名前を教えてくれませんか?」
そう微笑む彼は茶色い髪で、20代前半といった感じの見た目をしていた。現代であればモテそうなイケメンの好青年に盾と片手剣、そしてハーフプレートの装備から察するにどうやら前衛を務める役みたいだ。
「いえいえ、ご無事で何よりです。ご丁寧にどうも。私は黒…じゃなくてイ、イーリスと言います。」
あやうく黒川彰人と言いそうになるところで、ひとまずキャラの名前を名乗ることにした。
「イーリスさんですね、それにしてもずいぶんとお綺麗な方ですね…思わず見惚れてしまいましたよ。」
「そ、そうですか?そういうのは言われたことがないのでわからないんですが…ありがとうございます(うちの娘の可愛さはここでも通用するんだな…流石だぜ!)」
末期の自キャラ可愛い病を患っている彼は、中身だけを考えると突然口説いてきたイケメン好青年というシチュエーションだけ見れば、ホモホモしい所だが、自身のキャラを溺愛している彼は褒めされたことで、全く気が付いてないようだ。
「イーダよ、さっきはありがとね!このパーティでは狩人をしているの。イーリスちゃんって呼んでもいい?」
短剣に弓という身軽な格好で、いかにも中衛的姿をしている彼女は短く切りそろえられた金髪や、顔立ちから活発で人懐っこそうな元気な見た目をしている。地球ではモデルをしていてもおかしくないレベルの可愛さだ。
「本当に助かった!ありがとう。俺はポールだ、戦士をやっている。」
ハンスと同じくハーフプレートメイルに背中には背丈ほどもある巨大な大剣を背負っている。
赤に黒色が混ざった赤黒い髪色に筋骨隆々な体と顔つきに若干荒めの口調とかなり豪快そうな人物だ。
「最後に私ね、アイナと言います。魔道士をやっています。」
最初に答えてくれた彼女は深い青色の髪にクールな印象を与える顔立ち、そしてローブと杖を装備しておりインテリっぽさを感じさせる。イーダを可愛い系と言うならこちらは美人系だ。
「イーダさんポールさんアイナさんですね?よろしくお願いします。呼び方はご自由にお任せしますよ。」
こうして、お互いに自己紹介をおえた所で現状について話し始める
「それで、この後はどうするおつもりですか?実は私はこの辺にはつい先ほど着たばかりで、この辺には疎いので、もし街に向かうようでしたらご一緒したいのですが。」
「そうですね、実はこんな街道のすぐそばにフォレストベアーが出るのは、かなり異常な事なんです。冒険者はこういった異常を報告する。という義務もあるので、証拠の骨を持って街へと急ぎ戻る必要があります。なので、このままゴナイまでご一緒しますよ。…ただ、その前に追われていた時に投げ捨てた荷物を取りに行ってからでお願いします。」
「ええ、勿論です。」
ゴナイか…知らない街だなぁ。それに、さっきの熊もアディには居なかったはず。でも魔法は使えるし、自己紹介の時に聞いたジョブは全部アディのままだし、新作の舞台のはずだから、いくつかの変更点がこうした点だろうか?後で適当に情報収集してみるか。
そんな事を考えながら荷物とさっきの魔獣の骨を回収した後に、この辺りの事について軽く教えてもらいながら歩いていると、正面からまだ遠めだが人影が見えてきた。
「イーリスさん、正面から人が来ていますからその翼は隠したほうがいいと思いますよ。」
「アイナさんの言うとおりですね…ちょっと待ってください」
助言通りさっそく、インベントリを思い浮かべると、ゲーム時代よく使っていたローブがあったので、それを取り出そうと念じると光に粒子と共に手からポンッとローブが現れるのでさっそく羽織ってみる。
「これで大丈夫ですかね?」
「翼の形が綺麗になくなったしいいんじゃない?でもどこからそんなローブを取り出したの?」
全員が、正面の相手や魔物を警戒して森の方などを見ており、取り出す所を目撃できなかっため、服しか装備していないのにローブを羽織っていた疑問をイーダが投げかけてくる。
「勿論イン…(いや…まてあの大荷物を見る限り…)いえ、これは…輪郭を誤魔化すことのできるローブなんですがこんなこともあろうかと隠しもっていたんです。」
【インベントリ】そういいかけたところでポールさんやハンスさんの大荷物を見てこういった事にはお約束のインベントリというのは存在しない。もしくは非常に高価な品という考えから寸でのところで思いとどまり咄嗟にごまかしておく。
ちなみにこのローブは、ゲームをやってた頃に天人族を引き当てたのを恨まれた事が一度あったので、プレイヤーが多いところでは、常時着けるようにしていた。これはこれで楽しんでいたりする。
「へぇ!すごいローブね!そんなアイテムを持っていたり綺麗な服を着ていたり敬語が出来る辺りイーリスちゃんは天人族の中でもいい育ちなの?」
「いえ?普通の庶民ですよ。言葉遣いは…癖みたいなものですね。」
「そうなんですか?天人族の文明レベルは相当高いんですね。このような服が一般流通しているなんて…」
「え?えぇ、まぁそうですね…」
まぁ、そういうことにしておこう。多分俺以外には居ないだろうし、この服は一点物なんだが…
こうして、更に歩いていると森林地帯を抜けたようで、家が数軒まばらに建つだけでどこまでも続く見事な広大な草原と農場地帯が見えてきた。
一度北海道旅行に行った時に見た地平線まで続く平原も凄くて感動したもんだが…ここはそれ以上だな。
「これは凄いですね、私の居たところじゃこんなの中々見れなかったので…」
「そうなんですか?それじゃギルド支部に行きますね。こっちです。」
案内された方向に向かうと石でできた壁に囲まれた場所が見えてきた。
「ここがゴナイの街です。と言ってもギルド支部や倉庫等の重要な施設が集まっているだけなんですけどね。」
そう教えてくれながらもゴナイの中心街へと辿りつく。
「すいません、イーリスさんの事について門番さんに話をしないといけないので一緒に来て下さい。」
「わかりました」
カードのような物を取り出してから、ハンスさんが門番に話をすると、驚愕の表情と共にすぐさま詰め所のような場所に案内される。
「おう、ハンス。門番から話を聞いたよ。フォレストベアーの骨を街道で発見したんだってな?生きてる状態で遭遇しなくてよかったな。」
「えぇ、本当にビックリしました…もしも生きている状態で遭遇していたら…なんてと思うと生きた心地がしませんね。(実際に生きた心地がしなかったわけだが)」
「ははは!!街道でCランク魔獣の骨を見つけるなんて貴重な体験じゃないか。それに、骨でもCランク魔獣の素材は高値で売買されるんだからよかっただろう?」
「それはそうですけど、笑い事じゃないですよ…。」
「すまんすまん。それで、そこのローブを着た女性?が発見者か?」
「はい、イーリスと言います。私が街へと向かう道中に大きな骨が転がっていたのでなんだろう?と思って近付いたら、フォレストベアーの骨でした。私は冒険者ではないのでどうしようと思っていた所にハンスさん達が通りがかった。というのが事の経緯です。」
「なるほどな…。フォレストベアーが死んでいた状態で本当によかったな。…それとすまないが、顔を見せてもらえるか?ハンスが連れてきたから大丈夫だとは思うが、この街の住人やギルド員以外は念のために顔を見て、人相を確認しないといけない規則なんだ。」
「わかりました。…これで大丈夫ですか?」
それもそうだと思い、言われるがままになんとなく被っていたフードを取る。ローブは流石に取ることができないが、顔をよく見せれば多分平気だろう。
「おぉ……。い、いやすまない、もう通ってもいいぞ。ようこそゴナイの街へ。」
「ありがとうございます」
こうして、ハンス達のおかげで特にトラブルに巻き込まれることもなく、街の重要地区に入ることができた。
そんな俺はというと、先ほどから現代では崩壊して一部しか残っていないことが多いうえに、地球では見ることのできない、真新しくも高い城壁を目の前にした興奮を必死に胸の中で抑えながら、ハンス達と共にギルド支部へと向かうのだった。