炎龍Ⅲ
母から授かった知識、コトが解読できた三割程度の中に一つだけ天災級雷魔法が存在していた。
対象を中心とした半径100メートルに天から雷の雨を降らす魔法。 本来魔法制御が出来ていれば範囲を半径100メートル内で指定できるのだが、魔力は高くともまだまだ未熟なコトには範囲指定は無理なのだ。
-今の私だと制御できずに天災級の反動で気を失ってしまう可能性があるけども……そこはお姉ちゃんがなんとかしてくれるみたいだから私はあれを倒すことに集中―
「〝天輝きて降り注ぐは神の雷、神の怒りは汝を焼き尽くさん”《怒りの雷撃》!!」
コトの魔法の発動と同時に炎龍の天災級ブレスも発動した…が天に輝く金色の巨大な魔方陣から放たれた無数の雷に撃たれ炎は四散した。 炎を消しただけでは雷は降り注ぐことを止めず半径100メートル内に存在するものを破壊し続けた。
その中で、コトは気を失った……コトが気を失う前、最後に聞いたのは自分の名前を呼ぶナターシャの声だった。
××××
「起きなさいコト!」
ナターシャの声と共にゴツンという音が響きコトの頭に痛みが走った。
「痛い! さっきより強いんだけど……」
「何度呼んでも起きないコトが悪いです~」
コトがナターシャと軽いやりとりをしながら辺りを見回すとそこには無数の傷口から赤い鮮血を流し倒れている炎龍の姿と雷に穿たれた大地があった。
だが、少しだけおかしい……コトとナターシャの周りだけ地面が無傷なのだ。
「お姉ちゃんこれは……」
「何度呼んでもコトは起きないし雷は降ってくるから、全部弾きました! おかげで剣はボロボロだけどね。」
数秒間の硬直の後コトの驚愕の声が辺りに響いた。
それもそのはず、天災級魔法を弾く剣士なんて聞いたことがない……
「あ、王国軍やシャルルさんが来たみたいだよ。」
ナターシャに言われてコトがその方向を見ると馬に乗って走ってくる数十人の軍の騎士とシャルル、そしてミレーヌの姿があった。
コトがその方向を眺めているとその場からシャルルの姿が消えた、その数秒後ゴツンと重い音が響いた。
「痛い!! なんで私ばっかりげんこつを喰らわなきゃいけないのさぁ。」
「無茶をした罰だ。」
至って冷静な様子でシャルルは答えた。
「さっきの雷はお前の仕業かコト?」
「そ……そうだよ、天災級を使ったんだ……」
コトは怒られると思った、なぜなら魔法実践経験の少ないコトは難易度の高い魔法を使うのを禁止されていたのだ。
-もう一発げんこつかなこれは……—
だが、コトの頭には重たい一撃ではなく柔らかな手のひらが乗せられたのだ。
「無茶をしたことは見過ごせないことだが、成長したな。」
普段感情を顔に出さないシャルルが笑顔で褒めたのだ。
コトだって褒められたことがないわけでは無い。
それでも、今までシャルルに笑顔を向けられて褒められたのは幼いときの一度限りだったコトにとっては非常に嬉しいことだったのだ。
コトの瞳から次第に大粒の涙が流れ落ち始めた……その涙を見たナターシャが焦っているのを少し離れた場所で見ていたミレーヌは和やかな気持ちになったそうだが、それはミレーヌだけの一生の秘密である。




