炎龍Ⅰ
コトが目を覚ますと誰かに膝枕をされていた。
コトが完全に目を開けると目の前に青く澄んだ瞳に涙を溜めたナターシャの顔がコトの瞳に映った。
「どうして……泣いてるんですか先輩?」
「……コトちゃんが急に倒れて何度呼びかけても目を覚まさないから心配したのよ……でも、よかった。」
コトはこのとき思った、”やっぱりこの時代に私はいるんだ……まぎれもなく私は皆の中に居るんだ”と、いつの間にかコトの瞳からも涙が溢れてきていた。
コトがなぜ泣いているのかわからずナターシャがあたふたしていると上から険しい顔をしたミレーヌが降りてきたのだ。
「コト目を覚ましてすぐですまないが急いでこの王都から離れた方がいい!」
「どっ……どうしてですか陛下!?」
コトはなぜミレーヌがそのようなことを言ったのか頭では分かっていた、だが聞かずにはいられなかったのだ……この予測がもしかしたら外れているかもしれない……否、ハズレであってほしいとそう願っていたのかもしれない。
「十二年前のように炎龍がこちらに向かってきている。」
コトの予測は当たった……コトはあの言葉を……”あっ、そうそう炎龍が攻めてきた日は初めてこの石板が光った日でもあるわ。”……聞いた時からうすうす気が付いていたのだ。 コトが生まれたのは八月の二十日だそうだ、そして母から聞いたことではコトの封印が解けたのは十二年前のその日……”つまり炎龍が攻めてくるのは私のせいだ……”
コトは右目にそっと触れたそこには母から渡された眼帯がされていた、コトと同じように早くから魔眼に目覚めたアイリスが制御できるまで身に着けていた眼帯だそうだ。 コトにはそこに微かに母の温もりを感じていた。
そして、コトは決心したように大きく息を吸い込み吐き出し深呼吸をした。
-この石板には私の魔力のほとんどが封印されていた、だから触れることにより魔眼が覚醒した。 それだけでなく、母さんの知識も……母さんが見てきたもの学んできたものの全てがここにあった。 ありがとう母さん、皆を助けるための力を知識をくれて、必ず会いに行くね―
コトは心の中で呟くとその場で目を閉じ索敵範囲を広げ炎龍の位置を確かめた、そして目を開けると同時に右足のつま先で地面を軽く踏んだ。 コトの足踏みと同時にコトの足元には青く輝く魔方陣が展開されたのだ。
「陛下、先輩、師匠……ちょっと行ってくるね。」
三人が止めようとした瞬間コトはただそれだけを言い残し転移した。
「コトちゃん……母さん!! 私も行きます!」
「なっ! 何をいいだすんだナターシャまで! お前が行っても……」
そこでミレーヌは言葉を詰まらせた、なぜならミレーヌをまっすぐに見つめるナターシャの瞳には覚悟が宿っていたからだ。
-やっぱりあの二人の娘ね……―
「わかったわ行きなさい! ただし危ないと思ったらコトを連れて逃げること!」
「はいっ!!」
ミレーヌの許しを得るとナターシャは走り出した。 ナターシャの後ろ姿を見つめるミレーヌの顔立ちは女王ではなくまぎれもない母の顔立ちだったとシャルルだけが知るのだった。




