第九章狼騎兵連隊2
第九章狼騎兵連隊2
訓練生達改め新隊員は狼に馴れることから始めた。それぞれ一頭が与えれられ狼の乗り方、騎乗戦闘の方法、コンパスなしで角度を正確に図る方法などの基礎から学び始めた。そんなある日のことだった。
「これより騎乗移動の訓練をする。各自で自身の狼に乗れ!」
それぞれが自身の狼を連れてきて騎乗した。
「俺は上から無線で指示を出す。それに従い進軍せよ。」
簡易飛行場からヘリコプターがでてくる。操縦を部下に任せ発進させる。
「貴様等は右翼二列戦闘班だ。前進せよ。」
無線で怒鳴ると荻野の合図と共に全員が前進する。しばらく進むと俺は指示をだす。
「左翼三列索敵班が敵機甲部隊を発見した。右へ20度旋回し前進せよ。」
「了解!」
彼等は右へ向かっていく。22度針路を変更した。まあ陣形内部の戦闘班なら特に問題はないが外縁部に位置する索敵隊だと一度でも狂ったら孤立する危険性が高い。もともとが散開している陣形なので孤立に気がつくまでかなりの時間を要する。最悪の場合だと本隊も孤立した部隊も気が付かないこともある。演習では上空からの監視員がいるが実戦だと必ず着けるとは限らない。
「右翼後方より敵機甲部隊が出現した。よってここで針路を15度変更する。」
今回はあえて左右は入れなかった。これはとっさの事態の判断力を鍛えるためのものだ。勿論右翼に敵部隊が現れたのなら普通は左に転針する。だが何故か部隊は急に停止した。何か事故でも起こったのだろうか。不思議に思いつつ地上に出てみると大口論の真っ只中に入ってしまった。
「左に決まってるだろ。」
と言う一派と
「指示されていないのだから交戦しろと言う意味だ。」
と言う一派の二つに別れたのだ。前者は塚本が、後者は分隊長の荻野がそれぞれ代表していた。
「貴様等何をやっている?連隊針路変更は伝達したはずだ。停止命令は出ていない。」
俺の接近に気付かず口論していた二者は急に黙った。
「実戦だと必ずしも方向まで言えるとは限らん。貴様達はこの間の座学で何を学んだ!この陣形は奇襲攻撃で敵を翻弄する狼騎兵連隊の基礎だ。極力敵部隊との接近及び交戦を避けて前進すると教えたはずだ。ならば当然一方向から敵が出現したのなら反対に向かうに決まってる。いざ前線では一方向だけとは限らん。こんなことで戸惑っていてどうするんだ!」
急にしーんとした親隊員達に話しかける。
「今日はここまでだ。各員隊舎に戻って陣形の復習でもしてこい。」
「了解しました。」
あいつらはとぼとぼと隊舎に向かって歩いていった。翌日の朝は隊員全員が日が昇る前から隊舎前で狼騎兵として針路の変更を練習していた。どうも昨日の反省から簡単な手信号を作ったらしい。勿論俺も出せる限り指示はするけどね。仲間達の結束も強まったみたいだし十一月末でこの状態なら来年一月からは立派な兵士になれる。と思っていた矢先、あの事件がおきた。