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ある、王国の物語『白銀の騎士と王女 』  作者: うさぎくま
今世の物語
9/71

9、後悔…

 

「エルティーナ様? どう…しましたか? …アレン様と何かあったのですか?

 せっかくの美人がだいなしですよ。うん! 本当にエルティーナ様は、ダンスが上手ですね」



 レイモンドのエスコートは完璧だ。本当にびっくりするぐらい、踊りやすかった。


 もしかしたら、エルティーナのダンスの先生より上かも?? と思う。


 レイモンドの新たな魅力に拍手を送る。踊っている最中なので、心の中でだが。




「レイモンド・フリゲルン伯爵。あ、ありがとうございます」



「くすっ。他人行儀ですね。レイモンドと呼んで下さい。レイでも、かまいませんよ」



「えっ? で、では、私も…エルティーナと。様はいりません、エルでもかまいません…」



「…では、エル様と呼ばせて頂きます!! 可愛いらしい感じの呼び名になって、貴女にとても似合う」


「……あ、ありがとうございます。嬉しい…ですわ」





 エルティーナは得意な演技で、レイモンドに屈託のない笑顔をつくって喜んでみせた。


 胸がくるしい…『エル様』それは、エルティーナにとって特別な呼び名だった…。


『エル』と私を呼ぶのは、お父様、お兄様、お母様だけ。

『エル様』と私を呼ぶのは、アレンだけ。

 秘密でもなんでもない…けど、エルティーナの特別だった。エルティーナが勝手に思う特別…。


 その呼び名にふと気づいた時は、恥ずかしくて、嬉しくて、その特別がなんだか、くすぐったくて、幸せで…。


 アレンが『エルティーナ様』と呼ぶときは、公式の場、お兄様や侍女が近くにいるときは、絶対に『エルティーナ様』


 なのに二人っきりの時は自然と『エル様』と呼ぶ。


 アレンとエルティーナは恋人ではない…ただの護衛騎士と王女の関係。それだけの関係性。

 でも『エル様』とエルティーナを呼ぶ時のアレンは、本当に綺麗で眩しくて、お腹がいっぱいになる。



 アレンにたくさんの恋人がいたって、アレンにとって仕方なしにつかえる一時の主人だって、別にかまわない。皆には言わない二人だけの小さな特別だってある。


 と、さっきまで思っていた…。でもそれもなくなった。



 アレンに少しでも異性としてみてもらいたくて、頑張って、着馴れないドレスを着た。


 背伸びをし色々頑張った……結果。エルティーナはアレンの恋愛対象にはなりえないという、決定打をもらっただけ。



 好きな気持ちに蓋をし、もう追っ掛けるのはやめて、最後の思い出だからと、着慣れないドレスを頑張って着て、ダンスを誘ってみたら結果は散々。


 今までの特別は、エルティーナの思い上がりだったとわかった…だけなんて……。


 ばっかみたい…。ばっかみたい…。





「エル様。もう一曲大丈夫ですか?」



 穏やかなレイモンドの声は、傷ついたエルティーナの心に優しく染み渡る。


「はい! 大丈夫です!!」



 エルティーナは、元気いっぱいに返事を返した。この返事が王女らしくないのは承知の上で………。



「くすっ。子供みたいですわ」


 一度聴いたら嫌でも耳に残る、舐めるような声色。見下すような視線が肌にささり、声の方にエルティーナは目を向ける。


 向けた先には…。


 もうこれ以上、エルティーナの精神を叩き落とさなくてもいいのでは? と思う光景が広がっていた……。


 隣国バスメールの王女カターナと、ぴったりと身体を合わせ踊る…アレンの姿がそこにあった。


 本日、何度目かの頭痛がエルティーナを襲う。



 …ひどい…。警備中だから。踊りませんっていったのに…あーもうなんだか、やってられないわ。


 ひどすぎて、涙もでないわ…アレンのバカ…。



 エルティーナが心の中でアレンに文句を言っていると、ふとレイモンドがダンスの足を止めた。パートナーが足を止めれば自ずとエルティーナも止まる。


 現実に引き戻されたエルティーナはレイモンドに視線を向けた。



「エル様には、エル様の魅力がございます。僕は身分がどうのと威張り散らさない、王女らしくないエル様の方が好ましい。

 それに、どなたかのように背中か胸か分からないほど貧相な身体の方より、エル様のように出るとこがガッツリ出た肉感的な女性の方が、僕は断然好みですので」


 挑戦的なレイモンドのいいように、目が見開く。


 夏の風が〜。と思わせるくらいに甘く! 爽やかに!! 清々しく!!!、オープンにエロい事をいった。



(えっ!? 殺気!?)



 エルティーナは騎士ではないので、誰に向けられた殺気かは分からない。しかし身体は震え、恐い…恐い…と心臓が縮み上がる。


 そんな状況にもかかわらず、レイモンドは清々しいくらいエロかった。



「ねえ。エル様」と。



 レイモンドは可愛らしく笑って。ぽにゅん。ぽにゅん。とエルティーナの豊満な胸を突いてきた。


「あっ柔らかいですね〜 顔をうずめてみたいです」というオープンエロな感想つきで…。


 レイモンドの行動に唖然。絶句。



 エルティーナは恐々、カターナ王女とアレンの方に目を向ける。


 すでに縮み上がっていた心臓が破けそうなくらい、カターナ王女とアレンは怒っていた…。二人共すでに怒りが隠されていない。


 カターナ王女は、もう呪い殺しそうだし。アレンは、とてもじゃないが恐くて言葉にできない…綺麗な容姿の人が凄んだら、本当に恐い。



(…アレンでも、ダンスパートナーの悪口を言われたら、怒るんだ…)



 アレンとカターナ王女を羨ましいと思うと、もっと悲しくなってしまった。


 エルティーナの淡いブラウンの瞳は、涙の膜が張っていてこぼれ落ちそうなのを必死で我慢する。


 エルティーナも一応王女だ。カターナ王女の前では、絶対に泣きたくなかった。でるな。涙、でるな。と身体に力を入れていると。


 またもレイモンドが、胸をぽにゅん。と突いてきた。


 二回でも、三回でも、一緒。突然されたオープンなエロい仕ぐさにエルティーナの涙は引っこみ、悲しみも一緒に抜かれた。レイモンドは人の毒気を抜くのが凄く上手だった。


 自惚れではなく、レイモンドのこの行為はエルティーナを元気づける為だと分かる。


 胸を突かれても、かけらも男の欲が感じられないレイモンドに安心感が芽生え、笑みが自然に戻るのは当然と言えた。



 レイモンド様は優しい人だと、エルティーナはしみじみと思う。


 軽やかにステップを踏みながらも、ひたすらエルティーナを褒めちぎるレイモンドに、今日はじめて心から笑った気がした。




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