48、エルティーナの初めての恋
十一年前の出来事。アレンとエルティーナの二人だけの大切な時間です。15Rです。
ラズラとエルティーナは、シルクの布団に仲良く入る。そしてお互い何も言わず手を繋いだ。
「ラズラ様、始めますね」
「よろしくお願いするわ」
エルティーナは昔をゆっくり思い出す。
「…少女の年齢は八歳にやっとなった所くらいでした」
王宮には隠し通路があって。それは王宮中に広がっています。八歳になる頃はその隠し通路が楽しすぎて、乳母や侍女をまいて一人で勝手に隠れんぼしていました。
とても扱いにくい少女だったと思います。でも好奇心は止められなくて……。最後は お母様やお兄様に見つかって怒られる。でも、また同じ事をする阿保でした。
「ブハァッ。ご、ごめんなさい。貴女の言い方が面白すぎて…」
「いいえ。笑える所は笑ってください。嬉しいですからっ!!」
その少女は、あまりにも毎日見つかるのが面白くなくて…。なんと脱走をはかります!!守られた大きな安全な場所から…。
一つでも間違えたら、生きて戻れる保証はなかったのに……。
午前の授業が終わり、御飯を食べている時に今にも寝てしまいそうな演技をいたしました。
可愛らしく見えるように、舟をこいでみたりして、なかなかの演技だったと思います。
その少女は、自分がこの世で一番可愛いと思っていました。
城に住む皆が…お世辞だったと思いますが、可愛い、天使、美しい、そう言う台詞を毎日のように聞いていましたから。
惚れ惚れする美しいお兄様を見て「私はこんな素敵なお兄様の妹よ」と自慢に思っていました。お兄様が綺麗だからといって、私が綺麗とは限らないと分からなかった。
食事が終わり。寝たふりをしていた私は、侍女に抱き上げられ、寝室に連れて行かれました。
私は寝ていなかった…だから、しっかりと侍女の会話を聞いてしまいました。
「姫様は、可愛らしいけど、残念よね…。王子様とはあまりにも違いすぎて。まだお小さい年齢のはずなのに発育ばかりよくって頭が悪そうだわ。
いつも悪戯ばかりだし。抱き上げるのも腰にくるわ。次は変わって」
そう、話していました。ベッドの中で、小さくなり、泣きました。
まさか、そんな風に思われていたと思わなくて…。
侍女が部屋から出てすぐ、起きました。この場に居たくなくて、一刻も早く離れたくて。外履用に履き替え、隠し通路からその部屋を後にしました。
王宮内に出ては捕まるから。
だったら外へ行こうと思いつき、絶対に行ってはいけないと強く約束させられた。外への隠し通路を進みました。
八歳の少女が隠し通路全てをしっかり覚えていたわけはありません。だから、迷ったのです。歩いて歩いて疲れました。明るい方向を目指し歩いたら、やっと外に出られました。
当たり前ですが、外には沢山の衛兵がいて……。
これではすぐ見つかると思い。近くにあった、野菜などが沢山のった比較的綺麗な馬車の中に入りました。中に入ったら、眠くなりそのまま眠りにつきました。
「エルティーナは、なかなかチャレンジャーね。…それで…よく生きて帰れたわね」
「ふふふ。ラズラ様。私、運命はあると思います。絶対にあります。
少女は……私は、これから運命の出会いを果たします。誰にも話した事はございません。お父様にもお母様にもお兄様にも…アレンにも…皆、知りません。
……今のきっかけ。何か一つでも欠けていたら、私は、彼に出会えなかった…」
ラズラの瞳が軽く見開かれれる。
そんなラズラを見てエルティーナは、また話し始める。
私は、野菜の沢山入った荷車で心地よく寝ていました。しばらくして、暗かった荷台が明るくなりました。明るい先には若い男女がいて「ぼぅ〜」としていたら。
若い男性と女性の悲鳴声が辺りに響き、私はしっかりと目を覚ましました。
化け物を見たような声は、はっきりいって失礼だと思いました。
私は先ほど王宮で、侍女に大したことない姫だと言われたばかりだったので、かなり頭にきて、怒りました。
それからすぐに誰かが走ってくる足音が聞こえて、荷台に集っていた人達が一斉に両端に移動しました。私も王女の端くれ、この荷台の持ち主がやって来るのだと分かり一言文句を言ってやろうと思い、荷台から見える景色を睨みました。
顔をみせたのは、私の知る人物でした。
「…エルティーナ様? 何故ここに…??」
「……メルタージュ侯爵???」
私が乗ってきた荷車はメルタージュ侯爵家のものだったのです。
「…エルティーナは、強運の持ち主ね。分かったわ。そこでアレン様と出会うのね」
「ええ。そう…私は、ここで初めてアレンと出会います。
ラズラ様…これからお話する事は絶対に、誰にも言わないでください。ラズラ様が大事な秘密を教えてくれたから、私もお話しようと思います」
「もちろん。誓うわ。聞きたいから。貴女の大切な秘密を…」
ふふっ。エルティーナは微笑みながら、身体を真上に向けた。少し顔を赤くして。
「会ったことを思い出して、何故顔が赤くなるの?」
ラズラは、赤く色づくエルティーナの顔をしげしげと見つめてから、自身も身体を真上に戻した。
私はメルタージュ侯爵に連れられて、メルタージュ侯爵家の中に入りました。
何人かの侍女が絶叫したので「これはヤバイ」なかなかに怒られる未来を想像し嫌になったのをよく、覚えています。
メルタージュ侯爵が私に、微笑みかけてきた。
「まさか、王宮から抜け出して来られるなんて…エルティーナ様はお転婆ですね。
でも…私で良かった。
姫様、五体満足で帰れなかったかもしれないのは分かりますか?
姫様を人質に悪さをする事もありえたのです。王や王妃、レオン殿下にも、迷惑がかかったかもしれないのですよ」
メルタージュ侯爵の言葉は恐かった。
授業で習った事、何度も注意を受けた事、紙の上での事ではない恐さをあの時理解しました。
メルタージュ家の侍女に案内されて、綺麗な部屋に入りました。そこで待つように言われ、言う通りに待ちました。
待ちましたが暇で暇で、室内を歩いていると、隠し通路を発見してしまい…。嬉しくなり入って行きました。
「それはないわね。私とエルティーナの違う所ね。私は絶対に言われた部屋から出なかったわよ!」
「ごめんなさい」
「今、謝られても…。でも、今のエルティーナからは想像出来ないわ」
「………ここからはさらに黒歴史なんです」
「これ以上、何があるのよ。十分やらかしているわよ。人様のお屋敷の隠し通路通るお姫様がいるなんて……脱帽ものよ」
「………でも、隠し通路を通ったから…アレンと会えたんです……」
私は、隠し通路を歩きました。冒険家になったつもりだった。そしてしばらく歩いていると、遠くから咳き込む声が聞こえてきて、すごくすごく苦しそうで、たまらなくなって、咳き込む声の方に歩きました。
小さな隠し通路の扉を開け、明るい部屋の中に入った。
そこで私は天使に会った………。
ベッドの上に座る天使に会った。
天使は凄く驚いて………。私はその天使に魅せられ、ベッドの近くまでゆっくり歩いていきました… 。
「……あなたは人間?? ……天使…よね?? そうよね?? 綺麗だわ。わぁぁぁ…初めて見たわ。本当に綺麗……」
エルティーナは極上の笑顔でベッドに乗り上がる。
「……君は誰?? 今、隠し通路から出てきたけど……ちょっと近づかないで。病気がうつるかもしれないよ」
「病気ってなに? どうでもいいわ、そんなこと。はぁぁ…貴方綺麗ね。わぁ…髪の色は銀色だわ!! なんて美しいの!! 柔らかいわ、さらさらね。羨ましいわぁ」
「ち、ちょっと、触らないで。君が汚れるよ。ゴホッ ゴホッ」
「えっ。大丈夫? こうしたら楽になる??」
エルティーナは、アレンの背中に手を当て優しく軽く撫でた。しばらくそうしてると、小さな声が聞こえてくる。
「……ありがとう」
「何をいうの、これくらい。わぁ貴方、瞳も綺麗なのね。
何という宝石だったかしら…ほらっ〝愛の守護〟っていう…うぅ………あぁっ!! 思い出したわっ!! アメジストよ!! アメジスト!!
あぁぁぁ 貴方は本当に綺麗ね、私にはお兄様がいるんだけど、お兄様がこの世で一番美しいと思っていたけど。貴方の方が断然綺麗で美しいわ!!」
「ふふふ。僕には君の方が天使に見えるし、美しいと思うよ。隠し通路から君が出てきた時、天国にきたと思ったから。僕は死んだって思ったよ」
「もう! なんて事いうの!? 死ぬだなんて、簡単に言っては駄目よ」
エルティーナは目の前にある綺麗な形の唇を、人差し指で プニュンと押して言葉の注意を示した。
「……君は、優しいね。あまり生きて、いい事はなかったけど、君に会えた事は生きた価値があったと思うよ」
「…む、難しい事をいうのね…」
チュッ。
「ちょっと、君!! な、何をするの!?」
チュッ。
「………柔ら……かい……わ……。チュッ。チュッ。チュッ。……ぅん チュッ」
人差し指で触った唇の柔らかさに好奇心が芽生え、さらに唇を合わせたら気分が高揚し、もうアレンの唇の柔らかさに虜となっていく。
まるでエルティーナの大好きな恋愛小説でよくする行為だ。恋人同士が愛を確認する口づけに日々興味津々だったが、想像以上に素晴らしかった。
ババロアのような弾力があって、あたたかく、角度で感触が変わる。気持ちよくてやめられない。
チュッ。プチュッ、チュッチュッ。
「まって、まって、やめて。こんなことしたら本当に、病気がうつるから…
……ぅん……駄目だっ………って…んっ
…はぁっ……ぅん……っんっ…ぁっ………ゴホッ、ゴホッ ゴホッ ゴホッ ゴホッ ゴホッ」
咳き込むと同時に口からは大量の真っ赤な血が、エルティーナの服をアレンの服を濡らす。
「ぅぁぁあぁぁーーー。ごめんなさい。大丈夫!? 大丈夫!?」
エルティーナは吐血するアレンの背中に手を回し優しく抱きしめながら、背中をさする。細く折れそうな身体を……。
「早く早く、止まれ。咳、止まれ」
必死に願いを口にしながら、吐血するアレンを抱きしめた。
「……君は、やっぱり天使だよ…ゴホッ……最後に神様が…僕にも……僕だけの天使を…ゴホッ……」
「もう!! 話さないで! 咳き込むんでしょ!! 黙って!!」
私はしばらくそうして。アレンの咳が止まったから。一旦離れて。血まみれだったから服を脱ぎました。全部。裸になって…。
「はぁぁぁぁぁぁ!? なに!? 私の聞き違い!?」
「ラズラ様。声が大きいわ!静かに!!」
「ごめんなさい。衝撃的で……。アレン様の衝撃が分かるわ……。だって、貴女は八歳でも…アレン様は十七歳よね………。
うん?? 貴女八歳にしては発育がいいって言ってたわよね!? まさか……」
絶句する、ラズラに。
「………はい。全部脱ぎました。アレンの前で……。それで、アレンも血まみれだったから。だから、脱がしたの、無理やり…ね……服を剥ぎ取りました」
「……よくやるわ……」
それから、抵抗するアレンに馬乗りになって、また口付けをして…。真っ白なすべすべの肌が気持ちよくて、血を拭いてあげると言いながら身体をいっぱい触りました。
アレンも最初は抵抗していましたが、…あの時は私の方が腕力があったので……押さえつけたら、だんだん抵抗しなくなって。
ただ合わせていた口付けが深くなり…。拭えきれないほど涎を垂らしながら舌をグニグニ押し合い、お互いの身体を触っては密着させてと。
女の私とは違う身体が珍しくて、その色々な…部位が違っていて。至近距離で見たらそれがとても物珍しくて。
それで……あの…形が変わっていく……その男性の身体が面白くて………アレンが全く抵抗しないのをいいことに、興奮しながら触りまくりました。
しばらくしてメルタージュ侯爵と侍女が部屋に入って、侍女の悲鳴と共にアレンから引き剥がされた…。
そのまま私は、王宮に連れて行かれました。
馬車の中でずっと、メルタージュ侯爵が泣いたから、大人の男の人が泣くのに驚いて……。
私は王宮に帰っても何も言わなかった。誰にも…お父様にもお母様にもお兄様にも、メルタージュ侯爵家の出来事は話さなかった。
だから、もうあの時の天使の男の子とは会えないんだと思っていたら、私の大好きな庭園で再会したんです!!
「お兄様と一緒に、私付きの騎士になる為に挨拶に来たんです!!
……でも…アレンは…覚えてなかった……。全く……。そんな素振りもなくて……。
でも違う人じゃない!!
私はあの時、はじめて恋に落ちた。あれからずっとずっと大好きだった!! でも…それは、私だけ…だった……。
……アレンには、沢山恋人がいます。スレンダーで小さくて綺麗な人が………。
抱き合っているのも、口付けしているのも、何回も 何回も 何回も …見た…ことが…あるから。
だから……早く……私から……解放してあげたいけど……でも…離れたくなくて……せっかく出会えたのに…また…離れないといけないなんて。
アレンには好きな人がいるから。王女の権力を使って、アレンと夫婦にはなりたくない。軽蔑されたくないから。
だから、あと少しだけ…あと少しだけ……夢を…見たいと……あと少し…だけ……」
エルティーナの声は嗚咽に変わり、涙は決壊する。
「分かったわ! 分かったわ!! 貴女は偉い。幸せになれるわよ。いいえ、幸せになりましょう!! ね! 約束!!」
ラズラはエルティーナの小指に自身の小指を絡ませ、微笑んだ。
ラズラは、泣きながら眠るエルティーナを見て思う。
「エルティーナ。アレン様はしっかり全部覚えているわよ。……恋は盲目ね…。
何故気づかないの??
出会った時、見た目が小さな男の子だったとしても、アレン様の中身は十七歳の青年よ。
忘れるわけが無いじゃない。
血を吐き続けるくらいの病が治っているとは思えない。
貴女と一線を越えない…夫婦にならない理由は、病持ちで…長く生きれない身体だからよ。アレン様は、越えたくても…越えれられないのよ……。
彼にとって、貴女以上に大切な人はこの世に存在しない。
貴女の側で残りの人生を生きることがアレン様にとって一番の幸せで、彼が生きる原動力となっているのよ、……きっと」
アレンの想いは究極ですね。
やっと回収できました。書きたかった。十一年前の思い出です。是非この話のアレンの気持ちを踏まえて前のお話も遡って読んでみて下さいませ。
アレンの想いがなんともいじらしいです。エルティーナは、本当に愛されております。
アレンの想いに本当に気づいて欲しいです。