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ある、王国の物語『白銀の騎士と王女 』  作者: うさぎくま
今世の物語
25/71

25、アレンの気持ちへの…疑問

 

「エル!」


「……お兄…様……の声…?」


『…もう…気持ちよく寝ているのに…起こさないで…ください……すぅーーー』


「エル…様…」


『……アレンの…優しい…声が…聞こえる…エル様って…いって…る…二人っきり…なんだわ…。

 だったら、もう…少し…このままで…もう…少し…だけ…お願い………お願い………』






 ミダの店。ミダは二階建て石造りの建築になっている。


 防波堤壁画で有名なスイボルン・ガルダーが亡き妻の為に造ったと言われており、店の名前である《ミダ》も彼の愛する妻の名前なのだ。


 スイボルンの芸術は彼の信念に基づいて造られている。彼が残した言葉は有名であり、芸術を学ぶ者には、はじめに知る大切な言葉となっていた。


『美しいものは美しいだけで存在しているのではない。美しくないものがあるからこそ、はじめて美しいものを美しいと思える。それが《美》となる』


 この言葉通り。


 ミダの外壁は一年の気候の移り変わりが彫り込まれている。決して、美しいだけの彫り物ではない。


 美しい花々や穏やかな風に対するよう彫り込まれいるのは、叩きつけるような豪雨。


 雨季の時期に死滅した動植物。見るものを穏やかにするだけでなく、目を背けたく様な自然の残酷さも描いたこの作品は、今だに論争が絶えない。


 しかしスイボルンの愛する亡き妻の為に。という逸話は、若者たちにとって胸焦がすようで、ここぞという時には《ミダ》を使う。


 口下手な若者たちにも、相手に本気を示せる。生涯愛する誓いは《ミダ》以外ではあり得ないとまで言われていた。



 店の間取りは、大部屋が一つ。小部屋が十二である。


 大部屋は百人が一度に入れる大きさをほこり、誰でも入れる大衆向けである。しかしどの部屋よりも豪華で細部までのこだわりがある部屋ともなっており、女性どうしや友人との少しの贅沢に非常に人気が高い部屋となっている。


 小部屋は貴族の集まりや特別な行事の際に使う事に当てられている。


 もちろん大部屋は太陽神をモチーフに、十二の小部屋は、各神々のイメージの部屋になっている。


 小部屋は上のランクにいく程、値段も高額になる。その高額に見合う守秘義務が貴族達や恋人達を大変満足させていた。





「着いたな。凄い人の数だ…エルの為じゃないと絶対にこないな」


 レオンは、苦笑しながら《ミダ》を見上げた。



「レオン様、部屋は貸切りですか?」


「当たり前だ。俺とアレンが大部屋で食事ができるとでも? これ以上、拝まれたり、失神されたり、例え俺達の身分を知らなくても、大混乱必死だぞ」


「ですよね…失礼しました」


「まぁ、今日は俺の奢りだから、お前達も好きなだけ食べろ。遠慮はいらん」


「えっ!? 本当ですか!? ありがとうございます」


「エルに付き合ってくれている礼だ。……ん? ミダに着いたのに、エルがやけに静かだな??」


「寝ているからな」


「はぁっ!?」




 落ちついたアレンの返答にレオンは思わずつっこむ。幸せそうに寝落ちしているエルティーナを見て、可愛らしいのを通り越して心配が苛立ちに変わる。




「……抱っこされて、寝るなんて…赤ん坊か…こいつは。

 ……はぁぁ……本当にこれで、男の相手がちゃんと出来るのか…?」


「おいっ、エル! エル!!」



「………お兄…様……の声……?」




(ぃ痛いぃぃぃぃぃぃ!!!!)


「「…レオン様??」」



 レオンがいきなりしゃがみ込むので、驚いたパトリックとフローレンスは、ハモりながらレオンに声をかける。

 声にならない痛みに、悶絶しているレオンは必死に足をさすっていた。



「レオン。うるさい」


 アレンは、レオンの足を静かに踏みつけたのだ。


「お前なっ! 手加減ってものを知らないのか。足の指が折れたらどうするんだ」


「王になる、頭脳が生きているなら問題ない」


「………お前は、甘やかしすぎだ!! エルが男を知らな過ぎる原因は、半分はお前にあるからな」


「レオンに言われたくない」


「うっ、まぁ…そうだが…。しかし完璧に熟睡しているよな。よっぽどアレンの腕の中は寝心地が良いのか」



 レオンのなにげない言葉に、アレンは、慈愛を込めながら優しく穏やかに、そして……愛おしいそうに……。


「エルティーナ様…」


 そう…微笑みながら……エルティーナの名を口にした………。



 レオンが、パトリックが、フローレンスが、息を呑む。


 アレンの表情に、態度に、声に…。


 いち早く覚醒したレオンは、パトリックとフローレンスの肩を叩きながら、店の中に促す。これ以上は無理だ。どうあっても、アレンを責めてしまいそうだからだ。




(何故!? お前は、エルを愛しているのか!?

 その愛は、俺と同じ愛か!? 違う愛なのか!?)




 アレンからは望む答えが得られないと分かっている。エルティーナに向けるアレンの気持ちは親愛なのか……それとも……。レオン自身どちらを望んでいるのか……答えは出ない。


 だからこそ、レオンは自らにエルティーナの未来、アレンの未来がこのままでいいのか、問いかけ続けた。




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