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ある、王国の物語『白銀の騎士と王女 』  作者: うさぎくま
今世の物語
10/71

10、アレンの想い

 

「フルール。君はいつも、友人に囲まれているね」



 キャットは、先ほどまでの光景を思い出し苦笑い…。



「あらっ。女性は群れるものですから。私は一人でもいいのですが…集まってくるんですの。そう! 言うなれば私は最高級の生肉よ」


「……そこは、花の蜜でいいんじゃないかな………フルール……」


「ダメ。私が花の蜜なら、何、あのケバケバしい方達が、蝶?? 馬鹿いわないで。例えでも許せないわ!」





 フルールの容姿は中より上で中肉中背、突起して目立つ訳ではないが、その普通の中、一際目を引くのはストロベリーブロンドの髪。


 美しい容姿こそ武器になるの!!と公言する彼女の容姿は、誰よりも派手である。自前の髪色もだが、ドレスもフリルたっぷりの濃いピンク。


 はじめてフルールに会った時、キャットは若干ひいたのに…すでになれている自分が笑えると感じていた。


 たまに、フルールがシックなドレスを着ていると、物足りなく感じる始末…。慣れはこわいと、しみじみ思っていると…。




 ぐんっっっ!!!



 身体のバランスが崩され転倒しそうになる。そして直後に痛みがプラスされた。


「…っ痛い。何!???」あまりの痛さに身体が痺れていく。



「…あ、兄上???」


 左手首を掴んでいる人物に目を向けた。


「…フルール。少し弟を借りる」


 あまりに簡潔すぎる台詞に、フルールも唖然。


「…ええ…どうぞ…」



 今の兄上に、しっかり返答ができるあたり、流石フルールだと惚れ直した。




 腕を掴まれ、アレンに引っ張られるキャットは痛さに悲鳴をあげそうだった。


(痛い、痛い、痛い)


 庭園の、先ほどまで兄上がいた場所に行くのだとは分かる。あそこは、広間から死角になっているから話しやすい。


(兄上!! 腕がちぎれそうなんですけど!!)


 言っても、聞こえないだろうと我慢するが、冗談なく痛い。


 痛すぎてキャットは意識がトリップする。




 …あぁぁぁ…常にベッドの上…、骨と皮だけだった兄上が、これだとは誰が思う??


 高い身長。長い手足。軍服の上からでも分かる極限まで絞り込まれた肉体。広い肩幅。厚い胸板。


 今だ…信じられない…。



 やっと、放してくれた時にはキャットの腕は鬱血していた。




「兄上は、馬鹿力……ですね……」


「…あっ…腕…すまない」


「……(えっ??気づいてなかったのか)」


 キャットはまたも絶句する。




 赤くなった腕をさすりながら、用件を聞くため兄の方に意識を向けた。


 視界に入った兄の姿は、見たことがないほど辛そうな表情を浮かべていて、よくない状況をどうしても思い描いてしまう。



「…キャット。今すぐ、エルティーナ様をフリゲルン伯爵から離してほしい。…頼む」


「エルティーナ様? ……ってちょと! 兄上!!」



 壁に背を預け座り込むアレンに、飄々としていても、かなり前から兄上は限界だったと知る。



「……頼む……。これ以上は、無理だ。我慢…できない……」



 レオン殿下のもう…潮時だ…という言葉が否応なくキャットの脳内に響く…。


 エルティーナの護衛をはずれた時点で、それはアレンとエルティーナの決別を意味している。


 キャットは今までの我慢が最高潮に達し、とうとう爆発してしまう。




「……こんな茶番っ……ふざけています!!

 そもそも兄上が、エルティーナ様と結婚すればいいのでは!!?

 兄上の本気をぶつけて、断る女性がこの世に存在すると思えない!!

 何故、エルティーナ様に手を出さないのですか!?エルティーナ様が兄上を好きなのは、誰が見てもわかります!!

 十一年前だって……。

 あのぽやっとふわふわエルティーナ様ですから、今の好きという想いが、男女間での好きではないかもしれません。ですがその好きを、兄上の求める好きに変えていけばいいのでは!?

 エルティーナ様が何も知らないのであれば、兄上が手取り足取り全てお教えればいいですよね!! 違いますか!?」



 キャットは、苛立たしくて。今まで言わなかった…言えなかった事をアレンにぶつけた。



「………それだけは、出来ない」


「何故!? 何が出来ないというのですか!?」


「…キャット…私の病は…治っていない」


「えっ…?」



「昔よりは大分減ったが…まだ吐血はある。今。この場で。心臓が止まっても、何も不思議じゃない…。

 口付けもしたい…。身体だって繋げたい…。もう一度…触れたい…。だが、踏め込めばもう戻れない。

 後…数年しか生きれない私と結婚してなんになる?

 …離れるべきだろう…でも…今更離れられない……。

 声が…聞きたいから。

 顔が…みたいから。

 名を呼ばれたいから…。

 ただ…そばにいたい…」



「兄上……」


「行ってくれ。…頼む」


「分かりました。行ってきます」




 キャットの姿が遠くなって。アレンは、息を吐く。優しい弟だと…。十一年前の事も、レオンや妻のフルールにも黙っている…。


 たくさん疑問に思っていても、今まで一度もふれてこなかった、優しい弟。


 アレンは溜まっていた気持ちを吐き、だいぶ楽になった…。



 ダンスを一緒に踊りたいと言った時の事も…。エルティーナにあれほど冷たい態度をとるつもりではなかったアレンだが…。


 あんな至近距離で、柔らかそうに上下に揺れる胸を普段見るはずのないその内側を目にしてしまった…身体が一気に反応して…かなりやばい状態だった。


 軍服が厚手のトラウザーズで良かったと、心から思ったのだ…。


 エルティーナが結婚しても、アレンは、側にいるつもりだ…どんな事をしてでも…。




 星広がる空をみて。瞳をとじる。



「…(エル様)……愛しております…」



 決して口に出せない想いを込め、少しだけ…ほんの少しだけ声にのせる。


 心地よく、優しい風が、アレンの美しい銀髪を撫で続けていた。



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