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兄が妹萌えになりまして。  作者: 池田中務少輔輝里
第Ⅱ章 在校生→転入生
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第七話 「俺より強い奴に会いに行くってバッカじゃないの」

 朝、俺が制服に着替えて家を出ようとした時だった。


「ちょっと待ちなさい」

 母親に呼び止められ俺は足を止めた。なんじゃらホイ。忘れ物でもしたかな?いや弁当は持っている。


「あんた、お友達の前では女の子らしい言葉で喋らないとダメよ」

 女の子らしい?


「例えば、もう自分の事"俺"っていうのやめなさい。ちゃんと"私"と言いなさい」

 えーっやだよそんなの。


「ダメ。あんたはもう女の子なんだから。男みたいな言葉使ったら小遣いアップの件無しにするわよ」

 そんなぁ。約束が違う。実は昨日、俺を勝手に女にした代わりに小遣いを増やしてくれることになったのだ。


「あれはあんたが女の子になるの承諾したからでしょ。だったらちゃんと女の子になりきらないとお小遣いの件だって白紙になるの当たり前じゃない」

 あれは勝手に女の体にされたのをごちゃごちゃ言わないことへの見返りだったんじゃないの?


「何言ってんの。身も心も女の子になるのが条件に決まっているじゃない」

 そんなのひどいじゃないか。


「お小遣いを5000円から7000円にしてあげたでしょ。嫌なら5000円に戻すわよ」

 わかったよ。言うとおりにしますよ。お小遣いが2000円もアップするのはありがたいのは事実だし。んじゃ、兄貴行くか。


「"お兄ちゃん"でしょ」

 なっ?お兄ちゃん?くっここはお小遣いのためだ。俺は嫌がる顔と口を無理やり動かして笑顔でクソ兄貴に言った。お兄ちゃん、行こ♪


 いままで女言葉なんか使ったことなんて無いのに急に使えと言われても…というわけで俺はあまり喋らないようにしたのだ。迂闊に喋って正体がバレてもまずいかんな。しかし、こっちが喋らなくても向こうから話しかけてくるわけで、それへの返答もいちいち気にしなければならないので参る。ここは"はい""いいえ"で乗り切るしかないな。そんな中、一人の女子が俺がなぜ俺の家に養子に入ったか訊いてきた。ややこしい言い方ですまない。俺は、両親が借金を苦に自殺して一人残った私を父の友人だった養父が引き取ってくれた、と答えた。


「ふうん、でもさこんなに可愛い義妹(いもうと)さんがいるのに家出するなんてもったいないよね」

「本当、俺より強い奴に会いに行くってバッカじゃないの」

「でも、おかげでこの娘がうちのクラスに来てくれたんだから。あいつがいたら定員オーバーでよそに取られてたよ。いなくなって良かったよね」

 本人を前にして情け容赦の無い罵声の数々。家出した理由がアホなのは認めるが、いなくなって良かったはひどいだろ。誰も俺の事を心配してくんない。この学校には中学からの知り合いは一人もいない。よって人脈が形成されていないのだ。それでも気軽に会話できる友達がちらほらでき始めてきた矢先の性転換。苦労して築き上げてきた人脈が一挙に崩れ去ってしまった。俺は皆を知っているのに皆は俺をしらない。俺は食い終わった弁当を片付けると黙って立ち上がった。


「どうしたの?」

 俺は何も答えずに教室を出た。すると一緒に弁当を食べていた中で唯一俺に配慮してあまり絡んでこなかった委員長が追いかけてきた。


「待って」

 なに?


「ごめんなさいね。あなたにとっては大事な家族みたいな人をいなくなって良かったとかって。悪気は無いのよ?」

 彼女が謝ることじゃないのに。委員長って配慮だけじゃなくてフォローもできないと務まらないのかな。でも、それ以前に彼女は真面目で優しい。この先、彼女とは仲良くやっていけそうだな。大丈夫、わかってるから。気にかけてくれてありがとう。そう言うと彼女はホッとした表情を浮かべた。なるほど美人ランクB+だけのことはある。ちなみに僕のランクはどのくらいだろう。A…AAいやAAAも狙えるかも?はっ、いかんいかんついつい女の子みたいな思考になっていた。俺はそんなの気にしないぞ。俺まで自分を完全に女と認識してしまっては男としての俺が完全にいなくなってしまう。家族は男の俺の存在を消そうとしている。クラスメートは男の俺がいなくなっても気にもしていない。あまりに理不尽な状況に俺のフラストレーションは危険値を突破していた。そして、気づいたら俺はすべての元凶のところへ走っていた。

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