第四話 「大丈夫、家出したことにするから」
どうやら家族はこの家から俺が男だったことの痕跡を消し去るつもりらしい。ぬいぐるみなんていつ買ったんだ?えっ?本棚の漫画が少女コミックにすり替えられてる?ま、ましゃか…あーっやっぱりDVDも入れ替えられてるーっ!?プリキュアって俺見たことないよ!?さすがにこれはやりすぎだ。抗議してやる。俺は母に詰め寄った。なんで勝手に俺の部屋をいじってんだよ!?
「もうあなたも女の子なんだから女の子らしい部屋にするの当然でしょ」
なんで俺が怒ってるか全くわからないかのようなリアクションはやめろ。それに女の子らしいって言ったな?じゃあこれはなんだ?なんでベッドの下にショタとかBL本が隠すように置いてあるんだ?
「えっ?いまどきの女の子ってそういうの読むんじゃないの?」
俺は腐女子か。
「それよりちょっとこれあわせてみて」
それ、うちの学校の女子用制服じゃないか。もしかして学校は一緒か?
「その方があんたもいいでしょ」
昨日まで通っていた学校に転校生として行くなんて世界広しといえど俺ぐらいなものだ。
「それにお兄ちゃんと一緒だと母さんも安心できるしね」
どゆこと?
「あんたこんなにかわいいから襲われるかもしれないじゃない。身内が一緒の方が安全でしょ」
あの兄貴が一番危険だと思うが。
「そんなことより早く制服を着てみて」
はいはい。制服を手に取る。当然、初めてなので母親に手伝ってもらいながら着ることになるのだが……
「あ、あんた下着買ってきたんでしょ? ついでに着けてみてよ」
へっ?
「あんたがどんなの買ってきたのかも見てみたいし。出して」
……ほらよ。
「あらー、あんたにしては可愛いの選んだじゃないの」
選んだのは店員だけど。
「さ、着けてみて」
着けてみてって、それにはまず脱がないと。
「女同士だから恥ずかしがることないわよ」
あんたにとって俺という息子はもう存在しないんだな。そうだ、学校には俺の事どういうんだ?俺だけ引っ越しましたってか?
「大丈夫、家出したことにするから」
俺、家出する理由ないよ。
「多感な年ごろだから急に情緒不安定になることもあるでしょ」
なぜ、俺の家出する動機を他人が勝手に拵えるんだろう。もし、俺が情緒不安定になるとしたらそれは家族のせいだろう。
「早くしなさい。母さん、夕飯の支度をしなきゃならないんだから」
はいはい。もう俺はヤケになりかけていた。服を全部脱いで買ってきた下着を手に取る。やはり抵抗がある。手が抵抗するんだ。
「なに躊躇してんの。男のくせに往生際の悪いわね」
…どっちだ。あーもうどうにでもなれ。覚悟を決めてパンティに足をとおす。ううっ屈辱だ。変態のクラスメートが盗んだ女生徒の下着を身に着けて快感に浸っているのを汚物を見るような目つきで軽蔑していたが、まさか俺も同じ類の変態になろうとはこれ以上の恥辱はあるまい。ブラは母に着け方を教えてもらう。
「はい、鏡」
自分の下着姿を確認。俺が男のままで目の前にこんな娘がいたら恥も外聞もなく我を忘れて抱きついていただろう。それくらい魅力的だった。そして、いよいよ制服。これまたよく似合う。
「本当、母さんの現役時代を思い出すわね」
言ってろ。もう脱いでいいだろ?
「ええ、ちゃんとハンガーにかけておきなさい」
わかってるよ。ついでにブラとパンティも……。
「それはちゃんとつけておきなさい」
やはりダメか。どっと疲れがでてきた。夕飯までまだ時間があるから部屋でひと眠りするとしよう。