第三話 「これなどいかがでしょう」
まさか女性用下着を買いに行くことになろうとは昨日までは夢にも思わんかった。そう、俺は一人でジオンモールの下着売り場に来ていた。母曰く、「下着はサイズが合うのを選ばなきゃダメ」だそうで、そんなのわかりもしない俺は店員さんに訊くしかないも、そないな勇気など持ち合わせてもいない。女の店員に「俺に似合う下着選んでくんない?」って言えるか。いくら見た目は女でも俺は男だ。そう簡単に男を捨てられるか。その俺が自分で女の下着を買いに来ているんだもんな。
「女の子になったんだからいつまでも男物じゃダメでしょ。とりあえず下着だけでも買って来なさい」
そう母に言われて来たわけだが、やっぱり気乗りしないな。因みに今日は学校は休んだ。行こうにもこんな姿じゃ誰も俺と信じてくれない。兄貴に変な薬飲まされて女にされちったなんて誰が信じる?転校生として行くしかあるまい。それが現実的だ。そしたら兄貴が、
「そんなことしたらお前が俺の妹じゃなくなるじゃないか」
と反対しだした。そりゃよそから転校してきたんだから誰も俺と兄貴を兄妹とは思わないだろう。だが、安心しろ。俺はお前を血の繋がった兄貴とは思っていないから。
「そうか……」
ちょっと言い過ぎただろうか、しょんぼりしているぞ。
「ツンデレもいいかもしれないな」
正真正銘のアホだ。
「まあ待て、養子縁組をすればいいんだ。そうすればお前たちは義理だけど兄妹だ。父さんとも義理の父娘となる」
「さすが親父だぜ!」
ようするにバカ親子ということか。これ以上関わっていたらバカの病原菌がうつる。俺は母親から金をもらって買い物に行くことにした。兄貴が呼び止める。
「ちょっと待て」
なんだよ?
「帰ってきたらパンツを穿いている姿を見せてくれ」
あいにく、離れていたので鉄拳が出せなかった。代わりに無視することにして俺は家を出た。そして、現在にいたるわけだが、このまま素直に下着を買って帰ったら俺が状況を受け入れたことになる。そんなの俺が負けたみたいで嫌だ。でも買って帰らないとダメだし。どうしたものかと立ち尽くしていると店員に声をかけられた。
「お客様、いかがされました?」
え、えと…下着を買いに来たんですけど、どれを買っていいかわからなくて。
「それでしたらまずサイズを測りましょう」
俺は店員さんに試着室に連れて行かれて服を脱がされた。女性の前で上半身裸になるのは母親以外では何年振りだろう。
「お客様、ブラジャーは今日はつけておられないんですね」
いえ、生まれてこの方ブラジャーなる物を手にしたことは一度もございません。
「そんなのダメですよ。せっかくこんな形のいいバストをされているんですから」
そうなのかな。よくわからない。店員さんは慣れた手つきで俺の胸のサイズをメジャーで測ってくれた。それをもとにブラを選ぶわけだが、俺は店員さんに任せることにした。
「これなどいかがでしょう」
じゃそれでお願いします。ついでにパンツも買って昼になったので昼食を食べてから帰ろう。と思ったら母からメールが。
『夕方まで帰らないでね。母より』
なんで?なんかよからぬことでも企んでいるのかな。帰るな言われても特にすることもないし、俺はフードコートで時間をつぶすことにした。すると、見知らぬ男が声をかけてきた。
「へい、彼女お茶しない?」
……俺?そうかいまは女になってるんだ。まさか男にナンパされるとは。虫唾がはしる。悪いけど他をあたって。
「つれないなあ。いいじゃんお茶ぐらい」
しつこい。俺は無視して行こうとした。そしたら肩を掴まれた。ムカッとなった俺はそいつの顔面に鉄拳をお見舞いしてひるんだすきに逃げた。ったく、男に声をかけるなんても。いくら見た目が女でも男なら見分けろよな。しょうがないからエムドナルドで時間をつぶそう。夕方になったので俺は家に帰った。今日はあれから2回もナンパされた。確かに見た目美少女だけどよ。出るたびにナンパされるんなら外に出るのも億劫になるよな。たっだいまーっ。あー疲れた。少し寝よう。と自分の部屋のドアを開けたら中はすっかり女の子の部屋になっていた。