最終話 「返事を聞かせてくれ」
目が黄色に光っている?男の様子を見るに出鱈目じゃないようだ。
「この野郎!」
男が貫手を繰り出してきたので、それを左手の平で受け止める。男の指が私の手を貫通する。私はその手をぎゅっと握ると、右拳を繰り出した。男はそれを左手で受け止めようとしたが、私の拳はそれを貫いて男の腹に拳をめり込ませた。そして、男に連打を浴びせて吹っ飛ばした。飛ばされた男はホビットくんたちの方へ。これで技が崩れた。すかさず私は走って行って、ホビットくんに技をかけていた男の一人の肩の上に飛び乗って、男の頭を両膝で固定して男の足を手でつかんで男を海老状に反らせて腹を引き裂いた。残った男は逃走を図ったので追いかけようとしたら、急に立ちくらみがした。周りがグラングランして私は立っているのができなくなった。両膝と両手を地面についた私を見て逃げようとしていた男が不敵に笑って近づいてきた。
「へ、へへっ何がどうなってるか知らねえがずいぶんと辛そうじゃねーか」
やばい、体が動かない。
「よくも仲間をやってくれたな。たっぷりと礼はさせてもらうぜ」
男は懐から光り物を取り出した。
「殺すには惜しい上玉だぜ」
人の顔をなめまわすように見る男に私は嫌悪感を露わにした。すると、男はナイフで私の制服を切裂いた。ブラをしている胸が露わになる。
「ちっこいくせに一人前にブラしてやがるんだな」
男は嘲笑気味にからかう。これは母さんが小さくてもブラはしておきなさいと言うからだ。
「まずはその可愛らしいおっぱいを見してもらおうか」
ブラにナイフが。抵抗しようにも体が思うように動かない。別に見られて減るもんじゃないが、こんな奴にタダで見してやる気もない。かといって金を出したら見せるか?と言われても見せない。万事休すか。その時、男の背後にあの男が現れた。パンツ一丁に顔面パンツのザ・ヘンタイマンだ。例によって顔のパンツは私のだ。
「な、なんだ?てめえは!」
「か弱き乙女を襲う悪党め、このヘンタイマンが成敗してくれる!」
「この野郎、ふざけやがって!」
男はナイフでヘンタイマンに襲いかかったが、さすがヘンタイマン。男からナイフを取り上げると、男を逆さに持ち上げ顔をパンツの中に。そして、そのままツームストーン・パイルドライバー。悪に厳しいヘンタイマンの仕置きはまだ終わらない。男の頭をパンツから出すと、今度は尻のところをずらして丸出しになった尻を男の顔に押し付けてブッ。あまりの惨たらしさに私は目をそむけた。その後も男の「やめてくれ」「助けてくれ」「許してくれ」という悲鳴が響き渡ったが私は目をそむけるしかなかった。しまいには男は「頼むから殺してくれ」と哀願するようになっていた。
「貴様のような悪党をそう簡単に楽にしてやると思ったか!たっぷりと生き地獄を味わせてやる」
鬼のようなヘンタイマンに男の顔が引きつる。さすがに可愛そうになってヘンタイマンに言った。もう楽にしてやってと。ヘンタイマンは「わかった」と男にトドメを刺した。終わった。そうだ、ホビットくんは?彼の所へ行こうとしたらヘンタイマンが遮った。
「彼の事は私に任せて、君は警察と救急車を」
うん。私は言うとおりにして携帯で110と119した。その時、ゴキッと変な音がした。何の音だ?ヘンタイマンの方を見ると彼は頭を横に振った。まさか…。ホビットくんのところへ行くと彼はピクリと動かなかった。
「すまない。私がもう少し早く駆けつけていたら」
ヘンタイマンの声は耳に入っていなかった。女になって初めての恋がこんな終わり方をするなんて。私と付き合わなければこんなことにはならなかった。そう思うと自責の念が私を襲った。ごめんなさい……。しばらくしてサイレンの音が聞こえてきた。いつの間にかヘンタイマンはいなくなっている。私も逃げようとしたが、まだ体が思うように動かない。そこへ、お兄ちゃんが駆けつけてきた。
「大丈夫か?」
うん。お兄ちゃんは私をお姫様抱っこした。ちょっと、何すんだ!?
「話は後だ!」
そのままお兄ちゃんは走り出した。せめて、おんぶにしてぇ!
後日、私はホビットくんの葬儀に参列した。あれから警察から聞いた話によるとホビットくんの致命傷になったのは首の骨折だという。胸の傷はかろうじて致死レベルに達してなかったようだ。しかし、首が折れるみたいなことはなかったはずだ。いつ折れたんだろう?実に不思議だ。それと、私の目が黄色く光ったという現象。お兄ちゃんの仮説によるとTS薬の副作用じゃないかと。あの力もそうか。かなり体力を消耗するようで滅多に使うなと注意された。
葬式から帰ると私はお兄ちゃんに呼び出された。なに?
「これでわかったろ?あいつではお前を守ることすらできないって」
……。悔しいが反論できない。
「あいつはあいつなりにお前を守ろうとした。しかし、結果はアレだ。いくら努力しました、最善は尽くしましたと言っても結果がすべてだ。俺なら誰よりもお前の事を想ってるし、守ってやれる自信がある。そのために毎日体を鍛えてるんだ」
確かに行き過ぎではあるが私の事を想ってくれるのは事実だ。けど…。
「わかった。こうしよう。お前が卒業するまで俺は待つ。返事はその時までに決めてくれ」
それ以来、お兄ちゃんは姿を消した。母が学校に出した理由は諸国漫遊の旅に出ただった。
あれから3年。私は卒業の日を迎えた。あの日以来、私は数人の男と付き合ったが、どれも長続きしなかった。どうしても、ホビットくんの事が頭をよぎるのだ。それと、日増しに私の中でお兄ちゃんの存在が大きくなっていた。いなくなったことでその存在の大きさを知る。委員長たちとは学年が上がってクラスが別になることで少し遠くなり、新たな友達との付き合いも始まった。友達からの一緒に帰ろという誘いを断って私はある場所に急いだ。3年前に約束した待ち合わせ場所に。彼はすでに来ていた。3年前よりも逞しく頼もしくなっている。
「久しぶりだな」
本当だな。別に心配してなかったが。
「それはひどいな」
それはお互い様だ。
「お?少しは背が伸びたか?」
まあね。胸もわずかだが成長している。
「そうか、良かったな。それでなんだが……」
何がそれでなんだ?皆まで言うな。用件を先に言え。
「返事を聞かせてくれ」
3年前の求婚への返事。もう私は完全に女に慣れていた。だから、男を好きになるのに抵抗感は無かった。そして、私には彼しかいなかった。誰よりも私を想っていて守ってくれる人。私は返事する代わりに彼に抱きついた。
END.




