第二十二話 「明日も一緒に帰ってくれますか?」
放課後、待ち合わせの一本杉に長蛇の列が。委員長たちがメガホンで整列させてくれている。あと、念のために生徒指導の通称"スグルくん"にもお越しいただいている。余談だが、スグルくんには他にも"スグル大王"や"超人スグル"といった呼び方もある。結果が見えていることに気付かず期待に胸を膨らませそわそわしている男ども。用意してある机と椅子で向かい合う形で面談を行う。
「それでは先頭の方からどうぞ」
「おおう!」
なんかえらい気合が入ってるな。試合と勘違いしてるんじゃないか。
「オッス!」
オ、オッス…。空手部らしき男は私を好きになった理由や私への思いを熱く語った後告白した。
「どうか、俺と付き合ってください!」
ごめんなさい。男は泣きながら走り去った。その後も、熱心に私への想いを延々と語ったり、自作のポエムを披露したり、挙句の果てには私の手を握ってきたりする奴もいた。
「おさわり厳禁!」
委員長が注意してすぐに手を引っ込めた。そんな感じで一人ずつごめんなさいを言ってようやく終わった。途中で誰から去り際に握手を求めたので応じたら以後の奴も握手を求めるようになり握手会の様相も呈していた。
「さて、帰ろうか」
そうだね。机と椅子を片付けないと。これは私でやっておくから3人は先に帰って。
「いいよ、一緒にかたづけよ」
八重歯の好意は嬉しいが実はまだ用事があったりする。大丈夫、これだけだからすぐに終わるよ。今日は私のために時間を取らせたんだから。
「そう?じゃ帰ろうか」
「うん、バイバイ」
「また、明日ね」
バイバイ。さて、片付けよう。あ、スグルいや先生もありがとうございます。えっ?手伝ってくれるんですか?ありがとうございます。スグルくんのおかげで早く終わった私は体育館裏に向かった。実は一人だけそこを待ち合わせに指定してきた奴がいたのだ。もう、だいぶ時間が経過しているので帰ってるだろうと思うけど、気になったので見に行くことにしたのだ。いなかったら帰ろう。多分、いないだろうと体育館裏を覗いてみると一人の男子生徒が立っていた。
「あ、き、来てくれたんですね?」
少し緊張気味の男子生徒は私より少し背が高いだけの小柄な体型だった。ずっと待ってたの?
「はい」
なんとまあ律儀な。
「あ、あの、初対面でいきなりこんなこと言うのは失礼だと思うんですが、もし、よ、よ、よろしければ…ぼ、ぼぼぼぼぼくとつつつ……きあって」
待った、皆まで言うな。もういいよ。言わなくていい。
「えっ?」
ホビットくんは途端に落ち込んだ。フラれたと思ったのだろう。その認識は間違っていない。ただ、他の連中みたいに無下に扱う気にもなれない。一緒に帰ろうか。そういうと、ホビットくんは驚いた顔になった。
「本当ですか?」
お兄ちゃん以外で男と一緒に帰るのは初めてかもしれない。体格的に同等の彼なら襲われても抵抗できるという安心感もあった。二人並んで帰るも、会話は全く無い。私は別に話す必要なんかないし、向こうは緊張して口が動かないのだろう。そんな彼に悪戯心が芽生えた私は彼の手を握る挙にでた。当然、ホビットくんは驚く。顔を見ると真っ赤だ。ありえないぐらいの純情くんだ。いや?いじわるっぽく尋ねる。
「そそっそそそんなことあ、ありませんです」
なぜだろう。彼とこんなことしても嫌じゃない。他の男だったら断固拒否しているのに彼だったら自分から積極的になっている。なぜだろう。それは彼に下心が無い(ように見える)ことだろうか。もちろん、彼とて私に告白しようとした一人だ。でも、彼はどう見てもロリには見えない。変態的な下心が見えないのだ。それと背丈が同じくらいという親近感もある。同胞意識とでも言おうか。やがて、二人の帰り道が分岐する地点に差し掛かった。じゃ、バイバイ。手を振ってお別れ。すると、
「あの、明日も一緒に帰ってくれますか?」
無理だし、やめといた方が身のためだ。もし、私と一緒にいるところをうちのお兄ちゃんに見つかったら、この世の地獄を味わいながら本当の地獄に落ちることになるから。でも、君の事は嫌いじゃない。それだけは言っておく。じゃ。
家に帰ると母親に訊いてみた。私に彼氏ができたらどうする?
「えっ?誰かいるの?」
目をキラキラさせてきた。いや、もしもの仮定の話だよ。
「そうねえ、まずは赤飯ね。そんで次の日に彼氏を家に招待してパーティを開きましょ」
決定、彼氏ができても絶対に母親には知らせない。




