第二十一話 「それはちょっと誠意が無いんじゃないかしら」
翌朝、予期せぬ光景に私は開いた口が塞がらなかった。登校して下駄箱を開けた私はラブレターらしき封筒が多数入れられているのを目の当たりにした。前の私ほどではないが、それでも上履きが埋もれて見えないぐらいはある。前の私ならわかる。女性から見ても魅力的な女性だったみたいだから。でも、いまの私は下手すれば小学生に見えてしまうくらいのガキンチョである。そのガキンチョにラブレターとはこの学校の男どもはロリコンであることを自ら暴露してしまっている。私が呆れるのも無理からぬことであろう。前の私なら即座にゴミ箱に捨てていたが、さすがに同じような処置は不味いと思いとりあえず読んでみることにした。
ラブレターの束を教室に持っていくと茶髪と八重歯が興味津々な顔をして寄ってきた。
「ねえねえ、それってラブレター?」
そだよ。
「あんたのお姉ちゃんもすごかったけど、あんたも同じくらいすごいね」
お姉ちゃんとは前の私の事である。どっちが姉か妹か言った記憶は無いが見た目で判断するのはやめていただきたい。まあ、この世に現出したのはいまの私が後だけど。
「で、それどうすんの?」
昼休みにでも読もうかな。一緒に読む?
「いいよ、私らは遠慮しておくよ」
そう?じゃ、一人で読もう。んで、昼休み。私は一通ずつ手紙を読んだ。好きです、付き合ってください、愛してますといった常套句が並ぶ中、自分と私が付き合わなければならない理由というかこじつけを延々と書き記している輩もいた。まるで、そいつと私が神の定めた運命によって付き合わなければならないみたいな。そこには私の自由意思は尊重されてない。さて、どうするか。やはり前みたいにゴミ箱に捨てるか。そうすれば前みたいに後続のラブレターを断つことができる。
「ダメよ、そんなの」
委員長に注意された。でも、前の私ならいざ知らず、いまの私を好きになるようなロリコンどもだよ。絶対に普通じゃないって。
「だからよ。自分の心を込めたラブレターがゴミ箱に捨てられたって知ったらどんな行動にでるかわからないわ。最悪、ストーカーになるかもしれないわよ」
確かにそれは嫌だ。じゃ、返事を出すか。返事ってどうやって出すの?
「えーと、待ち合わせ場所が記されていたらそこで返事すればいいと思うけど。待ち合わせ場所書いてないの?」
書いてある。
「じゃ、その場所で返事すれば?」
そうなんだけど、問題は全員が同じ時刻に同じ場所を指定していることだ。
「ま、まあ告白の定番だからね、あそこは」
ならば全員まとめて返事すれば一網打尽だ。"ごめんなさい"って。
「それはちょっと誠意が無いんじゃないかしら」
そうなの?
「ちゃんと一人一人にお断りしなさい」
面倒だ。
「後々の事を考えての事よ」
うーん、委員長がそう言うなら。
「ところで、あなた端っからお断りのつもりでいるようだけど、もうちょっと考えてみては?」
考えるって何を?
「男の人と付き合うつもりは毛頭無いの?」
無い。
「気持ちいいぐらいの即答ね。でも、あなたはもう女の子なの。その現実をいい加減受け入れないとダメよ」
母親みたいな言い草だな。でも一理ある。まあ、とにかく放課後になってからだ。




