第二話 「妹が欲しかったんだ」
前回までの3つの出来事。ひとつ、兄の部屋から妹物のエロ本が発見される。ふたつ、兄宛にTS薬なるものが届けられる。そして、みっつ、変なジュースを飲まされる。
いきなり拉致された俺は大の字に拘束され顔に変なメイクをした連中に体をいじくりまわされた。やめろーっやめろジョッカーぶっとばすぞぉ。隙を見て逃げ出した俺は何とかアジトから脱出した。助かって安堵したのか尿意を催した俺は公園のトイレに入ってなぜか個室に入った。そして便座に座って……。
変な夢だった。なんであんな夢をみたんだろう。どうして小便をするのに便座に座るんだ?女じゃあるまいし。俺はいわゆる“座りション”派ではない。ちゃんと立ってする日本男児だ。女みたいに座って用を足すなどできるか。じゃ、夢でなんで座っていたんだ?わからない。どうでもいいや。それよりトイレに行こう。んしょっと。…あれ?なんか声がいつもと違うような。あーあー、確かに違う。何かの病気か?熱は無い。頭が痛いとか喉が痛いとかも無い。ほっとけば自然に治るか。特に気にすることもなく俺はトイレに入った。当然、便座をあげてパンツの中に手をいれる。ここまではいつもどうりの毎朝の営み。今日はここからが違っていた。無い。何が無いって?無いんだよ。俺の大事な息子がよ。んなアホな事があるか。肉眼で確認する。股間にあるべきものが無いのが視認できた。
!!!!!
声にならない叫び。俺はトイレから飛び出ると洗面所の鏡で自分の顔を確認した。誰だよ、この女。見たことのない女が鏡に映っていた。誰なんだいったい。って俺はどこよ。どこを見ても鏡に俺は映っていなかった。そう、俺は見知らぬ女に姿を変えていたのだ。あわてて食堂に駆け込む。大変だ、俺女になってる!
「あらぁ?本当に女の子になったのね。あなた来て本当に女の子になっているわよ」
「なんだって?本当だ。母さんの若いころにそっくりだ」
えっ?母さんってこんなにかわいかったの?
「まっこの子ったら親をからかうんじゃありません」
そう言う割には満更でもないような感じだが。それよりかどうなってんだよ。なんで女の子なってるんだよ。って本当にってどういうことだ?まさか、こうなることを知っていた。否、むしろ仕組んでいた?どうして?動機がまったく見当つかない。親が息子を娘にする動機ってなんだよ?
「それは俺が答えてやる」
うわ、びっくりした。なんだよ兄貴、何か知っているのか。
「まあ、座れ」
うん。
「お前が女になった原因はこれだ」
TS薬?昨日、兄貴に届いた荷物か。
「TSはtranssexualつまり性転換って意味だ」
性転換?それって性別が変わるってこと?それを俺に飲ませた?いつよ?そうか、あの妙なジュースか!なんでそんなアホな事を。
「妹が欲しかったんだ」
アホだ。待て親父も母さんも知ってたんだろ?なんで止めないんだよ。
「だって止める理由がないじゃない」
あるだろ。
「そのことについては父さんも母さんも真剣に話し合ったんだ。最初聞かされた時はびっくりしたよ」
そりゃそうだろうよ。ってか俺も呼べよ。
「呼んだら反対するだろ?」
当たり前だ。
「この家って女は母さん一人だけだろ? 家庭内のバランスを考えるとだな。お前を女にした方がバランスがいいと思ったんだ」
「つまり、だ。妹が欲しい俺と娘が欲しい親父たちの思惑が一致したわけだ。家族会議で決めたことだ。異論は無いな?」
あるわボケェ!家族会議のメンバーが一人欠けてるだろ!当人の承諾も無しに何してくれてんだゴラァ!
「もう済んでしまったことだ。それより頼みがあるんだ」
あんだよ。
「“お兄ちゃん、大好き”って言ってくれ」
俺は代わりに鉄拳をくれてやった。