第十五話 「見ない方がいいと思う」
「だったらはっきり嫌だって言えばいいじゃん」
昼食時に3人に相談したら茶髪がもっともな事を言った。でもね、言おうとしたんだけどね、言わしてくんないだよ。
「そりゃ相当好かれちゃってるな」
他人事だからか八重歯は真剣じゃない。茶髪も似たり寄ったり。委員長なら真面目に考えてくれるはず。期待のまなざしを委員長に向ける。
「女の子同士で……ありえない…でも、いまはありなのかな…どうしよう…」
何かぶつぶつ言っている。結局、自分の事は自分で解決しろか。それにしても百合っ子はなぜ俺を好きになったんだ?ひょっとして俺が男を寄せ付けないから同類と思われた?確かに男には元々興味ないけど、女にもいまは興味を無くしている。
「ともかくだ。また会ったら今度こそはっきり言えよ」
この八重歯の一言で話は終わった。はっきり断る。できるかな?俺は百合っ子が来るのを待った。彼女なら昼食が終わり次第来るだろうと思ったからだが来ない。どうしたんだろう。拍子抜けだな。飲み物買って来よう。自動販売機に買いに行く。今日はイチゴ・オレにしよう。お金インしてボタンプッシュ。よし帰ろう。って、何かにぎやかだな。掲示板のところだ。ちょっと見てみよう。って、皆なんで私を見るなり目をそらすの?一人クラスの女子がいたので聞いてみよう。ねえ、何かあったの?
「えっ?えーと、なんでもない。何も知らない方がいいと思う」
どういうことだ?掲示板に何かあるのか?
「見ない方がいいと思う」
そう言われると見たくなる。どれどれ、掲示板に張り出されている広告を見る。『ATM会設立と会員募集のお知らせ』?ATM?Automated Teller Machineの事か?学校にもATMを置いてほしいと懇願する会かな?それともAnti Tank Missile?でも、そんなのはミリタリー研究会で十分だと思う。あ、下の方に書いてある。えと、Azusa kryuu wo Tinohatemade Mederu会?ぶっちゃけ霧生あずささんのファンクラブです♪?えっ?俺はイチゴ・オレを落とした。どういうことだ?誰だ?こんなアホみたいなことを。って百合っ子じゃないか。協賛はバカ兄貴だ。ってかあいつ協賛って意味わかってんのか?ふざけやがって。俺は広告に手をかけるとビリビリに破こうとした。それをさっきのクラスの女子が止める。
「勝手に破いたらあなたが怒られるわよ」
ぐっ。校則には掲示物を無断で撤去もしくは故意に破損した者は懲役に処するとある。懲役とは教師の雑用をやらされることである。でも、本人に無断でこんなの。ん?会?団じゃないのか?うちの学校のクラブ活動は3つにランク分けされる。上位が"部(一部の文科系では研究会と称する)"学校・生徒会公認で部費と部室が支給され部長は統合部長会議の出席が認められる。中位が○○同好会、××愛好会などの"会"生徒会公認で部費は支給されないが部室は提供される。統合部長会議にはオブザーバー(意見表明のみ、発言権・議決権は無し)として参加できる。以上二つが公認クラブ。そして、最後に下位が"団"生徒たちが勝手に作ったクラブで部費はもちろん部室の提供も受けられない。どこか空いた部屋を使うしかないが、無断なので学校や生徒会からの指示があれば立ち退かなければならない。これが非公認クラブ。だから当然この俺のファンクラブとやらは学校はおろか生徒会の公認も得られないだろうから団どまりになるはずだ。
「なんでも生徒会に申請したら一発OKだったらしいよ」
なんと?
「あなたって結構人気あるのよ。知らなかったの?」
そうなのか。もしそれが事実だとすると、公認クラブ設立の条件である部員5人以上は軽くクリアできそうだな。あと顧問だが、誰か引き受ける教師がいるのか?そうか、まだ設立申請は受理されたけど条件が整わないと会の発足は成り立たない。こんなふざけた会の顧問になる物好きで暇な教師なんているわけ…いた。広告にちゃんと顧問の名前も書いてある。あろうことかうちの担任だ。頭痛くなってきた。悪いけど私、持病のエボラ出血熱が発症したから早退するって言っておいて。