第十一話 「ふっふっふ、まだまだ甘いな」
「ところで、あんた学校でいっぱいラブレターもらったそうね」
夕飯を食べているときだった。母親が突如、今日の学校での出来事を話題にしはじめた。なんで知ってるんだ?そうか、夕飯の買い出し時にクラスメートの親御さんに聞いたんだな。
「ええっ!?ラブレターってお前どういうことだよ!?」
兄貴がオーバーリアクションに驚く。なんだ、知らなかったのか?
「今日は学校行ってないだろ」
そうだった。今日は俺が仕掛けた『痴漢ホイホイ』に捕まって拘束されてたんだったな。
「それでどうしたんだ?」
無論、即ゴミ箱に捨てた。
「うん、正しい判断だ。ただ、出した奴の名前を控えてなかったのが残念だな」
なんでだよ。
「そいつらをリストアップして二度とお前に近づかないようにするためだよ」
それは残念だったな。
「次ラブレターが来たら捨てずに保管しておけよ」
もう来ないだろう。心を込めて書いた手紙を封も開けずにゴミにしてやったんだ。そんな女にラブレターを出す男なんていないだろう。俺ならそんな女を好きになろうとは思わない。
「お前はまだ男をあまりよく知らないから甘く見てるんだ」
待て、俺が最初から女だったみたいに言うな。女になってまだ3日目だ。圧倒的に男だった期間が長いんだぞ。付き合った彼女の数だって俺の方が多かったじゃないか。
「ああ、思い出した。あんたが初めての彼女とデートした時、ぎこちなく彼女と腕をからめて歩いてたわよね」
ちょっと何見てきたように言うんだよ母さん。
「偶然、見かけたのよ。あわてて隠れちゃった」
なんで隠れるんだよ。
「だって自分の息子がよその女と歩いてるのよ。お父さんの現場を目撃するより衝撃的だったわ」
ふうん母親ってそんなものなのか。こっちとしてもデート中に肉親特に母親と出くわすのは避けたいからな。じゃ、もし、もしもだよ?俺が男とデートしてたらどうすんの?
「その男をぶっ殺す」
お前には聞いてない。
「そうね、その時はお赤飯ね」
なんで?そんなお祝い事にすることか?
「ええ、もちろん彼氏も招待してね」
その時は永久に来ないだろう。多分。もし、俺に男ができるとしたら相手は天下人から御免状を授かった傾奇者みたいな男からも惚れられるような漢だろう。そんな漢はもういないだろうから俺が男に惚れることは多分一生無いだろう。少なくとも現時点では無い。ちなみに今日は親父はいない。残業だろうか。
夕飯を終えると俺は自室で本を読んでいた。読む本といっても俺の漫画は処分されている。あるのは少女マンガとBL本だ。悪いが少女漫画には僕は興味ない。BL本も然りだ。試しに読んでみた。3秒で投げ捨てた。どうして女はこんなのが好きなんだ?しかし、兄貴がこんなのに興味をもたなかったのは幸いだな。いかがわしい薬で弟を妹にするような狂人だからな。BLに興味を持ったら一番身近で年齢的にも近い俺が狙われる可能性が高い。ゾッとする話だ。どっちが良かったかといえばどっちも嫌だ。プリキュアでも観よう。
「お風呂入りなさーい」
はーい。着替えを持って風呂場に行く。昨日の事があるからちゃんと浴室のカギを閉める。これで外部からの侵入は不可能だ。安心して風呂に入れると思いきや。
「ふっふっふ、まだまだ甘いな」
天井の方から声がするので上を見たら、天井に兄貴がいた。突っ張り棒を使って。本当にアホだな。こいつは。