第十話 「えっ?ちょっとひどすぎない?」
次の日の朝、鳴り響く目覚まし時計を止めて俺はベッドから出た。今日もいい天気だ。パジャマから制服に着替える。
「グッグォォォッ」
何かうめき声みたいなのが聞こえるが気にしない。ドアの近くに設置した粘着シートを床に並べて作った『痴漢ホイホイ』に捕まって床に倒れて動けないでいるアホがいるがそれも気にしない。ゴキブリホイホイに捕まったゴキブリをいちいち気にする奴がいるか?
「うおぉぉぉっすぐ近くで妹が着替えてるのにそれを拝めないとはぁ!」
俺は着替え終わると鞄を持ってアホの頭と背中を踏んづけて部屋を出た。
家を出て学校に向かう。なんだろう、この違和感。皆が俺をみているようなそんな錯覚。自意識過剰にも程があるな。確かに見た目綺麗だけど。自分の事からか俺は自分をそんなに魅力的だとは思っていない。俺は自己愛主義者じゃないからな。
「おっはよう」
と声をかけてきたのは昨日一緒に弁当を食べた女子の一人だ。お、おはよう。女子に声をかけられるなんて滅多に無いから少し戸惑ってしまった。
「さっきから皆あんたのこと見てるよ」
やはり錯覚でも自意識過剰でもなかったか。
「人気者っていいねぇ」
えっ?俺あ、いや私ってそんなに人気あるの?転校したばっかなのに?
「君はもう少し自分の魅力に自覚を持つべきだね」
そうかな?
「そうだよ。せっかく美人に生まれたんだからさ。本当に美人だよね。胸も大きいし、えい!」
ひゃあああっ!?不意打ちに俺は思わず悲鳴をあげてしまった。周りの注目が一気に集まる。
「えい♪ えい♪ あんたの胸って触り心地抜群だね♪」
ちょっ…皆が見てるよ?完全にバックを取られている。相手は女の子だし手荒な真似はできない。あのアホだったらアシュラマンと戦ったテリーマンみたいにしてやるのに。一分後、ようやく解放された俺は疲労で地面にへたり込んでいた。
学校に着いて自分の下駄箱に向かうとその下駄箱が大変なことになっていた。俺の下駄箱に封筒がびっしりと詰められているではないか。なんじゃこりゃ!?
「あらららら、すんごいことになってるね」
笑い事じゃないよ。詰め込みすぎて扉が閉まっていないじゃないか。いったいなんなんだ?新手の苛めか?とにかく上履きを出さないと。邪魔だな、この封筒。どれもハートのシールで封がしてある。まとめてゴミ箱に捨てる。
「えっ?ちょっとひどすぎない?」
いいんだよ。どうせ内容を見ても返事は決まってるんだからな。教室に行くと俺の机にも封筒がわんさかと。これもまとめてゴミ箱へ。こういうのははっきりさせた方がいいんだよ。そしたら二度と俺にラブレターなんて考えないだろう。
「あんたって意外とはっきりした性格みたいね」
昨日一緒に弁当を食べた女子の二人目が言う。さらに衝撃的な事を言ってくれた。
「そういやささっき先生に聞いたんだけど、家出したあんたの義兄さん、いまロシアの地下格闘技場にいるんだって?」
はあっ?母さんはいったい何を学校に吹き込んでんだ?この分だと当分日本に帰れそうにないな……。当たり前だけど。