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第四話 花子と太郎と音楽家


 「あー、恐ろしいところだった……」

 「えー、僕は面白いところだと思うけどなぁーっ。あのねー、骸骨先輩の肋骨協奏曲ほんとにすっごく綺麗なんだよーっ。あとね、ダンスもマイケルみたいに上手でねーっ、僕前に見たとき感動しちゃったっ!」

 「いやだっ!何が何でももう絶対に会いたくないっ!!」

 「僕は楽しいと思うんだけどなぁー……っ。あそこのホストクラブね、結構人気なんだよっ?」

 「いっ、行く人の気が知れないな……」

 「えー、でもほらっ、あそこっ!」

 太郎が突然天井に向かって指を差した。私はそれを見て指の先を目で追う。

 するとそこには数個の人魂が浮かんでおり、その人魂が理科室の方向へと飛んでいった。

 それを眺めながら太郎が告げる。

 「あの人達はあそこの常連さんなんだよーっ。週5で行ってると思うよ?」

 「……あぁー、私もあの人達はよく見るな、目立つから。何が楽しくてあんなところに行くんだろうな……」

 私は遠い目をして恐怖に怯えた。

 

 「ねぇねぇ花子ちゃん知ってる?」

 「何をだ?」

 「二宮金次郎くんの噂だよー」

 不気味な夜の校舎にそんな少年少女の声が響く。時折窓ガラスが揺れては、何処かから外の冷たい風がやってきて、2人の頬を撫でていった。

 しかし2人はそんなことは気に掛けず、暗い廊下を歩いていく。そして会話を続けていくのだった。

 「あぁ、校庭のあいつか。あの夜中走り回ってる奴だろ?あいつがどうした?」

 「なんかね、この前二宮くん、一時撤去されてリニューアルされて帰ってきたらしいんだけど……」

 「あぁ、そう言えば見なかったかもなっ。で、どうしたんだ?」

 「リニューアルされた二宮くん、歩きながら本を読むのは危ないからって座ってるんだって」

 「あいつが座ったのかっ!?世も末だな……座ってたらあいつの像意味無いだろ」

 「だよねーっ。でね、二宮くん座ってみたら座ることに感動を覚えてもう走らなくなっちゃったんだってー。予想以上に座ることが楽なのに気付いたらしいよ?それに最近漫画ばっか読んでるって」

 「なんだそいつはっ!怠惰の象徴みたいじゃないかっ!そんなやつの像なんて飾ってどうするんだか……」

 「小学生がまねしなければいいけどねー」

 そんな話をしながら何気なく窓の外を見ると、そこには本を読みながら爆笑している二宮金次郎がいた。噂通り座りながら漫画を読んでいるようである。

 「努力の象徴みたいな人だったのになー……」

 私は何だか哀愁を感じるのだった。

 そんな時、廊下は終わりを告げて数枚のポスターが張られた壁に突き当たった。その突き当たりの部屋には音楽室という看板が掲げられている。端が少し欠けており、大きな罅が走っている。

 その看板を見ると、太郎が思い出したように手を叩いて私にあることを告げた。

 「そうだよっ!まず先生達に引っ越し先を相談するべきだったんだっ!それが手っ取り早いねっ!失礼しまーす……っ」

 「おっおいちょっと待てっ!」

 私は理科室のような失敗を繰り返さないように、今度は太郎の腕を早めに掴んで引き留める。すると太郎は不思議そうな表情を見せたが、私はそんな太郎に向かって尋ねたのだった。

 「先に行かないでくれるか?その……怖いから。で、なんだ?その先生っていうのは」

 「お化けなのに怖いの?まあいっか。……花子ちゃんってこの学校のこと全然知らないんだねーっ。僕より長くいるのにー」

 「まっ、まあな、律儀にトイレに閉じこもってたからな……」

 私は恥ずかしく思いながらもそっぽを向きながら答えた。……外に出れらるなんて知らなかったからな。

 「へぇー、結構花子ちゃん真面目なんだねっ」

 そんな私を見て太郎が感心したように頷いた。

 「で、先生って言うのは何なんだ?」

 私が再度そう尋ねると、太郎が思い出したように説明を始めた。

 「あぁ、先生って言うのはね、この学校のご意見番のバッハ先生とベートーベン先生のことだよっ!花子ちゃんもその2人の名前ぐらいは知ってるでしょ?」

 「あぁ、あの2人のことかっ。私も名前は知ってるぞっ。あの喋るっていう……」

 「そうそう、その2人のことだよっ!先生達はこの学校じゃ一番長いし、知識も豊富だから、悩み事なんかがあったら2人に聞く人が多いんだっ。理科室がホストクラブだから……、音楽室は相談所ってところかな?」

 「幽霊の相談所かぁー……。死んでからも悩むなんて大変な生き物なんだな、人間は」

 私はそう言って嫌な顔を見せた。

 「じゃあ入ろっかっ!」

 そう言ってドアに手をかけようとした太郎を見て私は慌てた。理科室の惨劇が蘇って来る。相当なトラウマになっているようだ。

 「たっ、太郎っ!」

 「ん?」

 私は慌てて太郎を呼び止めると、恐怖に少し震えながら、恥ずかしさに頬を赤く染めて太郎に尋ねる。

 「そっ、その……てっ、手を繋いでもいいか?や、やっぱり怖くてな……」

 そう手悪さしながら尋ねると、太郎が首を傾げながらも私の手を取ってくれた。

 「……そんなに怖いことあったかな?ここ」

 太郎は私の恐怖の対象が何処に向かっているのかさっぱりのようだった。

 太郎が首を傾げながらもドアに手をかけた。私は少し握る手を強める。

 そして太郎は音楽室へと入ろうとドアを横へ滑らせた。

 するとその時、

 『ドガジャァアアァァァアアアアンッッ!!』

 突然何か地を唸らせるかのような巨大な音が鳴り響いた。

 私たちは突然の事に驚いて身を震わせる。

 その音は耳を塞ぎたくなるほどに大きな物で、それは音楽室から響いているようだった。

 地響きのように鳴った音は、その後次第に落ち着きを増し、暫くすると美しい音色へと変わっていった。どうやらこの騒音の正体はピアノであったらしい。

 しかし私たちはその正体を知っても肩を下ろそうとしなかった。2人は顔を見合わせて訝しそうな表情を見せる。

 何故なら私たちはこんな夜中にピアノの音を聞いたことが無かった。この学校には夜中にピアノが鳴ったことがない。つまりピアノを弾ける者は存在しないはずなのだ。

 私たちは頷き合うと、そろりと音を出さないようにゆっくりとドアを開けた。すると、そこからは演奏を続けるピアノが正面によく見えた。しかし蓋が開いているために演奏者の姿は見えない。

 私たちは足音を立てないようにゆっくりとピアノへと近づいていった。そして正面まで来るとピアノの下を覗き込む。しかしそこには、本来あるべき筈の足がなかった。私たちはそれを確認して再び顔を見合わせる。

 そして2人はとうとう決心を固めると、ピアノの影に身を隠すようにして移動しながら演奏者へと近づいてゆく。そして鍵盤のすぐ隣へとやってくると、私たちは頷いて同時に立ち上がり演奏者を確認したのだった。

 ピアノの美しい音色が鳴り響く。それが闇の中にやんわりと広がっては消えていった。

 そしてそんな音を奏でる中心にいるのは―――

 「「テケテケかよっ!!」」

 私たちはそう言ってテケテケの頭をパコンと叩いた。

 「……私、実はピアノ習ってたの」

 「知るかっ!」

 私はそんなテケテケの姿を見てすっかり太郎から手を離していた。


 「……で、なんでテケテケはこんな所にいるんだ?ここには足はなさそうだが……」

 私が一息吐いてからそう尋ねると、テケテケがそんな私の問いに思いだしたように答えた。

 「……あぁ、私はここに相談に来たんだよ。先生達の噂を聞いたから。どうしたら足が見つかるかと思って。そしたら……なんだかんだで頭を叩かれた」

 「なんだかんだの場所には何があったんだっ!?端折りすぎて良く分からないことになってるぞっ」

 「痛かったねーっ。よーしよし。遺体の遺体の飛んでけー」

 「……優しいのね。ありがとう」

 「おいっ、お前も私と頭を叩いていただろうっ!それに文字が合ってないっ!後は……もう知らんっ」

 私がぷくりと頬を膨らませていると、その時天井の方から声が響いてきた。

 「あぁ全くけしからん奴らだ。なぁ、そこの少女よ」

 「まぁまぁ落ち着け。ベートーベンよ。頭ごなしに怒るのも良くない。少女よ。そう怒るな。そこの女性が相談に来たもので、我々は相談に乗っていたのだよ。その流れで女性がピアノを習っていたと聞き、そして我々が弾くように頼んだのだ。分かったかね?」

 「まぁ演奏はいまいちだったがな」

 そんな重くのしかかるような低い声が上から落ちてくる。私はその声を聞くと、声の聞こえてきた方向を仰ぎ見た。

 するとそこには数枚の絵が壁に飾ってあった。人間の顔が描かれている。どうやら肖像画のようだ。その内先頭にある二枚の肖像画は何故か周りの肖像画に比べて一回り大きくできていた。だいぶ古めかしく年季が入っているようである。私がその二枚の絵をまじまじと訝しそうに眺めていると、また先ほどの声が響いてきた。

 「どうした?少女よ。私の顔に何かついているのかね?」

 「ついていても取れないけどな」

 私はその深い厚みのある低い声を聞いて少し驚いた。その声はやはりその古めかしい二枚の絵から聞こえてきている。そして会話と同時に額の中の絵が動いていた。どうやらこの人達が真夜中の相談所の先生―――ベートーベンとバッハのようである。

 私はそれに気付くと、2人に首を振った。

 「いや、付いてない。ただ、貴方達を初めて見たものでな」

 私がそう告げると2人は納得したようにうなり声を上げて頷いた。

 「なるほどな。そういうことか」

 「了解した。で、少女。君は名を何と言うのだ?」

 「花子だ。トイレの花子だと言えば、もしかしたら通じるか?」

 私がそう尋ねると、2人は驚きの声を上げた。

 「あぁ、お前があの噂の」

 「ほぉ、そうか。噂通りの姿だな。小さな身体になんとも可愛らしい顔だ」

 そう言って2人は私を眺めた。さっきっから気になっているのだが、私はどんな噂が流れているんだ?それに誰が流しているんだ?太郎か?

 私がそう首を傾げていると、2人が私に思いだしたように尋ねた。

 「そうだ、花子。お前はここに何を相談に来たんだ?わざわざ用もなく来たわけではないだろう?」

 私はそう尋ねられると、気が付いたようにハッとして用件を話し始めた。

 「あ、あぁ。そうだ。実はな、あの小汚くて騒がしいトイレから引っ越そうと思ってな。それでこの学校を彷徨っているのだが、何処か良い場所を知らないか?」

 「ペットとか欲しいって!あと広くて煩く無いところだってっ」

 「ペットはもういいっ!その条件だと、理科室以外は家畜小屋か、ゴキブリ付きの倉庫しかなくなるだろうっ!?条件は今より広くて煩くないところだっ。それで頼むぞっ」

 私がそう尋ねると、2人は眉間に皺を寄せて考え始めた。

 「広くて煩くないところか……。その条件なら幾つかあるが……何処がよいか……」

 「容易そうで難解な相談だな……。何処がいいだろうか……」

 何やら2人は独り言を呟きながら真剣に考え始めた。幾つか候補があるらしい。私はそれを知って、案外すぐに見つかりそうだなと安堵した。

 そして暫くすると、2人はどうやら候補が纏まったらしく私に話し始めた。

 「まず俺が始めに思いついたのは家庭科室だ。時期によってミシンの授業期間は煩いかもしれないが、基本的に授業も多くないから静かだろう。確かテレビも冷暖房も付いてるぞ。どうだ?」

 「おぉ、それはなかなか興味深いな。ミシン位は我慢しても良い。テレビ付きも面白そうだな」

 私がそう答えると、少し得意そうに顔が歪んだ。しかしその後思いだしたように突然心配そうな表情になった。

 「だろう?……あぁ、でもあそこにはすでに一人住人がいたな。確か……KENだ。ルームシェアでも良いか?」

 「ルームシェアか?……まぁ、それでもおかしな奴じゃなければいいな。そのケン……と言う奴はどんな奴なんだ?」

 「ホスト業の人体模型だ」

 「じゃあ無しだ。家庭科室は白紙に戻してくれ」

 私は瞬時に断った。あんな奴らとなんて一緒に住めるか。

 すると次にもう片方の絵が私に話しかけてきた。こっちがバッハだろうか?正直私には学術的な一般常識が欠如しているので分からない。そもそもバッハとベートーベンって何をやった人だ?……まぁ、いっか。

 「では保健室なんてどうだ?冷暖房完備、ベッド付きだ。ただしこちらもルームシェアだが。確かあそこに住んでいるのは……JYUNだっただろうか」

 「おぉ、私は寝ないが、しかしくつろぐにはもってこいだな。トイレは立ちっぱなしだったからな。……で、ジュンっていうのはどんな奴だ?」

 「ホスト業の人体模型だ」

 「無しだ。人体模型とのルームシェア以外の条件もやっぱり追加してくれ」

 私は相手の言葉が言い終わらない内から断った。条件がやはり良くなかったな。

 するとまた片方の絵が私に話しかけた。私は、それを今度は訝しそうに見始めた。

 「では次は図書室なんかどうだ?静かの代名詞のような場所で、昼間も静かだ。本が沢山あるぞ。最近では漫画やライトノベルとやらもあるらしい。どうだ?……ただし、こちらも未確認だがルームシェアかもしれんがな」

 「それはかなりの好条件だなっ!昼間でも静かな場所なんてなかなか無いんじゃないのか?本があれば暇も潰せるしなっ。……で、未確認のルームシェアってどういう事だ?」

 「あぁ、それはだな、そこには夜中におかしな者が出るのだ。本来は誰も住んでいない筈なのだが、夜中になると偶に少年の幽霊が出るらしい」

 私はその話を聞くと、苦い顔をした。

 「なんだその幽霊はっ。偶に出るその気まぐれが困るな。どんな奴かも分からないのか?」

 すると絵は少し考え込んで、そして薄れた記憶を思い起こしながら話し出した。

 「確か……。漫画を読み漁っては、へんな声を叫んだり、走り回ったり飛び回ったりすると聞いたような……」

 「なんだその迷惑な奴はっ!静かのしの字もないじゃないかっ!全く、けしからん奴だな……」

 「あっ、それ多分僕……」

 「お前かっ!!」

 私はそう言って太郎に突っ込んだ。すると、太郎が嬉しそうに頷く。

 「うんっ。偶に漫画読みに行って、必殺技練習してるんだっ!いつか魔法使えるようになるかなっ?」

 「諦めなければその内きっと叶うだろう。頑張れ、太郎よ」

 「無理だろっ!!」

 私はそう言って思いっ切り突っ込んだ。

 



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