長いゴムの端と端で
ようやく決まったレギュラー番組
ピンと張ったゴムのこちらと向こう側
俺と藤井は強力なゴムの端と端を口で咥えて歯を食いしばっていた
藤井と俺がコンビを組んではや7年
俺がツッコミで藤井がボケ
俺は18歳で上京してお笑い芸人の養成所に入った
入所式の日の帰りに何故かバッタリ目が合ったのが藤井だった
それから俺たちはすぐにコンビを組んだ
コンビになって今までの7年間俺たちは文字通り苦楽を共にしてきた
自信を持って教官に披露したネタがボコボコにけなされた時も
全く客から笑いがとれず泣いて帰った夜道も
お互いネタが思い浮かばず、ふてくされて酒におぼれた日々も
お笑いのグランプリで優勝した瞬間も
俺と藤井は一緒だった
何せ相方だから俺はあいつのことなら何でも知っている
実は口が悪いこと
実はそれでいて傷つきやすいこと
実はクリームとかプリンとか甘いものが大好きなこと
実は小学生の時の肝試しでチビったことがあること
実はお姉さんの結婚式で泣いていたこと
俺も藤井も互いに隠し事はしないから
俺は藤井のことなら何でも知っているし
藤井も俺のことなら何でも知っている
長いゴムを挟んだ向こう側にいる藤井と目が合う
まるで初めて出会った時のように
藤井の瞳がかすかに揺れる
いつもの合図だ
解かったぜ
今からこのゴムの端を俺が放すからな
痛い思いをさせちまうから今日の夕飯は俺がつくってやるから
口を放そうと思った俺の顔面にバチンと脱兎の如くゴムがぶち当たった
俺と吉野がコンビを組んではや7年
俺がボケで吉野がツッコミ
18歳で吉野と出会いコンビを組んだ
吉野に出会うまで俺は口が悪くて他人とうまく関係が築いていけない自分を
少しうしろめたく思っていた
でも吉野はそんな俺の性格を長所だと
ネタに使えると大喜びしてくれた
初めて出会ってから本当にいろんな事があったけど
俺に自信というものを与えてくれた吉野には本当に感謝している
小学生が大学生になるくらいの年月を共にしていれば互いの知らないことはない
初恋はいつだとか今日のパンツは何色だとか…
多分これからも俺と吉野はいい相方同士でいるんだろうな
俺が咥えた長く伸びきったゴムのもう一方を咥える吉野と目が合った
そういえばお前、昨日俺が楽しみにとっておいたプリン食っただろう
俺は咥えていたゴムを口から放った
大学の課題で、『すれ違う心』というのをテーマに800字程度で小説を書きなさいというものが出ました。
採点も終わったみたいなので、載せても問題ないかと思いましたので投稿しました。
原稿用紙2枚で話を1つなんてなんて無謀な課題なんだと思いつつ書き上げました。
書いているうちに吉野と藤井がとても気に入ったので、またきちんと書いてあげたいと思います。(800字のやっつけ仕事ではかわいそうなので・・・。)