第5話 支給品回収
気づけば、携帯端末が小さく震えていた。
《残り時間:06:06:00:00》
《生存人数:100》
生存確認アプリの数字が、きっちりゼロを刻む。
あの宇宙人が言っていた「六時間ごとの支給品」ってやつだろう。
一日くらいなら耐えられると思い、これまでの支給品は見送ってきた。
だが、何が起こるかは分からない。
(……行くしかないか)
支給品を取りに行く道すがら、周囲の環境を改めて確認する。
拠点周辺は深い森林地帯で、大木と用途不明の建造物が点在していた。
拠点候補になりそうな場所もいくつか見つけたが、どれも落ち着かない。
結局、最初に見つけたあの倉庫が一番マシだった。
それにしても、この場所は地球とあまりにも似すぎている。
湿った空気、土の匂い、植物の種類。
(……再現しすぎだろ)
唯一違うのは、夜が来ないことだった。
太陽はずっと真上に張り付いたまま、動く気配がない。
時間の感覚が、少しずつ狂っていく。
寝たのか、起きていたのか。
もう、自分でも分からなかった。
身体だけが、時間に置いていかれた気がした。
マップアプリを開く。
黒一色だった画面に、いつの間にかいくつかの点が表示されていた。
青く点滅するマーク。
支給品の出現地点だろう。
最も近い場所を選び、歩き出した。
森林を抜け、開けた場所に出る。
誰かと遭遇するかと思ったが、人の気配はなかった。
そして――
無造作に置かれた金属ケースが目に入る。
「……あれか」
だが、俺は一人じゃなかった。
すでに二人の男が先に来ていた。
年は二十代後半くらい。一人はリュックを背負い、もう一人は落ち着かない様子で周囲を警戒している。
「……どうも」
声をかけると、一瞬だけ空気が張り詰め、すぐに緩んだ。
「……ああ」
「あなたも、支給品ですか」
短い会話。
名前も、素性も聞かない。
ここでは、それが正解なんだろう。
金属ケースは三つに分かれていた。
中身は水、乾パンのような固形食料、簡易的な医療キット。
量は多くないが、取り合いになるほど少なくもない。
誰も何も言わず、一つずつ持っていく。
譲り合いでも、奪い合いでもなく。
ただ、淡々と。
「……じゃあ」
「お気をつけて」
それだけ言って戻ろうとしたとき、リュックを背負っていた男が声をかけてきた。
「そういえば、連れ去られる前のニュース、見ました?」
「……いえ」
「私、ニュースを見ている最中に連れてこられたんですが……」
「最近話題になってた殺人犯、失踪扱いになってたんですよ」
隣にいた男が、わずかに震えた。
その瞬間、職場で耳にした噂が頭をよぎる。
《海外で未確認生物?》
《不可解な失踪事件》
(……今の状況と、同じだ)
つまり、俺たちは――
地球では「消えた人間」になっている。
「……殺人犯も、ここに?」
「そういうことです」
「十分、気をつけてください」
男はそう言い、もう一人を連れて立ち去った。
(危険人物も混ざってる……ってわけか)
拠点に戻り、支給品を並べる。
水一本。
固形食料二つ。
簡易医療キット。
(残り六日……全然足りない)
そう思いながら、生存確認アプリを開いた。
《残り時間:06:05:17:45》
《生存人数:98》
「……え?」
確かに、さっきまでは100だった。
見間違いじゃない。
もう、誰かが脱落している。
今日一日、俺が知らないどこかで。
(……何も起きなかった、わけじゃない)
静かすぎる。
だからこそ、不気味だった。
天井を見上げ、深く息を吐く。
今日は、生き延びた。
ただ、それだけ。
だが、明日も同じとは限らない。
そう確信しながら、俺は意識的に目を閉じた。




