第4話 生存開始
気がつくと、俺は草の上に転がっていた。
「……っ、痛……」
背中に伝わる感触は、さっきまでの冷たい金属とはまるで違う。
湿った土と、踏み荒らされた草の匂いが鼻をついた。
慌てて起き上がり、周囲を見渡す。
——広い。
見渡す限り、だだっ広い土地が広がっている。
森のような場所。
開けた草原。
遠くには、人工物らしき影も見えた。
だが、人の姿はない。
(……一人、か)
胸の奥が、わずかに縮んだ。
さっきまで、確かに大勢いたはずだ。
叫び声も、怒鳴り声も、泣き声も。
それなのに、今ここにいるのは俺一人。
「落ち着け……」
自分に言い聞かせるように、息を吐く。
あの宇宙人の言葉が、嫌でも頭に蘇った。
——七日間、生存するだけ。
(……簡単なわけないよな)
とりあえず、今やるべきことは一つだ。
拠点を探す。
キャンプの経験を思い出しながら、条件を整理する。
・見通しが良すぎない
・雨風を防げる
・できれば高所、もしくは逃げ道がある場所
歩き出そうとした、その瞬間。
目の前に、少し大きめの茶色いリュックが、音もなく落ちてきた。
「……っ!?」
反射的に身構え、次の瞬間、尻餅をつく。
恐る恐るリュックを開くと、中には
刃渡り十五センチほどのサバイバルナイフ、缶詰、五百ミリリットルの水。
そして、見慣れない携帯端末が入っていた。
(……なんだ、これ)
端末の画面に触れる。
《起動中……》
やがて表示が切り替わった。
《ようこそ、谷口誠也様》
その下に、いくつかのアプリらしきアイコンが並んでいる。
最初に目に入ったのは、受話器の形をしたものだった。
開くと、画面上部に説明文が表示される。
《協力者の電話番号を登録できます。ただし登録可能人数は五名までです》
《あなたの番号:4-25》
(五人まで、連絡が取れる……ってことか)
情報交換用だろうが、今すぐ使う場面ではなさそうだ。
次のアプリを開く。
紙飛行機のようなアイコン。
画面は真っ黒だが、中央で青い紙飛行機が点滅している。
(……マップ、か)
それ以外は何も表示されない。
おそらく、歩いた範囲だけが開拓されていく仕組みなのだろう。
最後のアプリは、黒い背景に白い“目”のアイコンだった。
嫌な予感を覚えつつ、タップする。
《残り時間:06:23:55:34》
《生存人数:100》
《脱落条件:死亡》
画面を見つめたまま、息を呑む。
——本当に、始まってしまったのだ。
そのとき、携帯端末が震えた。
着信表示。
差出人は、《主催者》。
(……あの宇宙人か)
応答アイコンを押す。
「皆さま、私からのプレゼントはお気に召しましたでしょうか」
丁寧で、感情のない声。
「混乱されていることは理解しております」
——理解してるなら、やるなよ。
そう思ったが、声には出さない。
「こちらは一方的なご連絡となります。質問にはお答えできません。ご了承ください」
逃げ道は、最初から用意されていないらしい。
「では、簡単に補足説明をさせていただきます」
「サバイバルナイフは多用途にご使用いただけます。障害物の除去などにお役立てください」
「缶詰と水は、最低限の初期支給品です」
最低限、という言葉が妙に重かった。
「食事に関しましては後ほどご説明いたします」
「携帯端末についてですが、電話とマップは表示通りの機能となります」
「マップは探索によって開拓され、皆さまの移動履歴が反映されます」
予想通りだ。
「生存確認アプリでは、残り時間、生存人数、脱落条件をご確認いただけます」
「なお、今回のショーでは——」
一瞬、間が空く。
「六時間ごとに、ランダムな十か所で支給品が出現します」
「支給品は先着順です。内容、数量ともに完全ランダムとなっております」
——取り合い、か。
「最後にお伝えいたします」
声が、少しだけ低くなった気がした。
「この“ショー”では、日本国の法律は適用されません」
「その点をご理解の上、行動してください」
「それでは……良い生存を」
通信は、一方的に切れた。
「……はぁ」
大きく息を吐く。
聞きたいことは山ほどあるが、必要な情報は大体揃った。
とにかく、拠点だ。
歩き始めて数分。
草原の端に、小さな建物の影が見えた。
近づくと、コンクリート造りの簡素な施設だった。
倉庫か、監視所か。
扉は壊れているが、屋根も壁もある。
「……ここなら」
中はがらんとしている。
だが、一晩しのぐには十分だ。
俺は床に腰を下ろし、静かに周囲を見回した。
ここから始めるしかない。
この、訳の分からない場所で——
生き延びるために。
こんばんは、銀河猿です。
今回が今年最後の更新となります。読んでくださった方ありがとうございます!
そして、来年も頑張りますので応援よろしくお願いします!
それでは良いお年を。




