第14話 快晴地帯の真実
無事に快晴地帯から撤退することができた俺たちは、先ほどまでの騒動で心身ともに疲れ切っていた。
足取りも重く、会話もほとんどないまま、船が何隻も係留されている静かな岸へと辿り着く。
ここまで来れば、ひとまず追手の心配はないだろう。
そう判断すると、俺たちはこれ以上進む気力もなく、その場で休憩を取ることにした。
波が岸壁に打ち寄せる音だけが、やけに大きく聞こえる。
俺たちが腰を下ろして、ようやく息を整え始めた、その時だった。
「……やっぱり、ここにいたか」
低く抑えた声に、俺は反射的に顔を上げた。
数時間前、快晴地帯で遭遇した例の三人組が、少し離れた場所に立っていた。
逃げる様子はない。
むしろ、こちらが来るのを分かって待っていた――そんな雰囲気だった。
俺たちは互いに視線を交わし、警戒を解かないまま、これまでの経緯を簡単に説明した。
快晴地帯で何が起きていたのか。
なぜ、あれほど慌ただしく撤退することになったのか。
話を聞き終えると、三人は互いに顔を見合わせ、小さく頷き合った。
「……やっぱり、あいつらか」
短い前置きのあと、彼らは自分たちの知っている情報を語り始めた。
まず、“王子”と呼ばれている人物。
その正体は、ジェリーズというアイドルグループに所属する五十嵐 龍。
十人ほどの女性を側近として囲い込み、自分を中心とした“王国”を作り上げているという。
快晴地帯に現れる以前、ある女性が支給品ボックスからクルーズ船の鍵を手に入れた。
五十嵐はそれを手に入れると、船と装備を背景に一気に勢力を拡大し、快晴地帯の支給品ボックスを独占する動きを見せ始めたらしい。
対する存在が、“姫”と呼ばれている女。
カラフルチアーズというアイドルグループ所属の赤井 由衣。
十五人ほどの男性陣を“騎士”として従え、組織的に動いている。
装備の質では王子側に劣るものの、その分、行動力と計画力に長けており、効率よく支給品ボックスを押さえにかかっているという。
この二大勢力がぶつかり合い、快晴地帯では常に小競り合いが起きている。
三人が巻き込まれたのも、その余波だった。
話を聞き終え、俺たちはしばらく言葉を失った。
ただの危険地帯だと思っていた場所が、ここまで歪んだ勢力争いの場になっているとは思っていなかった。
想像していた以上に、あの場所は危険だった。
沈黙を破るように、俺たちは改めて自己紹介を交わすことになった。
最初に名乗ったのは、ひときわ背の高い男だった。
「湯浅 賢介。三十三歳。大工で、今は現場監督をしてる。よろしくな、谷口さん、矢尻さん」
日に焼けた腕と落ち着いた口調が、いかにも現場仕事の人間らしい。
趣味は釣りで、快晴地帯を見たときは「ここなら釣りもできるかもしれない」と思い、しばらく滞在していたという。
結果として支給品ボックスに辿り着き、二大勢力の紛争に巻き込まれたが、どうにか抜け出すことができたらしい。
次に名乗ったのは、終始無口だった男。
「……丸本 茂。四十三。清掃員だ」
それだけ告げると、再び口を閉ざした。
多くを語らないが、周囲を見る視線だけは鋭く、油断ならない印象を受ける。
最後に、女性が一歩前へ出た。
「川上 光です。二十九歳。今は専業主婦をしています」
子どもはいないらしく、普段はママ友を家に呼んでお茶会のようなことをしているという。
言葉の端々から、少し余裕のある生活をしていることが伝わってきた。
自己紹介が一通り終わると、自然な流れで連絡先を交換することになった。
俺は湯浅と、矢尻さんは川上と、それぞれ連絡先を交換する。
「正直、この状況で単独行動はきつい」
そう前置きしてから、湯浅が続けた。
「しばらく、一緒に動かないか」
俺たちは顔を見合わせ、短く頷いた。
誰も口にはしなかったが、単独で動くより、その方が安全だという考えは一致していた。
こうして、即席の同行関係が生まれた。
やがて話題は、次の支給品ボックスへと移っていく。
この選択が、俺たちをどこへ導くのか――
その時は、まだ誰にも分からなかった。




