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地球人SHOW  作者: 銀河猿


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第13話 水上の勢力争い

湖上に、異様な静けさが広がっていた。

さっきまで砲撃が飛び交っていたとは思えないほど、水面は穏やかだ。

だが、その静けさが逆に不気味だった。

クルーズ船とモーターボート。

湖の中央に現れた支給品ボックスを挟み、両陣営がにらみ合っている。

「……始まる」

俺は、無意識にオールを握り直していた。

クルーズ船の甲板から、女性たちの声が飛ぶ。

「いい加減にして!」

「王子の邪魔をしないで、早く諦めて出ていきなさい!」

その声は、命令に近い。

いや、信仰だ。

対するモーターボート側の男たちも、負けていなかった。

「そっちこそだ!」

「姫のために、このエリアから消えろ!」

姫。

王子。

――狂っている。

ここは、ゲームでも舞台でもない。

現実の、生き残りをかけた場所だ。

そのときだった。

湖の向こうから、さらにエンジン音が響く。

「……増援?」

モーターボートが、次々と姿を現す。

一隻、二隻……六隻。

数で押すつもりらしい。

クルーズ船の甲板がざわついた。

そして――

中央から、一人の若い男が前に出る。

「……王子」

誰かが、そう呼んだ。

俺は、その顔を見た瞬間、息を呑んだ。

(……知ってる)

失踪する前、ニュースで何度も見た顔。

熱愛報道で世間を騒がせていた、

ジェリーズ所属のトップアイドル。

画面の向こうの存在だった男が、

今、ここにいる。

王子は、楽しそうに微笑んでいた。

「やあ」

その声は、驚くほど穏やかだった。

「ここはね、僕たちの王国なんだ」

軽い口調。

だが、目は笑っていない。

「残りの時間、僕たちは快適に過ごしたい」

「だから――君たちは邪魔なんだよ」

次の瞬間。

クルーズ船の船尾から、大砲が顔を出す。

「……撃て」

轟音。

湖面が爆ぜ、砲弾がモーターボートの間に着弾する。

水柱が上がり、衝撃がこちらのボートにまで伝わってきた。

「っ……!」

矢尻さんが、思わず声を上げる。

砲撃は、一発じゃ終わらなかった。

二発、三発。

無差別。

容赦がない。

「……撤退だ!」

モーターボート側の男が叫ぶ。

「このままじゃ、やられる!」

判断は早かった。

六隻のボートが、支給品ボックスを諦め、一斉に距離を取る。

勝敗は、一瞬で決まった。

――力による支配。

王子は満足そうに息を吐く。

「これでいい」

そう言って、小型船を出すよう指示した。

王子を含めた四、五人が、支給品ボックスへ向かってくる。

そのとき。

「……王子、あそこ」

女性の一人が、こちらを指さした。

気づかれた。

王子の視線が、俺たちに向く。

一瞬、考えるような仕草。

そして――

「僕たちは、この支給品を独占するつもりだ」

穏やかな声。

だが、その言葉の裏には、はっきりとした意味があった。

――邪魔者は排除する。

「……俺たちは支給品を取る気はありません」

俺は、必死に声を出した。

「では、失礼します」

逃げるしかない。

そう思った、その瞬間。

轟音。

砲弾が、水面を掠めた。

ボートが大きく揺れ、沈みかける。

「でもさ?」

王子の声が、風に乗って届く。

「危険要因は、排除すべきだよね?」

再装填の気配。

――まずい。

次は、当てに来る。

その瞬間だった。

「突っ込め!」

さっき撤退したはずのモーターボートの集団が、

一斉に戻ってきた。

撤退したと見せかけ、相手を油断させたのだろう。

王子の表情が、初めて歪む。

「な、何してるの!?」

砲撃対象を変えようとするが、

高速で迫るボートに、照準が定まらない。

混乱。

その隙を突き、モーターボートが小型船へ接近する。

王子は、こちらを見た。

「支給品は……あいつらに取られた!」

平然と嘘を吐く。

逃げるつもりだ。

だが――

「あいつを信じるわけじゃない」

男の声が響く。

「とりあえず、捕まってもらう」

視線が、俺たちに向いた。

距離が、急速に縮まる。

(……間に合わない)

俺は、歯を食いしばった。

そして――

「……ごめんなさい」

矢尻さんに、小さく謝る。

返事を待たず、リュックを開けた。

取り出すのは、あの木箱。

爆音箱。

迷いはなかった。

ボタンを押す。

「伏せて!!」

全力で叫び、投げた。

次の瞬間――

――ドォ゛ォ゛ォ゛ンッッ!!

世界が、音で砕けた。

鼓膜を直接殴られたような衝撃。

視界が白く弾け、水面が盛り上がる。

耳を塞いで伏せていた俺たち以外は、

その音を、真正面から浴びた。

人影が次々と崩れ、

湖へと落ちていく。

失神。

完全に、意識を失っている。

「……今だ!」

俺はオールを掴み、全力で漕いだ。

逃げる。

生きるために。

背後で、誰かの叫び声が聞こえた気がした。

王子だったのか、誰だったのかは分からない。

もう、振り返らなかった。

快晴地帯。

それは、楽園なんかじゃない。

力と狂気が支配する――

水上の無法地帯だった。

そして俺たちは、

その地獄から、かろうじて生き延びた。

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