第11話 不穏な忠告
雨雲地帯を後にし、俺たちは来た道を引き返していた。
背後では、今も雷鳴が空を引き裂いている。
「……戻って正解でしたね」
矢尻さんが、小さく息を吐いた。
草原に出ると、視界が一気に開ける。
「あれは、生活できる環境じゃありません」
「そうですね……。でも、他の人との接触はほとんどないと思います」
「……確かに」
人を避けるなら、雨雲地帯が最適だ。
だが、雨・風・雷に対抗する装備も知識も、今の俺たちにはない。
「まだ、完全に選択肢から消えたわけじゃありません」
「必要な道具が手に入れば、拠点にすることも考えられます」
「せめて、レインコートがあれば……」
「……支給品ボックス頼り、ですよね?」
「……はい」
矢尻さんは申し訳なさそうに俯いた。
「ごめんなさい。私のせいで……」
「違います」
俺はすぐに否定した。
「このやり方が、一番安全です」
「あなたの危険も、俺の危険も減らせる」
少し間を置いて、付け加える。
「だから……あまり自分を責めないでください」
矢尻さんは、俺の目をまっすぐ見て、
「ありがとうございます」
と、少し照れたように言った。
空気が、少しだけ和らぐ。
「……では、予定通り快晴地帯へ向かいましょう」
「はい」
快晴地帯へ行くには、あの支給品ボックスの前を通らなければならない。
(誰もいなければいいが……)
遠目に確認した瞬間、嫌な予感が当たった。
(……人?)
支給品ボックスの周囲に、三人。
男が二人、女が一人。
草原には隠れる場所がない。
(避けたら、逆に怪しまれる)
「矢尻さん」
小声で伝える。
「普通に行きます」
「……わかりました」
平静を装い、歩みを進める。
近づくと、背の高い男が声をかけてきた。
「すみません」
敵意はないが、警戒ははっきりしている。
「この支給品ボックスに拳銃があったと思うんだが......」
「なくなってんだ。知らないか?」
――来た。
心臓が、嫌な音を立てる。
(落ち着け)
「いえ。俺たちが来たときは、ほとんど空でした」
「銃は……見てません」
三人の視線が、探るようにこちらを動く。
「最初に見たときは、拳銃、ほら警察が使うようなやつ」
別の男が言う。
「でも、弾がなかったので置いてったんだよ」
「……そうですか」
信じていない。
だが、追及する材料もない。
重たい沈黙。
「ところで」
女が口を開いた。
「あんたたち、どこへ?」
「快晴地帯です」
その言葉に、三人の表情が変わった。
「……行かない方がいいぜ」
背の高い男が言う。
「ありゃー無法地帯みたいなところだ」
無口だった男が続ける。
「正直、いいことはない」
「だから、俺たちは別のエリアへ向かう予定だ」
そうして3人が腰を下ろし、
「ここで少し休んでから、な」
ありがたい忠告だ。
それでも――
「ありがとうございます」
俺は言った。
「ですが、一度見てから判断します」
三人は顔を見合わせた。
「たぶん」
女が静かに言う。
「すぐ戻ってくることになると思いますよ」
意味深な言葉を残し、俺たちは歩き出した。
草原を進みながら、矢尻さんが小声で言う。
「……行って、よかったんでしょうか」
「分かりません」
正直な答えだった。
噂や忠告じゃなく、
自分の目で確かめるしかない。
快晴地帯。
その先に何が待っているのか。
俺たちは、青く広がる空を見据え、歩き続けた。
第11話の更新を忘れていました。申し訳ございません!
これからもご愛読よろしくお願いします




