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物語序章 第一版 90章

海軍の源

太平洋の盾


 太平洋の時代が、静かに始まろうとしていた。

 運河が通じ、航路が整い、世界の海はつながった。

 しかし、広大な海を守るには、もはや旧来の艦隊では力が足りなかった。

 明賢は新たな決断を下す。

 ――日本海軍の再編成。四つの海を守るための巨大な艦隊群を築くのだ、と。


 横須賀を中心とした第一区には、六つの艦隊群が置かれた。

 一群に三艦隊、総勢十八艦隊。

 重巡洋艦十八、軽巡五十四、駆逐百八。

 この地は日本海軍の心臓であり、海の総司令部である。

 静かに浮かぶ艦の列が、明朝の霧の中で白銀のように輝いた。


 南半球、オーストラリアを中心とする第二区では、

 五つの艦隊群、十五の艦隊が組まれた。

 重巡十五、軽巡四十五、駆逐九十。

 シドニー、パース、ポートモレスビー、パラオ、ダーウィン――

 それぞれの港で蒸気と油の匂いが立ちこめ、

 兵たちは汗を流しながら艦を磨き、鉄の海の息吹を感じていた。


 第三区、サンディエゴを中心とする太平洋中央の守り。

 ここには最も多い二十五艦隊が編成された。

 重巡二十五、軽巡七十五、駆逐百五十。

 この区は太平洋の中央であり、北米とアラスカ、羽合を結ぶ大動脈だった。

 昼夜問わず造船所の灯りは絶えず、溶接の閃光が夜空を白く染めた。

 ハワイでは新しい艦の着任に、地元の人々が花を投げ入れた。


 そして第四区。

 パナマを中心に、太平洋と大西洋の両方を守る要。

 五つの艦隊群、十五艦隊。

 重巡十五、軽巡四十五、駆逐九十。

 フォークランド諸島、ノーフォーク、ジャクソンビル――

 遠く離れた海で、それぞれの艦が同じ日の朝日に輝いていた。

 この瞬間、東も西も南も北も、すべての海が日本の守りの下にあった。


 さらに、各区にはそれぞれ十隻ずつの補給艦、二隻の救難艦、二隻の海洋観測船が配置された。

 燃料を運び、負傷者を救い、嵐の前に海の声を聴く。

 その姿はまるで海そのものが意思を持ち、人の手で形を成したかのようだった。


 総計――七百八十四隻。

 太平洋史上、かつて存在しなかった規模の艦隊。

 その威容は力を誇示するためではなく、

 海を護り、往来する民を守るためのものだった。


 横須賀の総司令部では、明賢が静かに地図を見つめていた。

 赤い線が四つの区を結び、円を描く。

 「これでようやく、“太平洋の盾”は完成したな……」

 彼は独りごちる。

 この盾がある限り、日本と世界の航路は守られ、

 人々は夜の海に恐れを抱くことなく旅立てる。


 夜明け、各港で汽笛が鳴り響いた。

 艦の影が海面を裂き、波が白く跳ねる。

 七百を超える艦艇が、互いに無線で交わす最初の挨拶は、ただ一言――


 「太平洋に、静かな秩序を。」


太平洋の波を越え、日本と新大陸、南半球を結ぶように――

横須賀・呉・佐世保・シドニー・サンディエゴ・ノーフォーク。

六つの都市が「海軍の柱」として選ばれ、

それぞれの地で同時多発的に巨大な造船計画が進められていた。



横須賀 ― 海軍の心臓

横須賀は日本海軍総司令部を抱える拠点として、

数多の乾ドックが整備され、夜を徹して鉄槌の音が鳴り響いた。

それはまるで鋼鉄の鼓動であり、

国の力が形を得てゆく音でもあった。

造船所では日夜、補給艦や駆逐艦の修理が行われ、

艦隊が交代で整備を受けられるよう、

常に数隻がドックに収まっている。


技師たちは機関室の奥深くに潜り込み、

新型ディーゼルエンジンの点検を進めていた。

「これで航続距離が百里は延びる」

誰かが呟くたび、周囲の若い整備兵たちが誇らしげに頷く。



呉と佐世保 ― 西の守り

瀬戸内海に面した呉は、静かな湾の中に巨大な鉄の骨格が並ぶ。

乾ドックが三列に並び、長さ三百メートルを超える主力艦の建造すら可能となった。

隣接する鋼材工場では、オーストラリアから運ばれた鉄鉱石が精錬され、

すぐさま艦体へと形を変える。


一方、佐世保は南方航路の要衝として重要視され、

大型艦や補給艦や潜水艦の整備港としての地位を確立。

湾内には燃料タンクが連なり、

その間を縫うように給油パイプが伸びていた。

海面には補給艦が静かに並び、いつでも遠征に出られる体制を維持している。



サンディエゴ ― 西の玄関

新大陸側のサンディエゴは、まさに海軍の象徴といえる光景を呈していた。

海岸線に沿って十五の大型バースが横並びに築かれ、

重巡洋艦や補給艦が整然と並ぶその姿は壮観であった。

夜になると、港一帯が照明で金色に輝き、

波間に反射した光が、まるで都市全体を包むように揺らめいた。


燃料タンクや食糧庫、弾薬庫、兵舎が整然と並び、

港を見渡せば、整備兵と補給兵が昼夜を問わず働いている。

「ここは眠らぬ港だ」と呼ばれる所以である。



ノーフォーク ― 大西洋の盾

ノーフォーク軍港は、パナマ運河を越えて大西洋を守る最前線。

広大な港湾区域には整備棟が並び、

船体修理、砲塔整備、弾薬管理などの作業が同時に進行していた。

バースはサンディエゴと同じく十五基が整い、

停泊中の艦が連なる様は、まるで鋼鉄の城壁のようだった。

波打ち際に立つ人々がその光景を見上げ、

誰もが息を呑むほどの威容であった。



シドニー ― 南の要塞

南太平洋を見渡すシドニー軍港では、

海軍第二区の司令部が置かれ、造船所には大型クレーンがそびえ立つ。

ここでも十五のバースが整えられ、

駆逐艦や哨戒艇が規則正しく整備の順を待つ。

海風に混じる油の匂い、

鉄板を打つ槌音、

そして甲板から聞こえる指揮官の声が、

ひとつの都市を生き物のように動かしていた。



六つの軍港はいずれも、燃料タンク群・食糧庫・弾薬庫・兵舎を兼ね備え、

艦隊が世界のどこにいても即座に出航できる体制を築いていた。


その姿は、単なる「軍の設備」ではなく、

日本という国家の意思そのものを体現していた。


海を繋ぎ、港を結ぶ。

そこに働く人々は皆、

自らの手が「日本の動脈」を形作っていることを誇りとしていた。


鋼鉄の鼓動 ―日本海軍造船計画―


 太平洋を守る艦隊の構想が固まると同時に、次なる難題が訪れた。

 ――それほどの艦艇を、いったいどこで、どう造るのか。


 明賢は地図の上に赤い印を置いた。

 それは日本の造船の心臓、横須賀、呉、佐世保。

 そして、南半球の要、シドニー。

 さらに大西洋の門、ノーフォーク。

 それぞれの地が、巨大な造船網の中枢となる。


 横須賀には新たに四基の大型乾ドックが建造された。

 呉と佐世保にも同型のドックが並び、三つの港は一つの巨大な造船連合体として動き出した。

 ここでは重巡洋艦、補給艦、海洋観測船、救難艦――

 いずれも国家の命運を左右する艦種が建造される。

 分厚い鋼板が運ばれ、巨大な天井クレーンがゆっくりと動く。

 火花が散り、金属の匂いと海風が混ざり合う中で、職人たちは汗を流していた。


 「鋼の一枚ごとが、この国の未来を支える」

 そう語る工員の声が、造船所の壁に響いた。


 一方、南のシドニーでは、十を超えるドックが稼働を始めていた。

 地元の鉱山からは鉄鉱石が絶えず供給され、製鉄所の煙突から白い蒸気が立ち上る。

 ここで造られるのは、日本海軍の“足”――駆逐艦である。

 小回りが利き、俊敏で、どんな荒波にも怯まない。

 シドニーの工員たちは、自らの手で造った艦が太平洋の彼方に向かう日を夢見て、

 溶接の火を絶やすことはなかった。


 大西洋側のノーフォークでは、軽巡洋艦の建造が進んでいた。

 流線形の船体は、アメリカ大陸の風を切るように設計され、

 北米の木材や鉄材が補助資材として運び込まれていった。

 「日本中の様々な地で艦首を分担して造る」――それが明賢の意志だった。


 造船の方式も、もはや過去の延長ではなかった。

 全国の工場が連携し、艦体を“ブロック工法”で製造する。

 各部品は陸路と海路で造船所へ送られ、巨大なパズルのように組み上げられる。

 これにより、建造速度はかつての数倍に達した。


 造船所全体での建造目標は――年間百五十隻。

 それはかつての造船史上、誰も成し遂げたことのない数字だった。

 しかし明賢は静かに言った。

 「我らが海を守るには、これでも足りぬ。百隻は希望の灯であり、約束だ。」


 朝、横須賀のドックでは一隻の新造重巡洋艦が進水した。

 鋼の艦首が静かに海面を切り裂く。

 人々が拍手を送り、太鼓が鳴り響く。

 その艦名は――「はるか」。


 “この海の果てまで届くように”という願いが込められていた。


 そして日本は、静かに世界最大の造船国家として、

 太平洋の夜明けを迎えたのであった。

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