物語序章 第一版 88章
海を護る刃 ― 海軍増強計画始動
太平洋の島々が次々と日本の管轄下に入り、
海上保安庁による監視と救難の網が完成に近づく頃、
明賢の脳裏には新たな懸念が生まれていた。
「……この海を、誰が護るのか。」
太平洋を実質的に日本の内海とする構想は進行中だったが、
現状の海軍戦力は依然として遠征補給中心の艦隊構成に過ぎなかった。
補給艦、輸送艦、護衛用の駆逐艦――
それらは探索や開拓には適していたが、
もし他国がこの広大な海域に干渉してきたとき、
果たして防ぎ切れるだろうか。
「この海は、我々の生命線だ。奪われることなど許されぬ。」
明賢の命により、内閣と参謀本部は緊急の軍議を開いた。
そして正式に「太平洋海軍大増強計画」が発令される。
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【太平洋の再編成】
まず最初に行われたのは、太平洋を軍事的防衛区画として再定義することだった。
羽合を中心に太平洋全体を俯瞰した結果、
作戦効率と通信網、補給距離のバランスを考慮して
赤道と日付変更線を基準に、
太平洋を四つの防衛区域に分割する案が採用された。
この再編により、
それぞれの区域に独立した司令施設と常駐艦隊群が置かれることとなる。
各司令部は日本本土および羽合を中継し、
相互に連携しながら太平洋全域を統制する仕組みだ。
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【海軍再建の意義】
それは単なる軍備増強ではなかった。
太平洋という“果てなき領海”を実際に守るためには、
どれほどの船を持とうとも指揮と運用の体系が整わなければ無力だ。
この四区域構想によって、
艦隊運用・補給・偵察・通信・整備がそれぞれ自立し、
有事の際には即応して行動できる「常在防衛型海軍」が誕生する。
明賢はその全容を指し示しながら静かに言った。
「これより、我が国は“探す海軍”から“守る海軍”へと変わる。」
太平洋海軍大増強計画――
その中心理念は、単に艦を増やすことではなく、
**「太平洋全域を即座に掌握できる指揮体制」**を築くことにあった。
まず初めに定められたのは、
それぞれの海域を統括する四大司令部の設置地点である。
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第一区司令部は、日本本土の横須賀。
ここが太平洋海軍総司令部を兼ね、
全海域の作戦指揮・通信・補給計画を一手に握る中枢となる。
古くから海軍の根幹を担ってきた港湾都市は、
ここにきて再び国の「盾」としてその存在を輝かせた。
第二区司令部は、南半球の拠点――オーストラリア・シドニー。
南太平洋域を監督し、
赤道以南の島嶼群や航路を守る要として設置される。
周辺には造船所と燃料基地が整備され、
艦艇の補給・修理が現地で完結できるよう体制が組まれた。
第三区司令部は、北米西岸の山番市。
太平洋東岸の防衛線を担い、
新大陸方面の輸送艦隊・護衛艦隊を統括する要衝となる。
広大な港湾には既にドックが建設され、
次世代艦艇の前線整備拠点として機能し始めていた。
第四区司令部は、中央連絡の要、汎名。
太平洋と大西洋を繋ぐ門であり、
同時に両洋の艦隊を統括する中継点として選定された。
ここには通信中継局と燃料基地、さらには修理ドックが併設され、
両洋連絡の「心臓部」として動き出す。
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この四大司令部を軸に、
太平洋海軍は完全な分散即応体制へと生まれ変わる。
各司令区には、それぞれ独立した艦隊群が配置される予定で、
平時はそれぞれの区域の防衛と警戒にあたり、
有事の際は総司令部・横須賀の号令一下、
全艦隊が一糸乱れず連携する構造が整えられた。
明賢はその計画書を手に取り、
静かに立ち上がりながら言った。
「これでようやく、太平洋は我らの庭となる。」
日本本土・横須賀――
太平洋海軍の中枢にして、すべての艦が生まれ、帰る場所。
ここに置かれた第一区司令部は、
太平洋全域を統括する「総司令部」としての役割を担う。
しかし、太平洋を守るには、指揮だけでは足りない。
そこで明賢の指示により、
第一区には他区を凌駕する戦力――六艦隊群が新たに編成された。
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それぞれの艦隊群は、独立した三個艦隊を擁し、
艦隊一つにつき「重巡洋艦一隻、軽巡洋艦三隻、駆逐艦六隻」という、
攻防・偵察・護衛の全てを両立する標準編成とされた。
艦隊群は横須賀・呉・佐世保・舞鶴を主な拠点とし、
日本列島を取り囲むようにして巡回・防衛を行う。
艦名の多くは、旧時代の伝統を継ぐと同時に、
新時代の「太平洋の守護者」を象徴する名が与えられた。
艦隊群の目的は明確である。
日本列島および東アジア海域の完全防衛、
そしていかなる敵国が太平洋に手を伸ばそうとも、
横須賀を中心に即応・殲滅できるよう備えること。
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だが第一区の力は、戦闘艦だけでは終わらない。
戦う艦があれば、支える艦も必要だ。
まず救難隊。
嵐や衝突、戦時損傷に即応できるよう設けられた特別部隊であり、
海上保安庁とも連携し、人命救助・漂流艦回収・沈没艦調査などを担う。
彼らは「沈黙の医師」と呼ばれ、
戦場の影で多くの命を繋ぐ存在となった。
次に補給隊。
燃料・弾薬・食料・淡水の供給を専門とする艦群で、
第一区所属艦の活動半径を大幅に拡張させた。
艦艇は主に横須賀と房総の石油備蓄基地を中継し、
太平洋を駆け巡る艦への生命線として機能する。
そして海洋観測隊。
表向きは気象・海流・潮位の観測を任務とするが、
実際は新兵器の試験・航路の調査・海底探索も兼ねる。
彼らの報告は、後に太平洋航路網と防衛線を築く上で不可欠な資料となった。
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第一区――
それは単なる防衛拠点ではなく、
「太平洋海軍そのものを動かす心臓」だった。
その力は静かに、だが確実に膨張しつつあった。
まるで日本列島そのものが巨大な軍艦へと変貌していくように――。
第二区――南洋の盾(オーストラリア・シドニー司令部)
赤道より南、広大な南太平洋とインド洋に面する南半球――
第二区はそこを守るために編まれた防衛圏である。
司令本部はシドニーに置かれ、ここを中心に南太平洋域の安定と補給を担う。
明賢の指示により、第二区には五つの艦隊群が編成された。
各艦隊群は三個の艦隊を擁し、艦隊一つの基本編成は第1区と同じである。
この編成は、海上での護衛・哨戒・機動戦闘を同時にこなせる汎用性を重視したものだ。
機動力の高い駆逐艦で索敵と近接護衛を行い、軽巡が連絡・支援・高速輸送を担い、
重巡が火力支援と司令塔となり持続戦闘力の中核となる。
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配備司令部と地域の役割
第二区の指揮ネットワークは広大だが、効率的な分散配置により運用される。
主要な艦隊群司令部は以下の都市に置かれる。
•シドニー(司令本部):第二区全体の指揮・補給・整備の中枢。大型ドックと燃料基地を持ち、南太平洋域の司令塔となる。
•パース:南インド洋方面の前進拠点。西側航路の監視と補給を担い、長距離補給線の起点となる。
•ポートモレスビー:ニューギニア周辺の島嶼の守りと、南太平洋内陸への展開基地。密林・島嶼地形に特化した運用が行われる。
•パラオ:太平洋中央に近い前進観測・哨戒点。各島嶼の監視と迅速出動を担当する中継点。
•ダーウィン:北西航路と接続する防衛拠点。補給と整備、小規模修理が即応で可能なドック群を備える。
これら五か所は、海域の地理的特性と航路の要衝を考慮して選ばれており、互いに補完しあう。
たとえばパラオは中央哨戒の目となり、パースは遠距離の補給を支え、ポートモレスビーは島嶼作戦の前線基地となる。
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補助艦隊群の配備
戦闘艦隊に加え、第二区にも多彩な補助艦隊が整備される。主要なものを挙げると:
•救難隊:遭難船の救助、人命回収、被災地への緊急医療支援を担当する特別編成。沿岸および外洋双方で活動できる高速救難艇と医療設備を備える。
•補給隊:燃料、弾薬、食料の海上補給を行う専従艦群。長距離航行を支えるため、各拠点間で定期補給線を運用する。
•海洋観測隊:気象・潮流・海底地形の観測と情報収集を担う。観測船と小型調査艇、無人観測ブイの運用により、作戦行動の安全性と精度を高める。
これらは単独でも運用可能だが、しばしば艦隊群と連携して行動する。補給隊が戦闘艦の航続を支え、観測隊が気象・海況を提供し、救難隊は有事にも民生救援にも即応する。
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第二区は「遠距離展開」と「島嶼警戒」を同時に要求される海域だ。
そのため艦隊運用は柔軟性を最重視し、各司令部は相互に情報を共有しながら、迅速な再配置を行える態勢を取る。
第三区 ― 太平洋の回廊(サンディエゴ司令部)
北太平洋の中央から東岸にかけて広がる広大な海――
日本国が太平洋を「内海」と定義する中で、最も交通量が多く、
最も多くの艦が行き交うのがこの第三区である。
司令本部はサンディエゴに置かれ、
しんたいりく・太平洋航路の要として、輸送と防衛の両輪を担う。
この海域は日本本土・ハワイ・パナマ・北米東海岸を結ぶ
“命の動脈”の中継点でもある。
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第三区の編制
明賢はこの海域を「太平洋の回廊」と呼び、
最も緻密で柔軟な艦隊運用を求めた。
そのため第三区には五つの艦隊群が編成され、
各艦隊群には五個艦隊が置かれる。
一個艦隊の基本編成は以下のとおりである。
•重巡洋艦 1隻
•軽巡洋艦 3隻
•駆逐艦 6隻
この均整の取れた構成は、遠距離哨戒から船団護衛、
沿岸防衛まで柔軟に対応できるよう設計されていた。
第三区の艦隊は、**「守るために動く艦隊」**として位置づけられ、
常に海上輸送網の安全確保を最優先に行動する。
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配属される五大司令部
•サンディエゴ(司令本部):
太平洋航路の要衝に位置し、全艦隊群を統括する。
造船ドック・燃料備蓄基地・修理施設を兼ね備え、
同時に情報局の通信中継局も設けられている。
•羽合:
太平洋中央の中継基地。補給と再編の拠点であり、
有事の際には各方面へ艦隊を再配備する。
ここからの通信網は第三区全域の神経網でもある。
•アンカレッジ:
北の守りを担う寒冷地司令部。
アラスカ沿岸の防衛と、北極圏航路の監視を担当する。
冬季には海氷観測と燃料備蓄も任務の一つである。
•バンクーバー:
北米西岸の北部を統括する連絡拠点。
港湾施設と鉄道を結び、物資輸送の中継点となる。
第三区の「静脈」として、艦隊の燃料・弾薬補給を一手に担う。
•ラパス:
メキシコ半島の南端に位置する司令部。
南太平洋からパナマ運河へ続く航路を監視し、
交易船や補給艦の安全通行を確保する重要な防衛拠点。
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補助艦隊群の活動
第三区にも、各戦闘艦隊を支える多様な補助部隊が編成されていた。
•救難隊:遭難信号の受信から出動まで最速で行動する。
各司令部には専用の救難艇や小型医療艦が常駐しており、
荒天時の出動訓練も日常的に行われている。
•補給隊:燃料や弾薬だけでなく、食料や淡水も輸送。
特に羽合を中心に、千葉・パナマを結ぶ補給線を維持する。
•海洋観測隊:海流や気象、海底地形を観測し、
次世代航路設計や海底ケーブル維持の基礎データを集める。
この部隊の観測記録は、日本の海洋学発展に大きく貢献した。
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第三区の艦艇群は、日々、太平洋の波間を縫うように航行している。
ハワイを経てパナマへ、北上してアラスカへ、南下して赤道を越える――
それらすべての航路に第三区の艦旗が翻っている。
太平洋はもはや「隔てる海」ではなく、
日本と世界を繋ぐ「道」であり、その道を守るのがこの第三区だった。
第四区 ― 「二つの海をつなぐ門」
(パナマ司令部)
パナマの港を見下ろす丘の上、
新設された第四区海軍総司令部は、まだ若い太平洋と大西洋の橋渡し役として
ゆっくりと息づき始めていた。
運河の開通から間もないこの地は、
まさに**「海の分水嶺」**――。
明賢はここを「日本国が両大洋を見渡すための眼」と呼んだ。
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第四区の編成
第四区の艦隊は、太平洋と大西洋の双方を監視し、
両洋を結ぶ運河を守護する役割を持つ。
そのため、第四区には五つの艦隊群が設けられ、
それぞれに三個艦隊が配置された。
一艦隊あたりの基本編成は以下の通りである。
•重巡洋艦:1隻
•軽巡洋艦:3隻
•駆逐艦:6隻
第四区の艦艇は航行距離よりも「持久力」と「防衛性」を重視しており、
長期間の海上滞在に耐える設備が施されていた。
艦隊群以外にも、運河の安全を確保するための補助部隊が組織されている。
救難隊、補給隊、海洋観測隊――いずれも第四区においては欠かせぬ存在だった。




