物語序章 第一版 86章
新大陸日本国 ― 区画と統治の始まり
新大陸の大地に吹く風は、
日本で感じるそれとはどこか違っていた。
広く、乾いていて、どこまでも遠くまで響いていく。
線路の両脇には、開拓団が測量した新しい日本の街区が伸びていた。
彼らはただ家を建てるだけではなく、
**“国をもう一度作る”**という覚悟を持っていた。
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区画整理と都市の設計
測量士たちは日本本土から持ち込まれた測量機を地面に据え、
緯度と経度をもとに正確に土地を分割していく。
「ここが国道の中心線だ。ここから南北に五百メートル間隔で通りを走らせる。」
「東西の線路はこの緯度に合わせて――ずれは絶対に出すな。」
その指示は緻密で、まるで幾何学のようであった。
街はすべて碁盤の目のような構造で設計され、
住宅地・商業地・農地・工業区が均等に配置された。
主要道路の交差点には広場や役所を置き、
公園と学校を中心にして町を育てるように設計された。
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新たな行政区 ― “県”“町”“村”
やがて、これらの区画に日本式の行政制度が導入される。
北米大陸西部には「山番県(旧サンフランシスコ)」、
東部には「汎名県(旧パナマ)」に次ぐ新たな行政区が制定された。
各地の開拓地は県に所属し、県の下には町、そして村が置かれた。
村の役場は最初、木造の簡易建物だったが、
数年も経つと煉瓦造りの堅牢な庁舎が並ぶようになった。
町役場には必ず通信所と警察詰所が隣接して建てられ、
官吏たちは職業が分かりやすいように決められた制服を着て業務に励んだ。
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人々の分配と生活の秩序
国は移民団を到着ごとに割り振り、
職業や出身地によって均等に人を配分していった。
「この地区には大工と建設労働者を二十世帯」
「こちらには農民を三十世帯、学校用地を中央に設ける」
人々は割り当てられた土地に家を建て、
電柱や街灯、共同井戸を整備していった。
初めのうちは木造平屋ばかりだったが、
日本本土からの資材供給が整うと次第に瓦屋根の家が増え、
どの町にも「小さな日本」が姿を現した。
夜になると電灯がともり、
遠く離れた大陸の地にしては信じられぬほど整然とした街並みが浮かび上がった。
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文化と秩序の根づき
神社や寺は極力控えめに建てられた。
明賢の方針により宗教の影響は薄く、
その代わりに学校や公民館が人々の心のよりどころとなった。
町の掲示板には「教育を怠るな」「衛生を守れ」という標語が貼られ、
子供たちは朝になると国旗掲揚台の前に整列し、
「科学文明、万歳」と唱和してから授業を始めた。
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大陸に広がる日本の碁盤
上空から見れば、それはまるで巨大な模様のようであった。
どこまでも続く直線の道路、規則正しい区画、
その中心に立つ白い学校と広場。
新大陸の荒野に、
日本という文明の線が、確かに刻まれた。
南方の大地 ― 鉱脈の国、オーストラリア日本領
灼けるような日差しの下、
真っ赤な大地に鉄の匂いが立ちこめていた。
そこは海に囲まれながらも、水よりも金属に恵まれた大陸――オーストラリア日本領。
かつて荒野だった土地は、今や鉄と火の息吹を孕む鉱業の大地へと変わりつつあった。
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港から始まる街づくり
この地では、他の大陸のように緑の絨毯が広がることはなかった。
農地に向かぬ硬い土壌と乾いた風――
人々はそれを見て、静かに悟った。
「この地は穀物ではなく、鉄と石の国になる」と。
ゆえに街は、港・工場・鉱山の三点を結ぶ形で築かれていった。
港の周辺には倉庫群が並び、港湾労働者の宿舎や発電所が立ち並ぶ。
昼夜を問わずクレーンが動き、輸送船がひっきりなしに出入りした。
そこから延びる線路は、
赤茶けた大地を貫いてまっすぐ鉱山へと向かう。
その路線沿いにできた小さな町こそ、
オーストラリアの人々の暮らしの中心だった。
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鉱山の息吹
鉱夫たちは防塵マスクをかけ、機械ドリルを地面に押し当てる。
「鉄鉱、こっちも層が厚いぞ!」
「ボーキサイトの層は西側に続いてる!」
やがてトロッコに積まれた鉱石は、
ディーゼル機関車に牽かれて精錬所へと運ばれる。
鉄鉱石は溶鉱炉にくべられ粗鉄となり、
ボーキサイトは高圧電気炉で白く輝くアルミニウムへと姿を変えた。
これらは用途別に整理され、巨大な倉庫に保管される。
精錬を終えた金属の塊には、日本本土の工業規格――
**「JIS-1600」**の刻印が焼き付けられる。
その刻印は、オーストラリアが日本の産業体系に組み込まれた証でもあった。
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鉄道と輸送の血流
鉄道は鉱山から港までを繋ぐ大動脈として機能した。
貨物列車は昼も夜も休むことなく走り、
赤い砂漠を越え、精錬所と港を結んだ。
「ブレーキ確認よし!」「積み荷は鉄鋼三百トン!」
作業員たちの声が、灼けた空気にこだまする。
港ではガントリークレーンが動き、
鉄のロールとアルミを積んだばら積み貨物船がゆっくりと離岸する。
行き先は日本、そして北米の新大陸。
オーストラリアの地下資源は、
日本文明の血液として世界へと流れていった。
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砂漠の中の希望
街の中心には学校と病院があり、
発電所の蒸気を利用した温水設備が整っていた。
夜になれば、真っ暗な大地の中で街だけが白く光る。
鉱山労働者の家族たちは、
「この土地にも、いつか森ができるだろうか」
と語り合いながら暮らしていた。
その声を聞いた明賢は、報告書の端に小さくこう記した。
“この大陸は鉄の国であり、人の夢の国でもある。”
鉄と海の連携 ― 大陸を繋ぐ日本の重工業化
海を越えて、ひとつの巨大な歯車が動き始めていた。
それは、日本本土・新大陸・オーストラリア大陸の三拠点によって構成された、
かつて人類史に存在しなかった規模の産業循環網である。
その中心に立つのは、江戸改め東京湾岸工業地帯――
炎を噴く製鉄炉と、響き渡るハンマーの音が昼夜を問わず続いていた。
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【日本本土:造る大陸】
日本の沿岸部には巨大な造船所と重機工場が立ち並んでいた。
ここで生まれるのは、国家を動かす機械たち――
300メートル級の大型輸送船、陸上を削る日本国建機シリーズの新型機、
そして戦略輸送を担う軍需車両。
「このボルトひとつが、海の向こうの大地を動かす」
作業員たちはそう言いながら、
JIS規格に基づいた精密な部品をひとつひとつ組み上げていった。
これらの製品は、完成するとすぐにオーストラリアの鉄と燃料を積んだ貨物船によって、
世界各地の日本領に送り出された。
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【新大陸:耕す大陸】
一方、広大な平野が広がる新大陸では、
日本から輸送されたトラクターや重機が列をなし、
まるで地を耕す軍勢のように動いていた。
果てしなく続く農地では機械化農業が始まり、
穀物・豆・綿花などが大量に収穫される。
収穫物は直線的に延びる鉄道を通じて港へ送られ、
日本本土へ輸出された。
さらに、カナダなどの森林地帯では木材が切り出され、
新しい住宅や工場の資材として活用された。
燃料採掘地では石炭と石油の供給が始まり、
本土や新大陸の発電所を支えるエネルギー源となっていく。
「日本の灯りは、我らの大地が照らしている」
と、現地の作業員は胸を張って言った。
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【オーストラリア:掘る大陸】
そして南方の大陸では、鉄と火が支配する国が生まれていた。
鉄鉱石、ボーキサイト、石炭、レアアース――
あらゆる地下資源が掘り起こされ、精錬所の煙突からは白い蒸気が立ちのぼる。
精錬された鉄はばら積み貨物船に積まれ、
「南洋航路」と呼ばれる定期輸送路を通じて日本本土へと運ばれた。
その船のエンジンには、かつてアラスカで採掘され日本で精製された燃料が使われている。
つまり、資源が自らの力で動力を生む世界が、ここに成立したのだ。
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【三位一体の国家構造】
日本本土は「造る大陸」、
新大陸は「耕す大陸」、
オーストラリアは「掘る大陸」。
三つの大陸は、まるで心臓・肺・脳のように互いを支え合い、
ひとつの生命体のように動いていた。
港には毎日のように船が出入りし、
無線通信と有線ケーブルによって全ての拠点が結ばれ、
生産・輸送・備蓄の情報が中央政府に集約されていった。
それはまさしく、日本という名の巨大な機械文明国家の誕生であった。




