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物語序章 第一版 81章

ノーフォークを発ってから数か月。

北上する鉄路の先には、広大な平原と果てのない森が続いていた。

吹き抜ける風は湿り気を帯び、日ごとに冷たさを増していく。

彼らの目的地――それは五大湖地方。

その最初の目標が、エリー湖とオンタリオ湖への到達であった。


「線路はできるだけ真っすぐに――曲げるな、ここは新しい大陸の背骨になる!」

現場指揮官・石井大尉の声が響く。

測量隊が経緯度を計測し、地図を広げ、道筋を定める。

その指先はまるで絵筆のように、大陸の中央へ一本の線を描いていく。


地形は決して穏やかではなかった。

谷を越え、丘を削り、時には湿地帯を埋め立てて線路を敷く。

「この沼地、道床が沈む!」

「木杭を打て! 土砂を盛れ、下に石を詰めろ!」

夜には照明塔を立て、蒸気コンプレッサーの音が静寂を切り裂いた。


道の脇にはやがて木造の中継基地が立ち並ぶ。

倉庫、整備小屋、発電機室、そして仮設宿舎。

線路の延伸に合わせて、それらはまるで生き物のように次々と姿を現していった。


「ここは中継点“北一号”。次は20km先、“北二号”だ。」

「了解、通信線も同時に延ばします!」


銅線が地面を這い、やがて鉄道のレールと共に北を目指す。

有線電話でノーフォーク本部との連絡が取れるようになると、

工事はさらに効率的になっていった。


やがて冬が迫る。

降り始めた雪が鉄路を覆い、作業は難航した。

それでも誰一人として手を止める者はいなかった。


「この道の先に湖がある。

 そこまで届けば――内陸の制覇は、俺たちの手の中だ。」


寒風の中、石井は凍える手で地図を広げ、星を頼りに位置を確かめた。

北極星が天頂に輝く――

その光は、彼らが辿るべき北の道を示しているようだった。


道は一本の糸のように、まっすぐに北へ伸びていく。

それはまるで、大陸の中心に新たな文明の血管を通すような行為だった。


エリー湖――そしてオンタリオ湖。

二つの巨大な湖を結ぶ道筋は、いずれ北米内陸部の要衝となる。

彼らの手で引かれた一本の直線が、やがてこの大陸全体を結ぶ“背骨”となっていくのだった。


ジャクソンビル――湿った海風が吹き抜けるその地は、

他のどの隊よりも静かで、だが重い仕事を抱えていた。


ノーフォークのように敵対勢力との競争もなければ、ニューオリンズのように戦略上の焦燥もない。

だが彼らの任務は、**“基盤を作ること”**そのものだった。


「地平線まで続く……こんなに平らな土地があるなんてな。」

測量棒を立てながら、若い工兵が息を漏らした。

彼の視線の先には、どこまでも広がる草原。

日本本土では想像すらできない、果てのない平野が広がっていた。


現地に降り立った彼らの最初の仕事は――

道を描くこと。


上空から見れば、それは幾何学模様のように整然と並ぶ街区になるはずだった。

「一つの区画は四百メートル四方。交差点ごとに給水塔と倉庫を建てる。」

現地指揮官の図面には、まるで碁盤のように格子が引かれている。

「これなら、あとで鉄道や電線、上下水道を通す時にも迷わない。」


だが現場は、泥と汗と虫にまみれていた。

雨季が始まり、ぬかるんだ地面にトラックの車輪が沈む。

「動かねぇ! また泥にはまったぞ!」

「ウインチ持ってこい! 坂を削って固めろ!」

ブルドーザーが唸りを上げ、パワーショベルが泥を跳ね上げる。


太陽が傾くころ、格子の一辺がやっと見えてくる。

そこに杭を打ち、白線を引く。

「ここが“ジャクソン街一番通り”になる。」

工兵の一人が息を吐いた。

それは小さな線だが、やがて数万の人々が暮らす街の最初の輪郭だった。


やがて開拓民の列が港に着いた。

木材を積んだトラックが次々と陸揚げされ、

「家を建てるぞ!」という声が一斉に響く。


彼らの家は日本本土から運ばれたプレハブ住宅。

基礎を打ち、部材を組み、数時間で一軒が立ち上がる。

夕暮れ時、風が止むころには、見渡す限りに整然と並ぶ屋根の列。


灯りがともり始めると、真新しい道路の端から端まで、

まるで星座のように電球の光が繋がった。


「これが……新しい日本の街か。」

現地監督が呟く。


――この地は、かつてただの湿原だった。

だが今、格子状に走る道路と規格化された街区は、

未来の大陸都市の骨格を形作りつつあった。


まだ草の匂いが残る土地で、開拓は静かに、しかし確実に進んでいた。


ニューオリンズ隊の西進は、湿地と川の入り組む地形との戦いから始まった。

「またぬかるみだ、タイヤが埋まるぞ!」

先頭のトラックが立ち往生し、工兵たちは木の板を並べて足場を作る。

それでも少しずつ、確実に進んでいった。


やがてミシシッピ川を越え、湿地は乾いた平野へと変わる。

ヒューストン――そこには広大な草原が広がっていた。

ここに港湾を建設し、メキシコ湾沿いを南北へ繋ぐ中継地を作ることが決まった。

補給艦から降ろされた資材が次々と積み上げられ、整地が進む。

「この土地を抑えれば、南方への道が開ける。」

現地指揮官の声に、兵たちは黙って頷いた。

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