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物語序章 第一版 74章

アラスカ北線建設 ― 氷上に通う黒き血脈 ―


プルードベイの空は白く、どこまでも沈黙していた。

息を吐けば、音もなく凍りつく。

だが、その凍土の下には石油という黒い血潮が眠っている。


「ここが北緯70度線、予定ルートの起点だ。」

測量班の青年が手にしたレーザー水準器の緑光を照射し、

わずかに傾いた支柱を調整する。

彼らの背後では、雪に埋もれかけた日本国建機5号トラックが唸りを上げ、

鋼鉄パイプを積んだ荷台を震わせていた。


工事指揮官の佐伯は、赤くなった手を擦りながら地図を見下ろす。

「ここからアンカレッジまで……およそ1200キロ。

 道なき道を貫く、命の管を通す。」


有線通信班は銅線を巻き取りながら先行する測量隊を追う。

線はパイプラインに沿って敷かれ、

現場から後方基地への報告が即座に伝えられた。

「こちら第一班、支柱設置完了。第二班、配管搬入を開始せよ。」

通信音の向こうでは、わずかな雪の軋みが聞こえる。


トランシーバーは隊長と監督者だけが所持している。

吹雪の中で互いの声が届かない距離では、

唯一の命綱ともいえる機器だった。


作業は昼夜を問わず続く。

夜間、暗闇に灯る作業灯が雪原を橙色に染め、

エンジン音と金属を打つ音が遠くまで響く。

「もっと右!角度がずれてる!」

「了解、レーザー合わせる!」

小型の測定器の光が揺れながら、まるで星のように凍原を照らした。


寒気で機械の燃料パイプが凍りつくたび、

整備班は手で温めながら解氷剤を流し込み、再びエンジンをかけた。

「止めるな、燃料が凍る前に次の区間まで進む!」

隊員たちは息を白く吐きながら、

鉄製の配管を手押し台車で運び、溶接箇所を点検していった。


雪嵐に包まれ、何も見えなくなる夜もあった。

そういう時はトラックを輪にして灯を焚き、

互いに背を合わせて耐えた。

吹雪が去った朝、地面に積もった雪の上には、

まっすぐな足跡と、整然と並ぶ鉄の管が続いていた。


やがて、第一区間――プルードベイから南へ50キロのラインが完成した。

バルブが開かれると、

原油が音もなく流れ始め、金属の中を通る低い震動が地面に伝わった。


佐伯は空を見上げて言った。

「これで、氷の国にも心臓ができたな。」


その言葉に応えるように、遠くパイプライン管理局の有線通信が鳴る。

《こちら本部、第一流通確認。日本国北方輸送線、稼働を確認す。》


氷の大地を貫く一本の黒き線――

それはやがて北極の静寂を破り、

日本国の繁栄を支える血管となるだろう。


北の港湾 ― アンカレッジ石油基地建設記 ―


吹雪の隙間から、灰色の海がちらりと見えた。

湾の奥、厚い氷に覆われた岸辺には、

まだ何も建っていない。

しかしここが、北のエネルギーの玄関口――

「アンカレッジ石油港」と呼ばれる未来の都市になる。


指揮官の佐伯は、雪を払って地図を広げた。

「ここが原油の終着点だ。パイプラインはすでに北から来ている。

 あとは受け皿を作るだけだ。」


作業員たちは氷を砕きながら、鉄杭を海底に打ち込み始める。

日本国建機7号――**杭打ち機“北星1”**の轟音が湾に響いた。

氷片が飛び散り、海面に霧が舞う。

湾岸の地盤は凍りついており、杭を一本打つにも一苦労だ。


「少しでも角度を間違えると全体が歪むぞ!」

「測量班、レーザー合わせ急げ!」

岸壁には小型の発電機が置かれ、

トラックのヘッドライトと作業灯が夜を昼に変える。


貯蔵施設の基礎が完成すると、

八幡の工場で組み立てた鉄骨の円筒が次々と船で運ばれてきた。

それは高さ十数メートルもある巨大な燃料タンクの外殻だった。

クレーンが雪煙を上げながらゆっくりと吊り上げ、

正確な位置に据え付ける。

「北港タンク群、第一基設置完了!」

その報告に、現場全体がどっと歓声を上げた。


佐伯は熱で曇るゴーグル越しに、

遠くの海を見つめながら呟く。

「この港はただの補給地じゃない。

 日本国の心臓から流れ出した血を、世界へ送り出すための動脈だ。」


港の一角では、タンクへ原油を送るためのポンプ施設が建てられていた。

内部には大型の機械式ポンプと圧力計。

電子機器はほとんど使われず、すべて手動でバルブを開け閉めする。

「アナログの方が、寒冷地では確実だ。」

技師の古田が言う。

確かに電子回路はこの寒さでは凍結してしまう。


やがて、パイプラインが完成し送られた黒い液体が、

太い管を通ってゆっくりと流れ始めた。

金属音が響き、計器の針がじわりと動く。

タンクの中に、初めて原油が満たされていく。

作業員の誰もが息を呑んだ。


「流量安定。温度良好。港貯蔵タンク一号、初受入れ成功です!」

有線通信の向こうから歓喜の声が響く。


佐伯は冷たい風の中、静かに頷いた。

「よし……これで、日本国は真の意味で“資源を運ぶ力”を得た。」


港には燃料を積み込むための輸送桟橋が延び、

やがてばら積み貨物船が接岸できるように整備されていく。

船舶用の巨大ホースが取り付けられ、

未来の輸出ラインが完成しつつあった。


夕暮れ、氷の海に反射する夕日がタンク群を赤く染める。

その光景を見上げながら、佐伯は心の中で呟いた。

――北の果てにも、ついに文明の火が灯った。

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