表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/153

物語序章 第一版 70章

記録


政府の指示により、国土交通省は新たな任務を与えられた。

それは、道路や橋を作ることでも、地形を測ることでもない。

「日本という国の“今”を残すこと」だった。


全国の地方局へ、一眼レフカメラと記録用の端末が配布された。

担当者たちは最初こそ首をかしげたが、すぐにその意味を理解する。

——これから先、街も人も変わっていく。

だが、この瞬間の日本を後世に伝えるのは、自分たちの責務なのだ。


「この道も、十年後にはビルが並ぶかもしれん。」

若い職員がカメラのファインダーを覗きながら呟く。

「だからこそ、今の景色を残しておこう。道の幅も、空の広さも。」

上司が静かに頷き、撮影のシャッターが切られた。


街の全てを記録するため、彼らは幹線道路から裏路地、農村の一本道まで歩いた。

四季折々の風景を記録するため、春には桜並木を、夏には田園を、冬には雪原を撮った。

撮影されたデータは中央の記録局に集められ、

そこでは地図と照らし合わせて整理されていく。


政府はこの計画を「街の記憶計画まちのきおくけいかく」と呼び、

後にそのデータは“ストリートビュー”として

全国の変遷を追跡できる貴重な資料になる予定であった。


「百年後の日本人が、これを見て何を思うだろうな。」

ある地方局の技師が笑った。

「今の俺たちの街を、“懐かしい”と言うかもしれませんね。」

「そうだな。その“懐かしさ”を作るのが、今の俺たちの仕事だ。」


カメラのレンズが、またひとつ街角を捉える。

電線の影、子どもたちの笑顔、遠くの山。

それは一枚の写真ではなく、日本という国の“生きた記録”になっていった。


外地都市化計画


羽合拠点都市計画


羽合ハワイにおける先遣隊の拠点は、太平洋における日本の外地開発の最前線であり、

今後の全航路補給・整備の中核となることを想定して設計が進められた。


到着した技術士官たちは、まず真珠湾の湾形を詳細に測量した。

穏やかな内湾と複雑に入り組む入江を前に、港湾設計主任の柴田技監は、

地図を広げながら静かに言った。


「この湾は天然の要塞だ。ここを整備すれば、太平洋のどこへでも進める。」


■ 港湾施設の設計


港は三層構造で設計された。

最初の外縁部には大型艦艇が停泊できるように深く掘られた大型埠頭を設け、

燃料タンク・補給倉庫・発電施設を一列に並べる。


中間部には補給艦・漁船・中型船用の港湾を、

そして最奥部には小型艇や上陸用舟艇専用の桟橋を配置。

さらに倉庫群と修理工房、冷凍倉庫、無線通信塔が整然と並ぶ。


水深の浅い区域では浚渫船によって海底を掘削し、

港の形を「扇状構造」として、外洋からの波の直撃を避けるように設計された。

堤防の外側には消波ブロックが積まれ、暴風にも耐えうる強度を確保。


「ここが、すべての外地開発の“門”になる。」

柴田は潮風を吸い込みながらそう言い、海の向こうに目を向けた。


■ 都市設計と区画


羽合拠点都市は、将来的に数万人規模の居住を見込んで設計された。

中心部には総督府と日本国領事館、通信局、医療局、警備隊詰所が置かれる。

街路は江戸の放射状設計を踏襲し、真珠湾から放射状に主要道が伸び、

その外側に環状道路が巡る。


道幅は広く、将来的な自動車や鉄道の導入を見越して

片側二車線分のスペースが確保されていた。

排水溝と共同溝も同時に設けられ、上下水道・通信線・電力線を通せる構造である。


住宅区画は三段階に分けられ、

港湾労働者・警備兵・技術者・行政官のための宿舎が整然と並んだ。

建物はすべて防湿構造で、南国の高温多湿な気候に耐えるよう

外壁は防腐木材と漆喰で塗装され、屋根は軽量瓦で覆われている。


■ 電力と水の供給


発電は港の東側に設けられた小規模石炭発電所が担う。

燃料は日本からの補給船によって石炭が定期的に輸送され、

余熱は真水製造用の復水装置に利用される。

地下水の塩分を除去し、生活用水として再利用する循環システムが採用された。


■ 文化と教育


都市の中央部には「羽合公会堂」が建てられ、

娯楽・教育・宗教を兼ねた多目的施設として使用される予定である。

子供たちは日本本国から派遣された教師の下、

読み書き・算術・地理・海洋知識を学び、

やがてこの地で新たな文化を生み出すだろう。


夜になれば、港の灯が海面に映え、

遠く日本から届いた電力の光が、南洋の闇を優しく照らす。


——羽合拠点は、太平洋の新たな文明拠点としての第一歩を踏み出した。

ここから世界へ、そして日本へと通じる道が、静かに拓かれていく。


山番市サンフランシスコ拠点都市計画


羽合ハワイからの補給艦隊が北太平洋を越え、

ついに北米大陸西岸――山番市サンフランシスコへと到達した。

冷たい潮風と霧に包まれるこの地は、北米制覇の第一拠点として

最重要視されていた。


湾岸に並ぶ艦艇から次々と物資が荷下ろしされ、

整然と並ぶ仮設倉庫の周囲では技術兵や測量士たちが

忙しく旗を立てて区画を決めていた。


「ここを拠点にすれば、東岸まで一直線に抜けられる」

土木局主任の榊原が地図を広げ、赤線で描かれた大陸横断計画を指差した。

まだ草原と荒野しか広がらない大地に、

未来の鉄道と道路が描かれたその図は、まさに新時代の設計図だった。


■ 港湾と輸送網


山番湾(旧サンフランシスコ湾)は天然の良港であり、

その内湾に日本式の港湾区画が建設された。

埠頭は三段階で構成され、外縁には輸送艦と補給艦が並び、

内側には小型艦や商船が停泊できるよう整備された。


荷降ろしされた木材・鉄鋼・燃料は即座に仕分けられ、

大型トラックに積まれて内陸部へと運ばれる。

輸送は日本本国から送られたディーゼルトラック部隊が担い、

広大な平原を行き交う車列の音が、まだ静かな北米の大地に響いた。


「この道を伸ばしていけば、いずれ大陸の真ん中まで辿り着けるな。」

運輸監督の森上が言うと、榊原は笑って答えた。

「その時にはもう、ここは日本の西の玄関口になっているさ。」


■ 都市と拠点の形成


山番市は最初から大規模な都市計画のもとに築かれた。

港湾を中心に、格子状の道路を組み合わせた都市構造で、

防災・物流・居住の区画がきっちりと分けられている。


中心部には総督府・警備司令部・研究所・医療所が並び、

その外周には労働者と開拓民の住宅地が整然と広がる。

建物は木造を基本とするが、重要施設は鉄筋コンクリート製で建てられ、

湿気と自然災害に備えた構造となっていた。


湾の東側には将来の鉄道駅予定地が定められ、

そこから東方へとまっすぐ鉄道が敷かれていく計画が立てられる。

初期の路線は貨物専用で、建設資材と生活物資の輸送に使われた。


■ 開拓の始まり


この都市が完成すれば、ここを起点に北米大陸の中央――

すなわち内陸の大平原や山脈地帯へ向けた本格的な開拓が始まる。


民間人の開拓者たちも続々と受け入れられた。

「開拓局」は国土交通省の外局として新設され、

現地への移住申請や土地配分、生活支援の管理を一元化した。


若い夫婦や職人たちは、未開の土地に自らの家を建て、

農地を拓き、鉄道の延伸とともに進む新たな街を夢見ていた。


馬による偵察隊も結成され、

道路や河川、地形の調査を行い、次に敷設する鉄道のルートを見極めた。

彼らの背後には常に日本製のトラック部隊が物資を運び、

少しずつ、しかし確実に日本の文明がこの大地に根を下ろしていく。


霧の晴れた朝、山番市の港から見える太平洋の彼方には、

日本へ向かう補給艦がゆっくりと水平線の向こうに消えていった。


その光景を見つめながら、榊原は小さく呟いた。

「この大陸を、我らの手で繋ぐ日が来る――」


やがてその言葉どおり、山番市は北米大陸開拓の玄関口となり、

未来の「西方最大の拠点都市」として繁栄していくことになる。


汎名パナマ――新たな大地の中心として静かに動き始めた。

かつてスペイン人が拠点としていた町の近く、

湿地と密林が入り混じる地帯に、新たな都市の建設が始まった。


明賢がこの地に目を付けた理由はただ一つ。

「大西洋と太平洋を結ぶ、人類の動脈をここに通すため」

それが彼の言葉だった。


測量士たちは気温三十五度を超える蒸し暑さの中、

磁石と測量器を手に、予定地の地形を細かく記録していった。

地面の奥には複雑な岩盤と粘土層が眠っており、

どこを掘れば安定した水流を確保できるかを慎重に見極める必要があった。


「ここだ、海抜差が最も小さい。この区間が鍵になる。」

測量主任の佐藤が杭を打ち込み、

やがてその杭の列は未来の運河の線路のように森を貫いた。


既存のスペイン人が作った町は、すでに衰退していた。

家々は風雨に晒され、教会の鐘楼も傾いている。

明賢の指示により、新都市の完成後には旧市街の大部分が取り壊され、

わずかに残された石造りの建物だけが「旧汎名記念区」として保存されることになった。

それは再生の象徴であり、歴史を断ち切らず抱き込むという決意の現れだった。


新しい汎名の都市計画は、運河の北側中心に円弧状に展開されている。

両岸には運河管理庁の庁舎、機械工場、資材倉庫、

そして船の整備ドックが並ぶ。

街の外縁には住民の居住区が整備され、

高床式の木造住宅には湿気対策として日本で培った建築技術が活かされた。


「ここが世界を繋ぐ門になるんだな……」

若い測量士の一人が汗をぬぐいながら呟いた。

彼の視線の先、ジャングルの奥ではすでに伐採が始まり、

重機がゆっくりと鉄の腕を動かしていた。


明賢は静かに地図を見下ろし、口元を引き結んだ。

「今はまだ湿地の一角に過ぎない。

 だが数十年もすれば、この地は大陸を二分する扉となる。」


それは、世界の海路を塗り替える第一歩だった。


副嶺島(フォークランド諸島)――

地図の果て、凍てついた風が吹き荒ぶその島に、

日本の旗が静かに掲げられた。


かつてこの島を見つけた先遣隊は、

寒冷地での知識を持つ旧松前藩出身の兵たちを中心に構成されていた。

彼らは凍るような海風に耐えながら、雪解けのわずかな草原を見つめ、

ここが南方航路と南極への玄関口になることを直感していた。


「この地はただの荒野ではない。

 いずれ、南の海を守る“盾”となるだろう。」

そう言って明賢が指差した場所が、後に副嶺基地と呼ばれる場所である。


まずは港湾の建設から始まった。

氷に覆われる冬を考慮し、湾の奥深くに防波堤を築き、

大型補給艦が停泊できるような深さを確保する。

同時に、島の中央平野部では滑走路予定地の測量が行われた。

当面は滑走路として使われることはないが、

将来的に極地探索や偵察機の中継拠点として利用できるよう、

地盤を固め、地下に燃料タンクを埋設していく。


軍の施設は半地下構造を採用し、

分厚い断熱材と風除けのコンクリート壁で覆われた。

冬季の気温は氷点下十度を下回るため、

電力は大型ディーゼル発電機によって自給される。

煙突からは黒い煙が立ちのぼり、

氷原の上にわずかな暖かさの証が見えるだけだった。


島民――と呼ぶにはまだ少数の居住者たちは、

主に漁業と狩猟で生計を立てていた。

氷海で獲れる魚やアザラシの脂、

岩場に生える耐寒植物は、彼らの命を支える糧である。

日本政府はここを「極地研究と国防の要地」と位置づけ、

生活補助金を支給し、物資を定期的に輸送艦で送り届けた。


夜になると、空は一面の星で覆われ、

天の川が手の届くほど鮮明に流れる。

副嶺基地の通信士が凍える手で無線を握り、

東京の司令部に報告を送る。


「こちら副嶺。滑走路予定地の整地、完了しました。

 風速二十メートル、気温マイナス八度。

 明日の漁場調査に出ます。」


数秒の静寂のあと、

無線の向こうから上官の低い声が返ってくる。


「よくやった。――副嶺は、我らの南の目となる。」


彼の声は、寒風の向こうで小さな勇気を灯す。

こうして副嶺島は、

南極と太平洋を見渡す新たな“極地の守り神”として息を吹き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ