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物語序章 第一版 61章

ハワイへの接近


 嵐を越えて数日後、海が再び穏やかになると、

 前方に黒い影が見えた。

 「陸影、東南東の方角に確認!」


 艦橋に歓声が上がる。

 陽炎の中、緑の島影がゆっくりと近づいてくる。

 それは、ハワイ諸島――

 日本国が初めて踏み入れる異国の地だった。



ハワイ上陸


 上陸班が小舟に乗り、白い砂浜へと近づく。

 潮風が香り、南国の鳥が甲高く鳴いた。

 「……まるで楽園のようだ。」

 医務官の一人が呟く。


 しかし、明賢はすぐに指示を出した。

 「まずは水質を調べろ。

  飲めるかどうか、それが最優先だ。」


 科学班が携帯測定器を取り出し、川の水を分析した。

 「問題なし。清浄です。」

 その報告に、ようやく兵たちは顔をほころばせた。


 上陸地点には小さな集落があり、

 肌の褐色の原住民たちが驚いた表情でこちらを見ていた。

 しかし敵意はなく、むしろ好奇心のほうが勝っていた。


 通訳として同行していた言語学者の田嶋が、

 手を広げて穏やかに話しかけた。

 「我々は争うために来たのではない。

  この海を渡り、友を求めに来た者だ。」


 老いた首長が頷き、

 「海の向こうの人間が、風に乗って来たか」と笑った。


 その夜、艦隊は浜辺に小さな灯を点し、

 原住民たちと共に歌と踊りを交わした。

 兵士たちは果実と魚を分け合い、

 明賢は空を見上げながら静かに呟いた。


 「この航海が、世界と日本を繋ぐ第一歩になる――」


 海風が吹き、焚き火の煙が夜空へと昇っていった。


ハワイ先遣隊の拠点建設


 上陸から三日。

 明賢の指揮のもと、第一先遣隊――約百五十名の陸軍工兵と学術班が、

 ハワイ島から西方のオアフ島に移動した。

 湾の形が深く入り込み、天然の防波効果があり、

 背後には緩やかな丘陵が連なっている。

 「ここならば、船が幾隻も安全に停泊できる……」

 測量士の報告に、明賢はうなずく。

 「――この湾を、我らの“南洋の扉”としよう。」


 ここが、羽合(ハワイ)の湾のちに**真珠湾(Pearl Harbor)**と呼ばれる地である。


 まず彼らは簡易的な防衛線を張り、

 木材を伐り出して仮設の埠頭と見張り台を建てた。

 次に、川の近くに天幕を張り、

 発電機を稼働させて電灯を灯す。

 夜、浜辺から漏れる白い光は、

 この島では見たことのない“文明の火”だった。


 「明かりが夜を追い払う……まるで太陽を閉じ込めたみたいだな。」

 若い兵士が呟くと、隣の工兵が笑った。

 「日本では当たり前になりつつあるさ。

  だが、この島にとっては――夜が明けた瞬間だ。」



現地調査


 学術班は地形と植物、気候を調査した。

 火山性の土壌は肥沃で、雨も多く、

 将来的に農地として開発できる見込みがあった。


 「ここでパイナップルやサトウキビを栽培できれば、

  補給や貿易に欠かせぬ土地になりますな。」

 報告を受けた明賢は、すぐに地図に印をつけた。

 「農産と港の両立だ。

  将来、この島が日本国の太平洋拠点になる。」


 また、科学班は湾内の潮流を観測し、

 船の出入りに支障がないことを確認した。

 「潮の流れが穏やかだ。補給艦の常駐も可能です。」

 「ならば、ここに小規模なドックを造ろう。」

 明賢は即座に命じ、

 海軍の工兵たちは鉄骨と木材で作業を始めた。


 作られたのは小さな桟橋、燃料タンクの基礎、

 冷蔵設備のための発電小屋――

 それらは後の真珠湾基地の“原型”となる。



原住民との交渉


 現地の人々は最初こそ警戒したが、

 日本国の兵たちが略奪も暴力も行わないことを知ると、

 少しずつ距離を縮めてきた。


 首長カイレオは、明賢たちを自らの集落に招いた。

 草葺きの大きな家で、椰子の実の酒と果実が振る舞われた。

 通訳の田嶋が静かに言葉を繋ぐ。


 「我らは、この地を奪うためではなく、

  共に歩むために来た。」


 カイレオはしばし沈黙し、

 やがて深い声で答えた。

 「海の向こうから来た者たちは、

  いつも欲を持ち、我らの土地を奪っていった。

  だが、お前たちは違う。

  灯りをともしても、我らの家を焼かぬ。」


 彼は笑い、続けた。

 「この湾を“マカリ・カイ”と呼ぶ。静かな海という意味だ。

  お前たちの船がこの海に静かに泊まるなら、

  我らは歓迎しよう。」


 その夜、兵たちは島民たちと火を囲み、

 歌と踊りを交わした。

 太鼓の音が波と重なり、

 日本国の旗が夜風にはためいた。



真珠湾の夜


 月が海面に映り、白い光が揺れる。

 桟橋には燃料ドラムと木箱が並び、

 遠くでは発電機の低い唸りが聞こえる。


 「……これが太平洋の最初の灯か。」

 副官の葛城清一郎が呟いた。

 明賢は頷き、

 「そうだ。ここから南も、西も、すべてが繋がる。

  この湾を“真珠湾”と呼ぼう。

  夜の海に光る真珠のように――」


 彼の言葉に、周囲の兵たちは静かに頷いた。

 潮風が吹き、マストの旗が鳴った。


 真珠湾――

 それはまだ、ただの静かな入り江にすぎなかった。

 だがこの夜から、

 日本国が世界へ踏み出す航路の“心臓”として鼓動を始めたのだった。

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