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物語序章 第一版 57章

家という産業 ― 近代建築革命の幕開け


 国の基盤が整いつつある中で、明賢は次の課題に目を向けた。

 それは――「人々の暮らす“家”」だった。


 工場が建ち、道路が伸び、電気が灯っても、

 人が安らぐ場所がなければ文明は根づかない。

 だからこそ、住居こそが国家の“心臓”であり、

 家そのものを産業として設計する時代が始まろうとしていた。



木の再生 ― 新しい建材の夜明け


 「木は古いようで、最も進んだ素材だ。」

 そう語る明賢の指示で、まずは建築用木材の再定義が行われた。


 従来の大工任せの切り出しや加工ではなく、

 工場で正確に寸法を切り出すプレカットシステムを導入。

 これにより、大工は現場でほとんど加工をせず、

 届いた部材をそのまま組み立てるだけで家が建つようになった。


 さらに、耐火・耐荷重・防腐処理が施された新しい木材が誕生。

 木の温もりを残しながらも、火と時に耐える素材として再生された。


 「これなら、長屋の火事ももう昔話になるな。」

 清助の元で現場を監督していた大工の男が笑った。



壁と屋根 ― 雨と風を制する技術


 木の骨格に次いで、壁材と防湿・防水シートの開発が進められた。

 湿気と雨に悩まされ続けてきた日本の住宅にとって、

 それは革命的な変化だった。


 初期には、油処理を施した紙と麻布を重ねた防水シートが使われ、

 後には合成樹脂を利用した柔軟な防湿材が生産される。


 屋根材も進化した。

 当面は伝統的な瓦を使い続けるが、

 技術が整い次第、軽量セラミック屋根材プレートや

 ガルバリウム鋼板などの新素材へと切り替えられていく計画だった。


 試作品を見た技師の一人が屋根を叩いて言った。

 「音がまるで違う……これは、時代の音だ。」



都市の塔 ― 規格化されたマンションの誕生


 都市部では、明賢の主導で10階建ての鉄筋コンクリート建物が

 次々と建ち並び始めた。

 それはただの集合住宅ではない。

 都市そのものを効率的に造るための“ひとつの工業製品”だった。


 主要な基礎と柱は鉄筋コンクリートで固め、

 壁や内装は軽量木材や合板を工場で生産し、

 プレハブ方式で現場に運び組み立てる。


 工場で作り、現場で組む――

 この手法により、建設期間は従来の半分以下に短縮された。


 「家を“作る”のではない。“組み上げる”のだ。」

 建設監督官の言葉に、現場の職人たちは新しい時代の息吹を感じた。



光と水が通う家


 都市の高層住宅には、電力・都市ガス・上下水道が整備され、

 各部屋へと管が通された。

 風呂、台所、照明、すべてが一つのシステムで動く。


 まだ現代ほどの快適さはないが、

 それでも――そこに暮らす人々は「未来の匂い」を感じていた。


 夜になると、窓から灯りが漏れ、

 街の一角がまるで星空のように瞬いた。

 人々の生活は確かに進化していたのだ。


 明賢は窓辺から、その光景を見つめながら呟いた。

 「家は、文明のかたちだ。

  人が光の下で眠れる国になった。それでいい。」


第五十九章 暮らしを支える柱 ― 公共施設と教育・医療の整備


 東京が「国家の中枢」として形を取り始めた頃、

 明賢の次なる指令は、人々の生活そのものを支える仕組みの構築だった。


 それは軍でも工場でもない――。

 人が生まれ、学び、働き、病み、老いるまでを包み込む社会の“器”。

 すなわち 行政・教育・医療 の三本柱の確立である。



行政の街 ― 区と市の誕生


 江戸城を中心に放射状に広がる道路と環状線。

 それによって自然と分かれた扇状の都市構造を利用し、

 明賢は新しい行政単位――**「区」や「市」**を設定した。


 各区には区役所や市役所が建設され、

 その建物は、どれも統一された設計理念に基づいて造られた。

 鉄筋コンクリートの重厚な外観、広い玄関ホール、

 庶民でも気軽に訪れられる窓口。


 役所の中には出生届や婚姻届の受付から、

 住民票・税金・医療保険までを一括管理する仕組みが整えられ、

 まさに国民の「日常」を行政が支える時代の幕開けだった。


 「お上が遠い時代は、もう終わりだな。」

 と、ある町人が言った。

 窓口に立つ職員は柔らかく微笑みながら答えた。

 「これからは“お上”ではなく、“あなたの町の役所”でございます。」


学び舎の夜明け ― 小・中・高の設立


 関ヶ原の後、清助塾から始まった教育の灯が、

 いまや全国に広がろうとしていた。


 明賢の設計した教育制度のもと、

 小学校・中学校・高等学校が正式に設立され、

 国の基準によって建物と教員の配置が決められた。


 校舎は白い漆喰と木骨で作られ、

 広い窓からは日の光が差し込む。

 運動場には鉄製の遊具と朝礼台、

 校門には「日本国立初等学校」「日本国立中等学校」と書かれた銘板が輝いていた。


 教員は清助塾や帝国大学の卒業生が順に赴任し、

 授業では黒板が使われる。

 子供たちは紙のノートと鉛筆を手に、

 “未来”という言葉の意味を学び始めていた。


 「勉強するって、こんなに面白いんだね!」

 と声を上げる子供に、教員は穏やかに微笑んだ。

 「知ることは、強くなることだ。君たちがこの国の力になるんだ。」



都市の息づく鼓動


 やがて、区役所の鐘が朝を告げ、

 学校の校庭から子供の笑い声が響き、

 病院の灯が夜を照らすようになった。


 行政が民を導き、教育が未来を育て、医療が命を守る。

 都市はただの建物の集合ではなく、

 人が安心して生きるための有機的な仕組みとして動き始めた。


 明賢はその光景を屋敷の窓から見下ろしながら、

 静かに目を閉じ、胸の内で呟いた。


 「これでようやく、“国”が生き始めたな。」


光、北へ西へ ― 教育と医療の地方展開


 江戸の町に整然と並ぶ校舎や病院の姿は、

 やがて地方の人々の胸にも火を灯した。

 「我らの町にも、あの“学び舎”と“白い病院”を――」

 その声が全国各地で上がり始めたのである。


 明賢は、教育と医療を首都だけの特権にせず、

 日本列島の隅々にまで行き渡らせる政策を打ち出した。

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