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物語序章 第一版 54章

命を巡らせる管 ― 上下水道と衛生国家の誕生


 防災計画と都市整備が一段落すると、明賢は次なる課題に目を向けた。

 「道と建物ができても、人が生きるための“血流”がなければ国は動かない。

  水を整え、命を守る仕組みを作らねばならぬ。」


 こうして始まったのが――国家上下水道整備計画である。

 それは単なる設備の整備ではなく、国民の命と生活を支える“文明の基礎工事”であった。



水を届ける道 ― 上水道の整備


 まず取り掛かったのは、上水道の構築であった。

 全国各地で清潔な水源が選定され、ろ過と消毒を行う浄水場が建設されていく。

 水は高台の貯水塔へと汲み上げられ、重力の力を利用して各家庭へ流れる仕組みだ。


 パイプは主要道路の下に整然と埋め込まれ、

 通信線やガス管、下水管と共に共同溝の中で管理される。

 点検口からは職員が潜り、定期的に管を検査し、

 漏水や汚染が起きれば即座に修理が行われた。


 「この道の下には、もう一つの街がある。」

 工事現場を訪れた明賢はそう言い、

 地上と地下が共に“人の生”を支える国の姿を思い描いた。



汚れを清める道 ― 下水道と再生


 一方、排水の処理も同時に進められた。

 下水道は上水道と対をなす国の血管であり、

 生活排水は街の各所から地下を流れ、やがて巨大な下水処理場へと集まる。


 処理場では、汚水が沈殿・濾過・殺菌の工程を経て再び自然へと還される。

 処理水の一部は、農業用水や工業用水として再利用される仕組みも整えられた。


 そして、明賢の粋な発案により――

 下水処理場の上には公園が作られた。

 「地の下では水が清められ、地の上では人が癒やされる。」

 そう語る彼の考えは、機能と美を融合させた都市設計の象徴となった。



命を護る砦 ― 医療体制の確立


 同時期、国の衛生政策も大きく動き始めた。

 全国各地に国立病院が建設され、

 都市部から地方にかけては小規模な診療所が次々と開設された。


 医師たちは、帝国大学で免許を取得した者が中心で、

 教育を受けた若い医師たちは、派遣命令とともに全国へと散っていった。

 「どんな小さな村にも、一人の医者がいれば人は安心できる。」

 明賢の理念のもと、医療は“権力の象徴”から“国民の権利”へと変わっていった。


 診療所には薬品庫と衛生研究室が併設され、

 医師たちは治療だけでなく感染症の予防や衛生教育にも力を注いだ。



水と医の連携 ― 衛生国家の礎


 清潔な水と確かな医療――この二つが揃って初めて国は健全に育つ。

 明賢はそう信じて、各地の施設を視察して回った。

 浄水場ではフィルターを手に取り、病院では医師たちの報告に耳を傾けた。


 「病を防ぐのは薬ではない。環境だ。」

 その言葉は、多くの技術官や医師の胸に刻まれ、

 日本国が“衛生と科学の国”として歩み出す礎となった。



 やがて都市の空には悪気ではなく清浄な風が流れ、

 水は腐らず、人々の暮らしに透明さをもたらした。

 それは、かつて誰も見たことのない――清らかな近代国家の誕生であった。


人々の暮らしに水を ― 公衆衛生の始まり


 上下水道の整備が進む中で、明賢は次の課題に直面した。

 「まだ家庭すべてに水を引くには、国の力が足りぬ……。

  だが、人が清潔に生きる権利だけは、先に与えねばならない。」


 その一言を皮切りに、公衆衛生事業が本格的に始動した。



公園に息づく清浄 ― 公共水道の設置


 まず、各都市の公園が衛生拠点として整備された。

 園内には耐久性の高い鉄管が通され、

 そこから流れる水は、浄水場でろ過され消毒された“安全な水”であった。


 「井戸の水は、もはや生活の主ではなくなるだろう。」

 と語ったのは、現場監督を務める若き技官であった。


 市民たちは最初こそ戸惑ったが、やがてその便利さに感嘆の声を上げた。

 桶を担いだ母親たちは列をなし、子どもたちは蛇口から流れる冷たい水に歓声を上げた。

 それは、文明の象徴であり、国が市民に差し出した“最初の恩恵”であった。



清めと憩いの場所 ― 公衆便所の整備


 次に整備が進められたのは、公衆便所である。

 公園の一角や主要な交差点近くに耐久性のある煉瓦造の建物が設けられ、

 内部には水洗設備と簡易的な浄化槽が備えられた。


 衛生を保つため、便所の清掃や備品の補充は市の衛生局員が日々巡回して行う。

 「汚れた場所を清めることこそ、文明の証明だ。」

 そう語る局員の誇りは、やがて“清掃”を職業から使命へと変えていった。



地の下を流れる命の道 ― 雨水と下水の分離


 さらに明賢は、排水構造にも手を加えた。

 雨水と生活排水を分けることで、街の衛生を守ろうとしたのだ。


 主要道路の地下には大口径の下水管が通され、

 その上部、道端にはコンクリート製のU字溝が整然と設けられた。

 雨が降ると、水はこの溝を伝い、街を濁すことなく川や処理場へと導かれる。


 「水の流れを制する者は、街を制する。」

 これは、土木官僚たちの合言葉となった。



新しい清潔の形


 こうして、公園には水が流れ、街には溝が走り、

 人々の暮らしは少しずつ“清らかさ”を取り戻していった。

 もはや人々は濁った井戸水を恐れることもなく、

 子どもたちは裸足で公園を駆け回り、母親たちは洗濯桶を蛇口の下に置いた。


 「これが本当の文明なのだな。」

 と、ある老人が水道の蛇口を撫でながら呟いた。


 水は人を潤し、街を清め、そして国を変えていく。

 日本国の新たな清潔の時代――その始まりであった。


都市清潔のもう一つの柱 ― 廃棄物処理の確立


 水の流れが整い、人々の生活が安定すると、次に明賢が目を向けたのは「捨てることの秩序化」だった。

 街が大きくなればなるほど、そこに生まれるのは“豊かさ”と“廃棄”である。

 その両方を管理できねば、都市はすぐに腐る――彼はそう悟っていた。



ごみ集積所の整備


 明賢の指令により、各都市の通りには一定間隔ごとにごみ集積所が設けられた。

 石畳の一角に設けられたその場所には、

 木製の柵と屋根が設けられ、分別用の鉄製コンテナが並ぶ。


 「ここは街の裏の顔じゃ。だが、裏こそ美しくあれ。」

 と、清掃局の初代長官が語ったという。


 市民たちは最初は戸惑いながらも、やがて慣れていった。

 生ごみ、紙、粗大ごみ――その三つの分別が市民の日課となる。



生ごみは再び大地へ


 最初に運ばれるのは生ごみである。

 腐敗の早いそれらは、専用の収集トラックによって郊外の農地へと運ばれ、

 粉砕・発酵ののちに有機肥料として生まれ変わった。


 農協の青年たちはその肥料を手に取り、

 「これが街から戻ってきた命の糧か……」

 と、感慨深げに呟いた。


 都市と農村が、見えない回路で繋がっていく。

 それは循環の思想の、最初の形であった。



紙と木材の再生


 紙くずや古新聞は別の集積所から回収され、

 専用の再処理工場で洗浄・圧縮され、

 再び新しい紙として姿を変える。


 粗大ごみの中から取り出された木材や鉄部品も同様に再利用され、

 職人たちは「使い切る美学」を再び学び始めた。

 「捨てることは、終わりではない。始まりに還ることだ。」

 と、工場の主任が笑う。



燃えぬもの、電気へ


 そして、再利用できぬ廃棄物は火力発電所の燃料として利用された。

 焼却熱は電気へと変わり、再び街を照らす。

 ごみはもはや厄介者ではなく、“都市を動かす力”の一部となった。


 焼却後の灰もまた、埋立地の地盤改良材として再利用され、

 ひとつの無駄も出さないという思想が、国全体に広がっていく。



清掃局とごみ収集トラック


 廃棄物処理の拡大に合わせて、清掃局が正式に発足した。

 この局の下で新たに開発されたのが「日本国清掃車一号」である。

 無骨な角ばった車体に鉄板の響きを響かせながら、

 街の狭い路地を朝夕と走り抜ける。


 「燃料よし、油圧確認、集積所へ出発!」

 運転士の掛け声が響くと、朝の街にエンジン音が広がる。

 子どもたちはその姿を見て手を振り、

 人々は“街の掃除屋”を誇りの目で見送った。



清潔の循環


 こうして、街は動き出した。

 人が使い、廃棄し、再びそれが力となって還る――

 それは文明が成熟していく証であり、

 明賢の描いた「清潔なる国土の輪」の始まりでもあった。


第五十六章 都市の鼓動 ― 発電所の拡張と新たな力の源


 街の灯が増え、人の声が夜まで続くようになると、明賢は静かに天井を見上げた。

 そこには、もう満天の星はなかった。

 代わりに、電灯の光が地上の星となって瞬いていた。


 「光が増えるというのは、文明が息づくということだ。

  だが同時に、国の血が足りなくなるということでもある。」


 そう呟いた彼の机の上には、すでに新たな計画書が広げられていた。

 題して――

 『全国電力安定供給網計画』。

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