物語序章 第一版 53章
地方の息吹 ― 地方都市の再構築
地方局の設立と同時に、地方都市の再構築計画が始まった。
港町では倉庫や造船所の整備が進み、
内陸部では鉄道と道路の結節点に新たな町が生まれる。
農村にも広い道が敷かれ、収穫物を都市へと運ぶトラックが走り始めた。
地方局のひとり、九州局長の藤原は、現場で部下に語った。
「国を動かすのは江戸の命令ではない。
この土地を知る我々の足だ。山も海も、我らの仲間にしよう。」
その声に若い測量士たちは頷き、翌朝には山道を歩き始めた。
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全土統合 ― 日本列島を一枚の地図へ
各地の地方局はそれぞれの土地を整備しながらも、
最終的には本庁のサーバーに接続され、全ての開発状況がリアルタイムで記録された。
道路の延長距離、鉄橋の完成報告、地滑りの危険区域――
それらの情報が一元化されることで、初めて**日本列島は“ひとつの開発体”**として機能し始める。
「山から海まで、全てを同じ規格で繋げば、この国は止まらない。」
明賢は、巨大な地図に印された赤い線を指でなぞりながら、静かに呟いた。
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地方の夜明け
数年も経つ頃には、各地の街並みが少しずつ変わっていった。
舗装された道路には街灯が並び、農村の川には鉄橋が架かり、
雪深い地方では除雪列車が走るようになった。
そのどれもが、地方局の手によるものだった。
「江戸が頭なら、地方は心臓と肺だ。」
誰かがそう評したように、地方局は国を呼吸させる存在となった。
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こうして日本国は、中央と地方が一体で動く初めての近代国家へと形を変えていく。
計画のすべては一枚の地図から始まり、やがて人々の暮らしそのものへと繋がっていった。
大地を描き変える ― 国土造成の始まり
地方局の設立から数ヶ月後。
明賢は巨大な地図を前に立ち、筆で一本の線を引いた。
それは、海を埋め、山を削り、谷を埋める――日本列島を“生まれ変わらせる”ための線だった。
「この国を強くするには、まずは大地を整えねばならぬ。
人が暮らす場所を、未来に耐える形に変えるのだ。」
その言葉を皮切りに、全国で前代未聞の土地改良計画が始動した。
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土地の再構築 ― 山を削り、海を埋める
東京では城下を中心に、周囲の丘陵が次々と削られ、
削り取られた土砂は東京湾沿岸へと運ばれて埋め立てに使われた。
かつて入り組んでいた入り江や湿地は、やがて平坦な地に変わり、
広大な工業地帯や住宅地へと姿を変えていく。
「ここは、未来の町の土台になる。」
現場監督がショベルを握る若者たちに声をかけると、
彼らは誇らしげに頷き、汗を流した。
彼らの足元には、百年先の都市が眠っていた。
地方でも同様に、山を削って道路を通し、谷を埋めて鉄道を敷く。
九州では港の後背地を整地し、四国では山間を抜ける道を切り開く。
日本列島そのものが、まるで巨大な工作機械の上で再設計されているかのようだった。
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平野を作る者たち ― 土木軍団の誕生
この事業を支えたのは、各地方局に所属する土木開発部の人々だった。
彼らは“土を動かす軍隊”と呼ばれ、国中の造成工事を担った。
ブルドーザーやパワーショベル、ロードローラーが唸りを上げ、
昼夜を問わず掘削と整地が続いた。
「山は敵ではない、材料だ。
土もまた国の資源である。」
現場ではそう語られ、掘り出された土砂はトラックで運ばれ、
やがて海を埋める基礎材や、新しい都市の地盤へと姿を変えていった。
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失われた地と生まれた地
埋め立てによって消えた入り江もあれば、
新たに生まれた半島や陸地もあった。
土地の形が変わるたび、地図も書き換えられた。
「国が呼吸しているようだ」と誰かが呟くと、
明賢は小さく微笑み、こう答えた。
「そうだ。大地は生き物だ。
今、我々はその身体を整えている。」
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大地の完成へ
数年が経ち、東京湾沿岸には広大な平地が広がり、
そこには工場、港、鉄道、そして未来の空港用地が並んだ。
地方でも、平野が増え、洪水の危険が減り、
農地も住宅も安全に築けるようになった。
山は削られ、海は埋まり、谷は平らになった。
しかしそれは自然を壊すのではなく、人と自然を共に活かすための改良だった。
大地が整い、ようやく「国土」という舞台が完成する。
その上に、明賢の描く未来の日本が立ち上がろうとしていた。
都市の呼吸 ― 公園の配置構想
公園は、ただの広場ではなかった。
都市部には、数百メートルごとに小型公園を、
そして主要街区ごとに大型公園を設置する方針が立てられた。
小型公園には滑り台やベンチ、木陰の散歩道があり、
市民が日常の中で呼吸を整える場所となった。
一方で大型公園は、緑の海のように広がり、
避難所としても機能する国家防災拠点の顔を持っていた。
地図上では、緑の点が都市のあちこちに浮かび上がる。
それはまるで、人々の命脈を守る“都市の肺”のようだった。
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鉄と緑の避難所 ― 公園防災施設
各公園の中心には、耐震構造の鉄筋コンクリート製避難棟が建てられた。
見た目は控えめな平屋や二階建ての建物だが、内部には驚くほどの備えがあった。
広い貯水タンクには飲料水が、
倉庫には数百人分の保存食と医療用品が保管され、
外部電源が絶たれても、太陽光パネルと蓄電池で最低限の電力が確保できた。
「ここは人を癒やす場所であり、守る場所でもある。」
設計を担当した清助塾出身の建築官が、
完成した避難棟の扉を開けながら静かに言った。
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日常と非常の狭間で
昼間、公園には子どもの笑い声が響き、老人が日向で囲碁を打つ。
夜になると、街灯に照らされた道を、犬を連れた市民が歩く。
誰も知らないが、その足元の下には貯水槽が眠り、
ベンチの近くの倉庫には災害時用の発電機が格納されている。
日常と非常が、同じ場所に共存していた。
それこそが、明賢が描いた理想の都市の姿だった。
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緑の国家構想
明賢は地図を見ながら満足げに言った。
「この国の緑は、ただの飾りではない。
生きる力そのものだ。木々は息をし、人を守る。」
公園は次第に都市をつなぎ、やがて人々の心までも結んでいく。
防災施設であり、学びの場であり、安らぎの空間――
それはまさしく“緑の国家構想”の第一歩だった。




