物語序章 第一版 52章
国を動かす脈 ― 国土交通省の再編成
橋が川を越え、トンネルが山を貫いたその頃、
次なる課題は「管理」だった。
線路も道路も、日ごとに延びていく。
地図に描かれた線は、やがて日本列島を覆うほどになり、
誰かがその全てを把握しなければならなかった。
ある日、官公庁街の一室で、明賢は重臣たちを前にして静かに言った。
「道が増えるのは良いことだ。
だが、統べる手が無ければ、国は自らの足に絡まる。」
この一言をきっかけに、国土交通省の再編成が始まる。
それまで一枚岩だった組織を、機能ごとに分割し、
より専門的で迅速な行政運営を目指すことになった。
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道の守り手 ― 主要道管理局
まず創設されたのは、主要道管理局。
全国を走る都市間連絡道路、いわば国の血流を担う“動脈”を管理する部署である。
工兵出身の技術官や測量士、道路補修の専門職たちが集められ、
日々の巡回と整備が始まった。
「ここが傷めば、国の足が止まる。」
現場を視察した明賢が呟くと、職員たちは背筋を伸ばした。
彼らの仕事は単なる修繕ではない。
国の動きを絶やさぬための守護そのものだった。
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鉄の道を見守る者 ― 鉄道管理局
次に設けられたのは、鉄道管理局。
線路の保守から車両の運行管理、信号・通信設備までを一括監督する。
駅ごとに連絡所を設置し、鉄道運行表と貨物輸送計画を中央へ報告。
データはパソコンを通じて本庁に集められ、即座に分析される仕組みだ。
駅員も整備士も皆、同じ意識を持つ。
「一本のレールに、百万人の生活が乗っている。」
それが彼らの合言葉だった。
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都市の心臓 ― 都市道路局
都市部では、通りが整備されるたびに、交通量が増え、道が混み始めた。
それに対応するために設置されたのが、都市道路局である。
歩道の設置、信号機の配置、交差点の拡張――。
市民が安心して歩ける街を目指し、現場の調査が毎日のように行われた。
「この道を子供が笑って渡れるようにしよう。」
若い技官のその一言に、現場の空気が柔らかくなった。
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未来を描く筆 ― 都市計画局
そして国土交通省の中でも最も静かで、最も壮大な部署――都市計画局。
ここでは都市の未来図が描かれ、十年、百年先を見据えた設計が行われる。
高架鉄道の延伸ルート、住宅区の配置、公園と避難路の計画。
まるで絵師が一枚の大地に線を描くように、設計図が広がっていく。
「この線の先に、人の暮らしが生まれる。間違えれば、苦しみも生まれる。」
そう明賢が語ると、若き設計官たちは黙って頷いた。
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鉄と地の建築士 ― 橋梁・隧道設計局
最後に創設されたのが、橋梁・隧道設計局。
全国に橋とトンネルを建設する専門機関である。
河川や山脈を前に立ち止まることなく、
常に“次の道”を開くことを使命とした。
「橋は人を結び、トンネルは人を近づける。
我らの図面一枚が、国の未来を繋ぐ。」
その信念のもと、地図に線が描かれるたび、
日本列島は一歩ずつ“ひとつの国”へと形を変えていった。
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こうして国土交通省は、単なる行政機関ではなく、
大地の鼓動を刻む機械仕掛けの心臓として動き始めた。
机上の計画も、現場の泥も、すべては同じ目的へと向かっていた。
「人が行き交い、物が流れ、国が呼吸する――そのための道づくり」。
それが、明賢がこの時代に残したもう一つの理想だった。
大地に枝葉を伸ばす ― 地方国土交通局の設立
江戸にある国土交通省の灯は、すでに限界を迎えつつあった。
地図の上には新たな線が増え続け、橋、鉄道、道路、住宅、港――。
報告書の束は日ごとに厚みを増し、各地からの要請は山のように積み上がっていく。
ある日、深夜まで明かりの消えぬ本庁舎の中で、明賢は窓の外を見つめながら言った。
「この国の形は、江戸だけでは作れない。
国土全体が一つの機械ならば、各地に歯車を置くべきだ。」
こうして――地方国土交通局の設立が正式に決定された。
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分権の始まり ― 地方局の誕生
地方国土交通局は、江戸を中心とする本庁から分岐し、
北海道、東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州の八つの地方に設置された。
各局には道路、鉄道、都市計画、河川、港湾、災害対策の各課が揃い、
現地の地形と気候に合わせた開発が始まった。
「山を削るのではなく、山と共に生きる道を作れ。」
「雪を敵と思うな、利用する術を学べ。」
明賢の言葉は、各地の職員にとって戒めでもあり誇りでもあった。




