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物語序章 第一版 51章

道を描く者たち ― 日本国道路計画の幕開け ―


 鉄道網の整備が軌道に乗り始めたころ、

 明賢は次の地図を机の上に広げた。

 そこには、古くからの街道が複雑に絡み合い、

 まるで時代の名残そのもののように蛇行していた。


 「この道では、文明は進めぬ。

  道は血管だ。詰まれば国が止まる。」


 静かに呟いたその言葉に、

 側に控えていた国土交通省の若き技師が頷いた。

 こうして、道路再編計画が正式に動き出した。



直線の理 ― 旧街道の改良


 まず手をつけたのは、曲がりくねった旧街道だった。

 馬車が通るたびに泥に沈み、雨が降ればぬかるむ。

 道幅も狭く、馬二頭がすれ違うのもやっとだった。


 測量隊が平野を駆け回り、地形を精密に記録していく。

 「ここを削れば真っ直ぐ通せます」

 「橋脚を三本増やせば、この湿地も越えられる」


 まるで布を裁断するように、道は直線的に整えられていった。

 旧時代の街道は徐々に姿を消し、

 代わりに、真新しい黒いアスファルトの道が、

 未来へと続く一本の線を描いた。



計画都市の道 ― 江戸を中心に広がる輪


 都市部、特に江戸では、道という概念から作り直す必要があった。

 もともと農地と荒地が広がるだけで、

 人々の生活を支える道路はほとんど存在しなかったのだ。


 「最初から整えてしまえばいい。未来のために。」

 明賢はそう言って設計図を描き直す。


 江戸城を中心に放射状の道路が伸び、

 それを結ぶように環状道路が設けられた。

 この構造は、後の時代に“東京の骨格”と呼ばれることになる。


 主要道路の幅は広く、

 両側には将来の拡張に備えた余白が取られていた。

 「道は広ければ防災にも役立つ。

  人が逃げる空も、火が広がらぬ距離も必要だ。」


 その設計思想は、都市計画にも深く根づいていった。



地下の文明 ― 共同溝と未来の空間


 新しい道の下には、もうひとつの“国”が作られた。

 上下水道管、ガス管、通信ケーブル――

 それらを整理し、共同溝として一括して埋設する構造だ。


 「掘り返す手間をなくせば、未来が保たれる。」

 そう語ったのは、明賢直属の設計官・川嶋だった。


 各主要道路には、将来地下鉄を通すための空間予約も施された。

 地下はすでに未来を見据えた構造になっていたのだ。

 地上では工事が続き、地中では文明の礎が築かれていく。



国の背骨 ― 道が結ぶ明日


 やがて、道路網は東京から全国へと広がった。

 主要道路は“未来の高速道路”を想定して作られ、

 地方にも同じ規格で広がっていく。


 真っ直ぐに伸びる新道の上を、

 馬車やトラックが行き交い、

 その轍がやがて車道の基準となった。


 夜、現場の明かりを見上げた若い作業員が言った。

 「先生、この道の先に何があるんです?」

 明賢は微笑み、遠くの灯りを見つめながら答える。


 「この道の先には、未来の日本がある。」


橋の時代 ― 鉄の弦が空を渡る


 道路が大地を貫き始めた頃、次に立ちはだかったのは「川」だった。

 東京近郊にはいくつもの中規模河川が流れ、そのすべてが交通の壁となっていた。

 だが、明賢は静かに地図を広げ、指先で河川をなぞる。


 「この流れの上に、鉄の弦を張ろう。」


 その言葉から、橋梁計画が正式に動き出した。

 最初に選ばれたのは荒川、そして多摩川――。

 都市近郊の主要河川を中心に、鉄骨構造の鉄橋が次々と建設されていった。


 橋脚は鋼鉄とコンクリートで作られ、

 地中深くまで杭を打ち込み、地震にも耐えうる強度を持たせた。

 川の両岸では、昼夜を問わず火花が散り、

 新しい文明の象徴が少しずつ姿を現していく。


 「先生、こんな重い橋が、本当に持つんでしょうか」

 若い職人が汗を拭いながら尋ねると、明賢は穏やかに答えた。

 「人が信じる構造は、やがて信頼という礎になる。

  橋は人を繋ぐものだ、鉄でも、心でもな。」


 完成した橋の上を最初の馬車が渡る日、

 人々は立ち止まり、川面に映るその姿を見上げた。

 まるで空に架かった“鉄の虹”のようだった。


山を貫く道 ― トンネルの誕生


 次に取り組まれたのは山岳地帯。

 特に東京から甲府、長野へと抜ける道は、

 山に阻まれ、物流と移動の最大の難所とされていた。


 「山を越えるのではなく、山を貫け。」

 明賢がそう告げると、技師たちは一斉に顔を上げた。

 トンネル――それは当時の日本にとって未知の挑戦だった。


 最初に試されたのは、東京西部・奥多摩の山腹。

 掘削には新しく採用されたドリルマシーンと火薬と鋼製ドリルが使われ、

 中には鉄やコンクリートで出来たセグメントなどの枠で支えられた坑道が、徐々に深く延びていく。

 湿気、崩落、酸欠――すべてが命を賭けた作業だった。


 「この闇の向こうに、光がある」

 現場監督が坑内で叫ぶと、掘削音が響き、

 やがて向こう側の空が見えた瞬間、

 作業員たちは泥だらけの手で互いに肩を叩き合った。


 トンネルは単なる道ではない。

 それは“地形という宿命を超える意志”そのものだった。



橋とトンネル ― 国を繋ぐ二つの手


 やがて鉄橋は百を超え、トンネルは山々を貫いた。

 それぞれの構造物には番号と名称が与えられ、

 **「日本国橋梁第1号」や「日本国隧道第3号」**のように記録されていった。


 それは単なる土木工事ではない。

 日本という国そのものを“物理的に繋ぐ”壮大な事業だった。


 「橋は流れを越え、トンネルは壁を越える。

  我らの道は、もはや大地の制約には縛られぬ。」


 明賢の言葉は、設計官や職人たちの胸に深く刻まれた。

 こうして、日本国の交通基盤は大地と共に形を変え始めた。

 その地に鉄の響きが鳴り、

 文明の列車がいつか通る未来を、誰もが確信していた。

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