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物語序章 第一版 47章

日本国建機七号 コンクリートミキサー《白鯨はくげい》 一世代型


 「見ろよ……まるで船のエンジンみたいな音だ。」

 建設現場に重低音が響く。

 巨大な回転ドラムを背負い、ゆっくりと姿を現したのは

 日本国建機九号――コンクリートミキサー《白鯨》一世代型。


 その名の通り、真っ白なボディと堂々たる体躯を誇る姿は、

 まるで大海を泳ぐ白い鯨のようであった。


 清助が回転数を確認しながら呟く。

 「ドラム回転、毎分十五。撹拌安定。……よし、理想だ。」

 後方の吐出口から滑らかに流れ出すコンクリートは、

 港湾の基礎を形成する生命の血液のように見えた。


 「清助、これなら埋め立て地の整地もすぐに進むな。」

 明賢がノートを閉じながら言うと、清助は頷いた。

 「ええ。この白鯨が百頭もいれば、

  一年で東京湾全体を作り変えられるでしょう。」


 《白鯨》は、港、橋梁、道路、発電所――

 あらゆる構造物の心臓部を担う建機として設計された。

 内部は単純な機械式撹拌構造で、整備も容易。

 作業員たちはその低い唸り声を聞くたびに、

 「鯨が歌ってやがる」と言って笑った。


 その白い影が現れる場所には、

 必ず新しい街が生まれる――

 いつしか《白鯨》は「文明の舟」と呼ばれるようになった。



日本国建機八号 パイルドライバー《雷鎚らいつい》 一世代型


 地を叩く轟音が山々にこだました。

 日本国建機十号――パイルドライバー《雷鎚》一世代型。

 その役目は、建物や橋梁の基礎を地中深く打ち込むこと。

 「大地を貫く雷」とも呼ばれた怪物だった。


 操縦席の横で、清助が耳を塞ぎながら叫ぶ。

 「音圧……すげえな! 近くにいると腹が震える!」

 源太が笑って返す。

 「それだけ地面に響いてる証拠だ!」


 巨大なハンマーがゆっくりと上がり、

 次の瞬間、地響きを立てて杭を打ち込む。

 そのたびに土埃が立ち昇り、空気が震えた。


 明賢は少し離れた丘の上からその光景を見つめながら、

 「この音こそ、未来の礎だ」

 と静かに言った。


 《雷鎚》は、あらゆる建設の基礎を支える建機として欠かせない存在だった。

 電子装置は最小限に留め、全てが機械式油圧制御。

 現場では、杭が地中深く消えるたびに、

 「雷が落ちた」と作業員たちが言い合う。


 この機械の登場によって、東京の高層建築計画が一気に加速した。

 やがて港の桟橋も、発電所の煙突も、

 《雷鎚》の一打ちから始まるようになった。


 清助は記録を取りながら呟いた。

 「白鯨が地を築き、雷鎚がそれを支える……。

  この国の骨格が、今、出来上がっていく。」


日本国建機九号 ショベルローダー《鋼猿こうえん》 一世代型


 朝霧の工事現場、まだ地面に夜露が残る中、

 ガシャン――と鉄の腕が動いた。

 日本国建機十一号、ショベルローダー《鋼猿》一世代型である。


 その動きはまるで森を駆ける猿のように俊敏で、

 重機でありながら小回りが利き、

 狭い現場でも自由自在に動くことができた。


 操縦席に座るのは、若い整備員の源太。

 「前進! 積み込み角度、五十五度!」

 清助が指示を出す。

 鋼の腕が地面をえぐり、砂利をすくい上げると、

 軽々とトラックの荷台に放り込んだ。


 「すげえ……まるで人の腕みたいに動く!」

 と作業員の一人が叫ぶ。

 明賢は笑いながら答えた。

 「だから《鋼猿》だ。力強く、賢く、そして器用に働く。」


 《鋼猿》はブルドーザーやダンプに比べると小型だが、

 その多用途性は群を抜いていた。

 資材の運搬、残土の整理、雪かきや資材の積み上げ――

 現場に一台あれば、あらゆる作業が可能だった。


 「一番使える奴は、いつだって一番地味なんだ。」

 清助がそう言いながら笑う。

 この建機は現場の縁の下の力持ちとして、

 のちに全国の建設現場で“現場の猿”と呼ばれ愛されることになる。


日本国建機十号 タンクローリー《水神すいじん》 一世代型


 昼下がりの炎天下。

 砂煙の中をゆっくりと進む巨体があった。

 日本国建機十二号――タンクローリー《水神》一世代型。


 銀色の胴体が陽光を反射し、まるで流れる水そのもののようだった。

 燃料や水を大量に運搬するためのこの車両は、

 新しい都市建設の“血管”と呼ばれた。


 「積載、満水確認。ポンプ、圧力安定!」

 と清助が声を張る。

 車体後部では、巨大なホースから水が勢いよく吹き出し、

 乾いた地面を潤していく。


 明賢はその光景を見て言った。

 「この水があるからこそ、人は荒野に街を作れる。」

 《水神》は単なる輸送車ではなかった。

 建設現場の粉塵対策、コンクリート製造時の水供給、

 さらには非常時の消火や給水にも使用できるよう設計されていた。


 「まるで神のように水を運ぶな……」

 作業員の呟きが、そのまま愛称となった。


 内部構造は単純な機械式ポンプで、

 燃料を積めば油輸送車にも変えられる多用途仕様。

 港湾や工場、さらには軍の補給部隊でも使用が想定されていた。


 その日、夕焼けに染まる中、

 《水神》の銀色の胴体が光を反射し、

 まるで神の使いが街へ恵みを運んでいるように見えた。


日本国建機十一号 トンネル掘削機《黒龍こくりゅう》 一世代型


 山間を貫く闇の中、轟音が鳴り響いた。

 それはまるで、地底に眠る龍が目を覚ましたかのような音だった。

 日本国建機十三号――トンネル掘削機《黒龍》一世代型。


 全長二十メートルを超える巨大な円筒の先端には、

 鋭いカッターヘッドが取り付けられている。

 機械が唸るたびに火花が散り、岩肌が削り取られていく。


 「回転速度、安定。削孔角度、誤差一度以内!」

 清助の声が坑道に響く。

 トンネルの奥から噴き出す粉塵と熱気に包まれながら、

 作業員たちは息を呑んでその動きを見守った。


 「まるで龍が山を食ってるみてぇだ……」

 源太の呟きに、明賢は静かに頷いた。

 「そうだ。龍が道を開け、人がその背を通る。これが文明だ。」


 《黒龍》は、単なる掘削機ではない。

 岩盤を削るだけでなく、後方で即座に支保工を設置し、

 掘り進めながら同時に壁面を補強できる構造を持っていた。

 機械式油圧と歯車機構を組み合わせた複雑なシステムで、

 電子制御のない時代においては奇跡的な精度を誇った。


 坑口を見守る清助は汗を拭いながら言う。

 「これで山を越えずに通れる……鉄道も電線も、この道を通すんだ。」

 明賢は静かに笑った。

 「地を割き、道を作る。黒龍こそ、この国の“地下の刀”だ。」

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