物語序章 第一版 46章
日本国建機三号 クレーン《天梭》 一世代型
「見ろ、あれが空を掴む腕だ」
清助が指差した先、巨大な鉄骨フレームの上で、一本のブームがゆっくりと立ち上がっていく。
それは、まるで鋼鉄の梢が空に手を伸ばしているかのようだった。
日本国建機三号――クレーン《天梭》一世代型。
“天梭”の名は、「天を貫く矛」という意味を込めて明賢が名付けた。
東京湾沿岸で始まった港湾建設の本格化に合わせ、重い鋼材や資材を持ち上げるために作られた国家初のクレーンである。
「旋回軸、固定。吊り上げ準備、良し!」
作業員の号令が響くと、油圧の唸りが地を震わせた。
鉄骨のワイヤーが伸び、十トンの鋼板がふわりと宙に浮かぶ。
周囲の職人たちは思わず息を呑んだ。
「こいつがあれば、船体の組み上げも数日で済むな……」
「まるで巨人の腕だ」
明賢はブームの先端を見上げながら、
「これはただの機械ではない。“建設”という文明の象徴だ」
と静かに言った。
彼の中では既にこの機械が、港・造船・橋梁――すべての未来の基盤になることが見えていた。
溶接機の火花が飛び、風に吹かれて舞う灰の中、
《天梭》は鋼材を次々と持ち上げていった。
その姿はまるで“人の知恵が空を掴もうとする瞬間”そのものだった。
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日本国建機四号 ロードローラ《雷槌》 一世代型
地を押し固める音が、工事現場一帯に低く響く。
日本国建機四号――ロードローラ《雷槌》一世代型。
大地を叩き固めるために作られた鉄の巨体だ。
「エンジン回転数、安定。ローラー温度、正常。」
整備士が計器を見ながら報告する。
《雷槌》のエンジンは、ブルドーザー“大地”と同じ機械式ディーゼルを基に設計されていた。
巨大な鉄の円筒がゆっくりと回転し、地面を押しつぶすたびに、
まるで雷が遠くで鳴っているかのような低音が地中に響く。
「これがあれば、舗装路が長持ちするな。」
現場監督が笑いながら言う。
「いずれは車が何千台も走る道を、この機械が作るんだ。」
作業員の言葉に明賢はうなずき、足元の固まった路面を踏みしめた。
《雷槌》の名は、“雷神の槌”に由来する。
固い地盤を象徴し、国の礎を支える存在として命名された。
舗装路網の整備を支え、やがては空港や高速道路の造成にも使われる。
それは単なる工事機械ではなく、“日本という未来都市を叩き締める槌”そのものだった。
「この音が聞こえるか?」
明賢が清助に言った。
「これはただの機械音じゃない。文明が前へ進む音だ。」
夕暮れの光の中、鉄のローラーがゆっくりと回転を止めた。
地は確かに固まり、そこに新たな道が一本、誕生していた。
日本国建機五号 ホイールローダー《剛熊》 一世代型
「うおおっ、動いたぞ!」
工場の試験場で歓声が上がった。巨大な車輪を持つ建機が、土砂を山ごとすくい上げる。
それが日本国建機五号――ホイールローダー《剛熊》一世代型である。
全高三メートルを超える鉄の巨体は、まるで山の熊が地を掘るかのような姿をしていた。
前面に取り付けられた巨大なバケットは油圧シリンダーで可動し、
一度に数百キロの砂利をすくい上げる。
設計主任の清助が計器を見つめながら言った。
「油圧系統、異常なし。トルク軸も安定……いい出来だ。」
明賢はゆっくりと車体に手を触れ、微笑む。
「この力があれば、どんな地形でも人の手で形を変えられる。」
《剛熊》の名は、荒地をものともせず押し進む力強さから取られた。
作業員たちは口々に「熊が土を喰う」と噂し、
実際にその光景を目にした者は、誰もがその異様な迫力に息を呑んだ。
この機械が完成したことで、建設現場の効率は飛躍的に向上した。
川の改修、港湾の埋め立て、道路造成――
どの現場でも《剛熊》の唸るようなエンジン音が響き渡る。
「まるで大地が吠えているみたいだな。」
と作業員が言うと、明賢は笑って返した。
「その声こそ、文明の胎動だ。」
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日本国建機六号 フォークリフト《鶴翼》 一世代型
倉庫の中、軽やかに荷を運ぶ鉄の翼があった。
日本国建機六号――フォークリフト《鶴翼》一世代型。
その姿は他の重機とは対照的に、小型で機敏。
しかし、動きはまるで舞うように滑らかだった。
「荷重一トン、持ち上げ確認。」
整備士が報告する。
フォークの先端が静かに上昇し、木箱を持ち上げて棚に収めた。
それは、人の代わりに働く“倉庫の鶴”であった。
《鶴翼》の特徴は、極めて精密な油圧制御。
操縦桿一つで滑らかな上げ下げができ、狭い倉庫内でも容易に動ける。
燃料は軽油で、エンジンはブルドーザー《大地》を小型化した特注品だ。
明賢はフォークリフトの操縦席に乗り、そっとレバーを握った。
「人の手でやれば一時間。だが、これなら数分で終わる。」
清助が笑って答える。
「この子がいれば、倉庫番はもう腕力自慢じゃ務まりませんね。」
「そうだな。これからの労働は“力”ではなく“仕組み”の時代だ。」
《鶴翼》はまさにその象徴だった。
物流の自動化と倉庫整備の第一歩――
そしてこの機械は、後に各都市の駅や工場の構内に必ず配置されることになる。
静かな倉庫の夕暮れ、
フォークが上がるたび、影が壁に長く伸びる。
それはまるで、未来へ羽ばたく鶴の翼のようであった。




